野村総合研究所 情報技術本部
主任研究員 田中 達雄
2005/9/9
昨年から今年にかけリッチクライアントは普及期に入ったと筆者はみている。現在、数多くのリッチクライアントが提供されるとともに適用件数も増加傾向にあり、今後ともリッチクライアントの普及率は増加していくだろう。 そんなリッチクライアントであるが、これまでにあまりにも多くのリッチクライアントが登場し混沌(こんとん)とした状態にある。今後成熟期を迎えるに当たり、いくつかのリッチクライアントに淘汰されていくとは思うが、まずは、現存する多くのリッチクライアントを分類し、その特徴を整理していきたいと思う。 |
成熟期を迎えるリッチクライアント市場 |
リッチクライアントはご存じのとおり、操作性の悪いHTMLベースのクライアント(以後、「HTMLクライアント」と呼ぶ)に対するソリューションの1つとして進化を遂げてきた。そのため、HTMLクライアントが適用された対象領域ごとに異なる進化を遂げている。1つはイントラネットの世界への適用、もう1つはインターネットの世界への適用である。
イントラネット世界におけるリッチクライアントは、主として「利用者の生産性維持/向上」を目的に進化し、インターネット世界におけるリッチクライアントは、主として「表現力、エンターテインメント性、User Experience性向上」を目的に進化してきた。
図1 リッチクライアントの対象領域と目的 出所)野村総合研究所 |
生産性重視のイントラネット・リッチクライアント |
インターネットプロトコル普及当初のWebシステムは、Webブラウザを使ってHTMLで書かれた静的なコンテンツを閲覧するだけのものがほとんどであったが、C/S型のシステムが抱えていた運用面の課題(クライアント・プログラムや実行環境の配布等)を解決できるとの評価から、次第に既存のC/S型システムのWeb化が進められるようになる。
しかし、HTMLをWebブラウザで表示するだけのHTMLクライアントでは、高い操作性/機能性の作り込みが困難であるのに加え、Webブラウザの製品やバージョンの違いによる表示/機能の違いが問題となった。これらの問題は、HTML拡張(Dynamic HTMLなど)、新技術(ActiveX、Java Appletなど)、標準化(W3Cなど)により改善が試みられるが、期待したほどの効果は得られず、高い利用者生産性が求められるC/S型システムのWeb化は控えられ、高い利用者生産性を必要としないほかのシステムにHTMLクライアントが適用されていった。
しかし、その後もシステムのWeb化の進展は止まらず、それまでWeb化できなかったシステムもWeb化したいとのニーズは、ユーザー企業で高まりを見せる。それに対しベンダ側では、ベンダごとに創意工夫が重ねられ、C/S型システムに劣らぬ操作性/機能性を実現し、利用者の生産性維持/向上を可能にするリッチクライアントが登場するに至る。
代表的なリッチクライアントには、Java Web Start機能を備えたJavaアプリケーション、.NET Frameworkを実行環境とするWindows Formが挙げられ、従来のC/S型システムのクライアントとして利用されていた技術の延長線上に位置している。
見栄え重視のインターネットのリッチクライアント |
インターネットの世界でも、インターネットプロトコル普及当初は、Webブラウザを使ってHTMLで書かれた静的なコンテンツを閲覧するだけのものがほとんどであった。利用者は、一般消費者であり、インターネットを通じて提供される情報には、広告媒体としての役割もあり、自社商品/サービス、ブランドを強く印象付け、かつ魅力あるサイトとして継続して閲覧してもらうための創意工夫が必要となった。一般消費者から見た印象を良くするためには、まず「見栄え」は重要であり、美しい色彩のイメージデータやアニメーションなどが多用された。
その一方で、Eコマース、ネットバンキング、ネットトレーディングなどさまざまなサービスが、インターネットを通じて提供され始め、単に「見栄え」だけでなく高い操作性/機能性を含むUser Experience性が重視されることになる。「見る」から「使う」さらに「体験する」への変化である。
Experience性とは、「ある目的を達成する過程をも楽しむことができる。」ことであると筆者は理解している。例えば、「株の売買をする」「本を買う」「航空券を買う」といった最終的な目的を単に味気なく達成するだけでなく、その過程自体をビジュアルに楽しく操作でき、楽しみながら最終的な目的までたどり着くようにしたものである。 |
ちなみに「見る」の段階では、商品やサービスの紹介ページを美しい色彩のイメージデータやアニメーションでビジュアル化する。「使う」の段階では、分かりやすい操作性で、最終的な目的にたどり着かせる、となる。
今後さらに多くのサービスがインターネットを通じて提供され競争が激しくなるに伴い、User Experience性はサイトを評価するうえで重要な項目の1つとなり、より一層高いUser Experience実現が要求されることになるだろう。
そんな中、この世界のリッチクライアントには、美しい色彩のイメージデータやアニメーションを取り込みつつ、高い操作性/機能性の実装が容易で、結果として高いUser Experienceの実現を可能にするポテンシャルを持つことが求められる。代表的なリッチクライアントには、Flash、Ajax(※1) 、Konfabulatorなどがある。
※1 Ajax(Asynchronous
JavaScript and XMLの略)は、XHTML、Dynamic HTML、JavaScript、XMLHttpRequestオブジェクトといった既存の技術を組み合わせたものであり、Webブラウザの制約を受けない特別な実行環境を必要とするリッチクライアントではないが、本編ではUser
Experienceを実現するリッチクライアントの1つとして位置づけることにする。 参照記事:@IT:古くて新しいAjaxの真実を見極める |
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INDEX |
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ブラウザを飛び越えて進化するリッチクライアント | ||
Page1<成熟期を迎えるリッチクライアント市場> 生産性重視のイントラネット・リッチクライアント/見栄え重視のインターネットのリッチクライアント |
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Page2<ブラウザの外へと進化するリッチクライアント/ブラウザ型リッチクライアントの普及を分析する> | ||
Page3<スタンドアロン型のリッチクライアントとは?/激化するシェア争いから今後を占う> |
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