Insider's EyeXP SP2を曲がったら、Longhornが見えてきた米MicrosoftがLonghornのロードマップを更新 デジタルアドバンテージ2004/08/31 |
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米Microsoftは8月27日、次世代Windowsとして開発を進めるLonghorn(=開発コード名)に関する新しいロードマップを発表した。
上記のプレスリリースによれば、これまで2005年中と説明していたクライアント向けLonghornの発売を2006年に延期した。マイクロソフトが最優先課題として取り組んできたWindows XP Service Pack 2(2004年8月公開)の開発が遅れていたことから、Longhornクライアントの開発遅延は多くのアナリストに必然と受け止められていたが、今回の発表はこれを公に認めたものだ。
今回の発表で重要なことは次の4点である。
- Longhornクライアントは2006年発売(従来は2005年中と説明されていた)。
- Longhornサーバは2007年発売。
- Longhornに搭載される次世代アプリケーション・インターフェイス「WinFX」の主要コンポーネントであるAvalonとIndigo(それぞれプレゼンテーション・サブシステムとネットワーク・サブシステム。いずれも開発コード名)が、現行OSであるWindows XPとWindows Server 2003向けにも提供される(2006年中)。
- Longhornクライアントに搭載予定だったWinFXのコンポーネントの1つであるWinFS(ファイル・システム)は初期のLonghornクライアントには搭載されない。2006年のLonghornクライアント発表時点ではベータ版が提供される。
つまり、次世代のWinFXインターフェイスのうち、WinFSを除くAvalon/Indigo対応のアプリケーションは、Longhornだけでなく、Windows XPやWindows Server 2003上でも実行できるようになるということだ。本稿では、今回の情報を整理すると同時に、主にシステム管理者の視点から評価してみよう。
Longhornの最新ロードマップ
今回発表されたLonghornおよびWinFXのロードマップと、これまでに分かっている既存OS向けの更新スケジュールをまとめると次のようになる。
Longhornのロードマップ |
Longhornクライアントの発売とWindows XP/Windows Server 2003向けAvalon/Indigoの提供は2006年、Longhornベースのサーバは2007年に発売される。 |
Windows XP向けには先ごろService Pack 2が提供された(日本語版は原稿執筆時点ではMSDNサブスクライバー・ダウンロードでの提供のみ)。次は2004年後半の予定で、Windows Server 2003向けの初めてのService PackであるSP1が提供される予定である。またWindows Server 2003に対しては、パッチ管理システムの新版であるWindows Update Service(現在のSUSの次バージョン)、アプリケーションのActive Directory対応を推進するActive Directory Application Mode(ADAM)、グループ・ポリシー管理ツールのGroup Policy Management Console(GPMC)、情報漏えい防止機能であるWindows Rights Management Service(RMS)などが統合された“R2”(=開発コード名)と呼ばれるバージョンが2005年後半に提供される予定である(R2の詳細については関連記事を参照)。
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そして2006年にLonghornクライアントが発表されるとともに、Windows XP/Windows Server 2003向けのAvalon/Indigoサブシステムが提供される(提供時期が同時かどうかは不明)。WinFSは提供されないが、この時点でWinFXアプリケーションを幅広くWindows環境で実行できる準備が整う。
次世代アプリケーション・プラットフォーム、WinFXとは?
WinFXは、Longhornに搭載される新世代アプリケーション・インターフェイスである。WinFXは、現在の.NET Framework 1.1、2005年に提供予定の.NET Framework 2.0の延長線にあるマイクロソフトのアプリケーション・プラットフォームである。WinFXは、.NET Framework 1.1および2.0の発展型に加え、Avalon(=開発コード名)、Indigo(=開発コード名)、WinFSという3つのサブシステムが追加される。
WinFXを構成する3つのサブシステム |
次世代アプリケーション・プラットフォームのWinFXは、Avalon、Indigo、WinFSという3つのサブシステムで構成される。ただしこのうちWinFSは、初期のLonghornクライアント対しては間に合わないことが発表された。 |
■プレゼンテーション・サブシステム:Avalon
Avalonは、GUIなどのプレゼンテーションをつかさどるサブシステムだ。すでに読者もどこかで見掛けたことがおありかもしれないが、Longhornのユーザー・インターフェイスでは、DirectXをベースとする3Dグラフィックスなど、最新グラフィックス技術が積極的に活用される予定だ。このような新しいグラフィックス・アプリケーション・インターフェイスを提供するのがAvalonである。
Longhornのデスクトップ画面 |
これは開発途中版のもの。Longhornでは、3D表示や透明表示など、最新のグラフィックス技術を活用して、WindowsのGUIが大幅に改良される予定である。 |
またAvalonでは、XAML(ザムル)と呼ばれるXMLベースの新マークアップ言語が導入され、従来のHTMLをベースとするWebアプリケーションばかりでなく、WindowsアプリケーションのビジュアルなインターフェイスもこのXAMLで記述できるようにする。既存のWindows環境において、開発者とユーザーの双方は、Windowsアプリケーションとブラウザ・ベースのWebアプリケーションの2つを使い分けなければならない。Windowsアプリケーションは、インストールしてしまえばオフラインでも実行でき、リッチなユーザー・インターフェイスを備えるが、インストールしなければ使えず、Webアプリケーションのようにページからページに推移することを前提とした「ページ指向のアプリケーション」には不向きという欠点がある。一方のWebアプリケーションは、ブラウザさえあれば利用でき、文字や画像を含むコンテンツのレイアウトが容易で(ブラウザが処理してくれる)、サーバ側でバージョン管理を一元化できるメリットがあるが、ポップアップ・メニューやドラッグ&ドロップといったリッチなユーザー・インターフェイスは使えず、ユーザー操作に伴うオーバーヘッドも小さくない。
ユーザーと開発者は、これら両モデルの特徴をそれぞれが意識しながら使い分けなければならないのが現状だ。Avalon+XAMLの大きな目的の1つは、これらの2つのアプリケーション・モデルをユーザー/開発者双方の視点から共通化し、双方の長所をミックスしたアプリケーション環境を構築することである。
■ネットワーク・サブシステム:Indigo
アプリケーションに対し、次世代のネットワーク・インフラを提供するのがIndigoである。Indigoは既存の.NET Frameworkを発展させたCLRベースのネットワーク・インフラで、安全性よりも性能が優先されるインターネット・ベースの通信から、信頼性が最優先されるトランザクション機能を含むエンタープライズ・レベルの通信までを単一のフレーム・ワークとして提供する。またIndigoでは、アプリケーションによる通信に対し「メッセージ」と「ポート」と呼ばれる抽象モデルを導入することで、アプリケーションのトランスポート層(TCP/IPやNetBIOSなど)依存を解消する。これらによって、より独立性が高く、それぞれが自律性を備える「サービス」の連携によって、情報システムを構成するというサービス指向化を推進することが目標だ。
■ストレージ・サブシステム:WinFS
初期のLonghornクライアントには間に合わないことが発表されたWinFSは、マイクロソフトのリレーショナル・データベース製品であるSQL Serverのテクノロジをファイル・システムに応用した次世代の汎用ストレージ・サブシステムである。これにより、データの効率的な検索やデータのレプリケート(複製)やバックアップ、復元など、データベースで培ったノウハウとテクノロジがOS標準のファイル・システムとして利用可能になる。
Windows XP、Windows Server 2003でもWinFXアプリが実行可能に
今回の発表で最も注目される点は、Longhornにしか提供されないと考えられていたAvalonとIndigoがWindows XPやWindows Server 2003にも提供され、これらに対応した次世代アプリケーションを実行できるようになるということである。
2006年のWindows XP/Windows Server 2003 |
既存OSであるWindows XP、Windows Server 2003に対して提供されるAvalon/Indigoインターフェイスを組み込めば、これらのOS上でもWinFX対応アプリケーションが実行可能になる。 |
このニュースは、システム管理者にとっても、開発者にとっても朗報だろう。
たとえどんなに優れたものだったとしても、システム管理者にとって、OS環境のアップグレードには多大なコストとリスクが伴う。従って現行OSの利用にとりたてて不都合はなく、ユーザーからのアップグレード要求もなければ、できるだけ既存環境を変えたくないと考えるのは当然だ。しかし特にデスクトップOSでは、新OSを前提とするアプリケーションの登場により、ユーザーの新OSへのアップグレード要求熱が高まる。
Windows XP/Windows Server 2003向けAvalon/Indigo(以下、「レガシー向けWinFXサブシステム」と表記)が提供されれば、OSをバージョンアップしなくても、WinFX対応アプリケーションを実行できる可能性が高まる。システム管理者の手間を軽減できるだけでなく、既存システムのリプレース寿命を延命できる可能性も高まるだろう。
一方開発者にとっては、レガシー向けWinFXサブシステムが提供されることで、WinFX対応アプリケーション市場が早期に確立される可能性が高くなる。過去の経緯を見ても、新OSが広く普及するには、発売から2〜3年程度はかかるものだ。WinFXがLonghornだけのものだったとすれば、WinFX対応アプリケーションの開発者は、アプリケーション開発によって得られる利益を数年間じっと辛抱しなければならない。しかしすでに多数のインストール・ベースがあるWindows XPとWindows Serer 2003上でもWinFXアプリケーションが実行できるようになれば、Longhornの普及を待たずして、WinFX対応アプリケーション市場が立ち上がる可能性が増大する。またWinFX対応の業務アプリケーションを展開するうえでも、従来OSが使えることは大きなプラスになるだろう。
しかし懸念されるのは「レガシー向けWinFXサブシステム」と、Longhornとの互換性レベルである。かつてWin32sは、16bitのWindows 3.1に組み込むことで32bitアプリケーションを実行可能にしたが、機能制限は大きく、32bitアプリケーションの普及にはそれほど貢献できなかった。レガシー向けWinFXサブシステムにしたところで、ベースとなるコアOSが異なる以上、Longhornとの100%の互換性を実現することは不可能だ。何らかの機能制約が伴うことは想像に難くない。例えば、現在提供されているLonghornベータ搭載のAvalonで3Dグラフィックスやマルチメディアなどのフル機能を利用するには、高性能なグラフィックス・カードやマイクロ・プロセッサが要求される。こうしたAvalonの機能は、レガシー向けWinFXサブシステムではどうなるのか。またWinFX対応アプリケーションがそれらの新機能をどれほど必要とするのかが気になるところだ。
また既存のWindows環境で.NET対応アプリケーションを実行可能にする.NET Framework(1.0)は、2002年2月から無償提供されているが、これを追加インストールしているWindowsユーザーはいまなお大多数とはいえない(Windows Server 2003には標準で.NET Framework 1.1が組み込まれた)。レガシー向けWinFXサブシステムが公開されたとしても、おいそれとユーザーがこれを追加インストールするとは思えない。追加の手間と、リソース(ハードディスクやメモリ)の追加消費とういコストを払ってもインストールするだけの魅力あるWinFXアプリケーションが不可欠である。
アプリケーションの実行環境としてマイクロソフトは、現在の.NET Framework 1.1を大幅に強化した.NET Framework 2.0を、来年発表予定のVisual Studio 2005と同時に提供する予定である。Longhornが予定どおりだとすれば、開発者は2005年、2006年と立て続けにアプリケーション・インターフェイスの大幅な変革を経験することになる。WinFXは.NET Frameworkの延長線にあるとはいえ、開発スキルの習得に加え、開発したソフトウェアのマーケット性も合わせて、どのバージョンにターゲットを合わせて開発すべきか大いに迷うところだろう。
XP SP2の山を越え、霧が晴れてきたLonghornへの道
新たな疑問を投げかける結果になったとはいえ、これまで深い霧に包まれていたLonghornへの道が、今回の発表で少し晴れてきたことは間違いない。Longhornは、アプリケーション・プラットフォームとしてのWindowsを大きく飛躍させる一歩になるはずだ。システム管理者として、開発者として、この新OSの動向に注目していこう。
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