連載 【第5話】始まったシステムの改革(4)高添 修マイクロソフト株式会社 IT Pro エバンジェリスト 2006/07/13 |
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(この調子で3人の会話ははずみました。そして、START自動車のネットワークのベース・プランが見えてきた3人は、簡易設計を行い、古杉部長に判断を仰ぎました。古杉部長は3人の熱意とスピード、そして何より、改善によって得られるメリットが、集中管理による管理コスト削減、セキュリティの強化など、かねてより取締役会などで投げ掛けられていた問題を解決するものであることに満足しました)
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(その後このプランは、古杉部長を経て取締役会に提案されました。当初は主にコスト面から、新システムへの移行に疑問を投げ掛ける役員もいましたが、コンプライアンスの強化につながるという話と、集中管理による運用コストの低減により、移行投資コストは十分回収できるという話に説得され、まずは第一歩として、最小投資で可能な最低限の移行プランが許可されました。
プランが実行され、実際にActive Directoryが導入されると、IDの集約による効率的なID管理や、グループポリシーを利用したポリシーベースのネットワーク管理により、中央での集中管理がより徹底されながら、システム管理の手間は逆に減るという、当初の計画どおりの効果が得られました。さらにこれらに加え、VPNや、無線LAN環境の整備、リモート・アクセスと検疫など、Windows Server 2003の標準機能で実現できるさまざまなサービスをユーザーに提供したところ上々の評判で、古杉部長率いるIT部門の株が大きく上がりました。この成功は役員会にも報告され、役員一同も満足しました。しかし古杉部長も呼ばれた役員会で、社長が突っ込みを入れてきました)
社長 |
古杉くん、よくやってくれた。ただ、こんなにいいものなら、なぜもっと早く実行しなかったんだ?いままではサボっていたということか? |
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しゃ、社長、それは違います。サボっていたわけではなかったのですが、いままではリスクを避けることばかり考えていました。 |
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社長 |
リスク? |
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はい。新しい環境に移行して何かトラブルでも起きたらどうしようかと、そんなことばかり考えていたのです。古くていろいろと不満はあっても、使えるものがあって、特に故障しているわけでもないのですから、あえて冒険はしなくてもいいだろうと……。 |
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社長 |
なるほど。だがそれは、お前たちIT部門の思い過ごしだったってわけだな? |
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結果からいえばそういうことです。しかしお言葉ですが、私だけでなく、ここにお集まりの役員の方々も、ITをあまり重視されていなかったのではと……。 |
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鶴田専務 |
失敬な! |
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出過ぎたことをいって申し訳ありません。ただ、これまで役員会で出てくるITの話題といえば、積極的なIT投資ではなく、コスト削減の話ばかりだったと思います。その結果として、私たちIT部門としてもチャレンジ精神を失っていたように思うのです。 |
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鶴田専務 |
自分の怠慢を棚に上げて、私たちに責任を転嫁するというのか! |
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社長 |
まあまあ、鶴田専務。しかしそれじゃあ鶴田くんに聞くが、君はコスト削減だけではない、ITの積極投資策について論じたことはあったかね? |
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鶴田専務 |
い、いえ……。 |
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社長 |
まあ、古杉くん1人を悪者にしてもしかたないだろう。古杉くん、で、これからはどうすればいい? |
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社長、ありがとうございます。まずは、生産性を高めて、会社の競争力を高めるために、ITを活用することが重要だというメッセージを社員に伝えてください。 |
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社長 |
それだけでいいのか? |
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そして、業務を効率化するために、ITがどうあればいいのか、現場のアイデアを私たちIT部門に遠慮なく伝えるようにとアナウンスしてください。 |
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社長 |
なるほど。今回の変革は第一歩にすぎないということだな。よし分かった、全社にアナウンスしよう。 |
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当社にとってますます有効な情報システム環境を築きます。現場のアイデアを吸い上げた新しいプランを作りますので、そのときにはまた話を聞いてください。 |
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社長 |
ふむ。いきなりお金を出せというかと思ったよ。 |
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IT投資は大事ですが、IT部門だけでは最適な環境はつくれません。投資を無駄にしないように、慎重に検討します。 |
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社長 |
よくいった!! ぜひともわが社を強くするプランを練ってくれたまえ。 |
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ありがとうございます。 |
(会議が終わり、不満顔の鶴田専務とほかの役員は会議室を後にした。役員たちがいなくなると、社長は古杉部長に寄ってきて話し掛けました)
社長 |
うまく話をすり替えたな。 |
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あ、いえ、私自身、これまでの姿勢を深く反省しています。すいません。しかし役員の皆さんの協力がなければ、結果は出せませんので……。 |
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社長 |
いやいや。だらけた取締役連中に喝をいれるにはちょうどよかった。感謝してるよ。 |
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とても光栄です。 |
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社長 |
しかし大風呂敷を広げたからには、これから結果を出さないと大変だぞ。まあ頑張ってくれ! |
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は、はい! |
(古杉部長は鶴田専務のことが気になりつつも、社長の懐の深さに感心しました。そして古杉部長は、社長の全面バックアップを得られたことを伝えるために、IT部門のみんなを集めました)
ハジメくん、そしてみんな。IT投資に対して、社長から全面的なバックアップが得られたぞ! |
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古杉部長、どうもありがとうございました。これで、また新しい目標ができました。IT部門全員一致団結して取り組みます。 |
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古杉部長、よかったですね。うーん、これから面白くなりそうなのに残念です。 |
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うん? ハジメくんには先頭をきって協力してもらおうと思っていたんだが? どうかしたかな? |
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古杉部長、ハジメくんにはもっと大きな目標に向かってもらうために、うちの会社の仕事は卒業してもらうことになりました。私としても非常に残念なんですが……。 |
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そうだったのか。それは残念だな。これ以上ハジメくんに甘えるわけにもいかなくなったということだな。今回の一件でみんなずいぶん成長したし、ハジメくんなしでも何とかなるだろう。何より、ハジメくんの成長を邪魔するわけにはいかんからな。 |
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私も皆さんと一緒に仕事がしたかったのですが、本当にすいません。 |
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謝る必要はないよ。ハジメくんは身内同然だし、いまはインターネットがあるんだし、何かあったらメールで相談に乗ってくれよ。私もこれからは会社にこもらずに、外部のエンジニアたちのコミュニティなんかにも積極的に参加しようと思ってるんだ。業界はそんなに広くないだろうから、どこかで成長したハジメくんに会えるかもしれないね。 |
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そうですね。エンジニアにとっても人脈は財産ですからね。START自動車で経験したことも、皆さんと知り合えたことも、私の貴重な財産です。職場は離ればなれになりますが、私も相談事があったら遠慮なく皆さんにご連絡します。これからもよろしくお願いします。 |
(Illustrated by 正木茶丸)
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「SE ハジメくん物語」 |
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