短期連載:SOAベンダ動向レポート(1) Page 1
2004年夏、大手ベンダのSOAバトル開幕
期待された割になかなかビジネスに結び付かないWebサービス。ところが2004年になって突如、Webサービスを包含しつつさらに上位概念であるSOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)という言葉に吸い寄せられるように、アプリケーションサーバ・ベンダ、EAIベンダ、業務パッケージ・ベンダはこぞってSOA対応製品をリリースしてきた。本連載はSOAをめぐる有力ベンダの製品動向とマーケティング戦略の最前線をレポートする。(編集局) |
岩崎 史絵
2004/8/21
主な内容 IT業界の台風の目「SOA」 2004年、SOA戦争が勃発? エンドユーザーを囲い込むIBM、技術者向けのBEA .NETでSOAを提唱するマイクロソフト 後発組のオラクル、サン、そしてXMLコンソーシアムの動向は? |
20世紀の終わり、システム開発をめぐってIT業界は2つに分かれたといえる。1つはERPなどのパッケージ導入を中心とする方法論、もう1つは従来型のスクラッチ開発である。特に後者に関しては、「WebSphere」(日本アイ・ビー・エム)や「WebLogic」(BEAシステムズ)などのWebアプリケーション・サーバの登場により、オブジェクト指向技術を中心とした新しい開発方法論やシステム・アーキテクチャが提唱され、熱い議論が繰り広げられてきた。
しかしここ数年の業界動向を見ていると、以前と比べやや落ち着いてきた感がある。パッケージ市場もアプリケーション・サーバ市場も成熟し、技術者の興味をそそるような新しいキーワードも登場していない。唯一「Webサービス」が注目された時期もあったが、大きなムーブメントに至ることはなかった。その理由を挙げるとすれば、Webのプロトコルと記述言語の焼き直しであり、“新技術”として成熟していなかったためだろう。新しい開発手法やビジネススタイルを生み出すことができなかった。
こうした状況の中、昨年1つのキーワードが飛び出してきた。それが「SOA」(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)だ。最初にSOAというキーワードを用いたのは米ガートナーであり、一説によると「10年来、SOAという概念を打ち出してきた」とのことだ。そして、このSOAというキーワードは、これまで停滞気味だったIT業界に新たな旋風を巻き起こそうとしている。IBMやBEA、マイクロソフトといったIT業界の“大御所”をはじめ、SAPなどのパッケージベンダやそのほかのミドルウェア・ベンダまで巻き込んで、「一大SOA戦争」が始まろうとしているのだ。そこで今回、SOAという切り口でIT業界の動向を眺めてみよう。
もともとSOAという用語は、EAI(Enterprise Application Integration)ベンダを中心に提唱されてきたものだ。前述したように、「パッケージ導入か、オブジェクト技術によるスクラッチ開発か」が業界の中心だった中、EAIなどのアプリケーション連携は比較的地味な分野だった。だが企業内に目を向けると、メインフレームのレガシーシステムがあり、新しいパッケージがあり、Webシステムがあり……と異機種・技術が混在した結果、システム同士がバラバラもしくはスパゲティ状態に陥ってしまうというケースも散見された。これを解決する手段として、EAIはまさに“縁の下の力持ち”といった位置付けだった。
そのEAIが打ち出したのが、「個々のシステムを“サービス”としてとらえ、業務プロセスにのっとって各サービスを連携させる」というSOAの概念である。具体的なベンダとしては、ウェブメソッドやティブコ、アイオナ、ソニック ソフトウェアやビトリアなどが挙げられる。なお2004年に入ってから、やや遅れてシービヨンド・テクノロジー・コーポレーションが「SeeBeyond ICAN Suite5.0」の発表時にSOAというキーワードを打ち出した。なお現在では、SOAの範囲としては企業内システムにとどまらず、取引先など企業外のシステムも対象に入っているようだ。
ほぼ時を同じくして「ESA」(Enterprise Service Architecture)を表明したのがSAPだ。その発端となったのが、昨年発表した「SAP NetWeaver」である。NetWeaverはWebサービスなどの標準技術によりレガシー、カスタムアプリケーション、SAPモジュールを連携させるミドルウェア。SAPジャパンによると、「ESAはSOAよりやや意味が広く、経営戦略の概念も混じっている」というが、ほぼ同義だと考えて差し支えない。
EAIベンダにしろSAPにしろ、従来のシステム間連携に当たっては自社製品の独自開発技術を用いることを前提としていた。だがここ1〜2年の動きを見ると、J2EEやWebサービスなどの標準技術に対応している。業務ロジックを「サービスコンポーネント」として扱い、疎連携させる狙いのほか、「技術者の大量囲い込みをしたい」という思惑もあるのだろう。技術者が増えれば、それだけ製品の導入も進む。ただ1つ注意したいのは、“標準技術に対応している”とはいっても、完全に各製品ネイティブ技術が消えたわけではないことだ。例えばSAP NetWeaverであれば、やはりSAPの開発言語ABAPの知識が必要になる。(次ページへ続く)
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短期連載:SOAベンダ動向レポート(1) 2004年夏、大手ベンダのSOAバトル開幕 |
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1 ・IT業界の台風の目「SOA」 2004年、SOA戦争が勃発? |
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2 ・エンドユーザーを囲い込むIBM、技術者向けのBEA ・.NETでSOAを提唱するマイクロソフト ・後発組のオラクル、サン、そしてXMLコンソーシアムの動向は? |
SOAベンダ動向レポート |
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