事例に見る“現場力”からの発想
2006/2/23
プロセスは組織に従う
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業務プロセスに着目し、ITを活用することで業務プロセスを継続的に改革するビジネスプロセス・マネジメント(BPM)が注目されています。
一般にはBPMは、システム開発における不確実性を回避するためにエンドユーザーの要求仕様を適切に表現し、業務や組織へ適合性の高いシステムを設計するためのアーキテクチャや各種のツール類、および分析・設計手法として理解されることが多いようです。すなわち業務プロセスをモデル化し全体像を認識したうえでシステムアーキテクチャを選択・設計し、この上にプロセスを実行するためのアプリケーションを開発することで、柔軟性と適合性を併せ持ったシステムを構築する方法論として狭い範囲で議論されているようです。
しかし、これだけだと現状の業務を聞き取りして、それを実現(再現)するアプリケーションを開発することになり、現状肯定的なシステム導入にとどまることになってしまいます。
筆者が考える広義のBPMは、より変革志向であって、システム構築の方法論にとどまらず、上位階層として、業務プロセスの前提となるビジネスシステムや事業戦略、経営ビジョンを認識します。そして、これに整合する業務プロセスを計画・設計し、システムの導入と同時に業務プロセスも改革するものだと考えられます。
しかし、それは言うは易(やす)く、行うは難し。そう簡単なことではありません。
業務プロセスと事業戦略は本当につながっているのでしょうか。例えばバランスト・スコアカード(BSC)は事業戦略に当たる財務(事業成果)の視点と顧客(ドメインおよび事業機能)の視点に対して、それを実現するためのプロセスの視点が因果関係として成り立っているかを検証しながら改革を進めていく手法です。BSCに取り組んできた企業の事例を聞くと、その多くにおいて事業戦略とプロセスの間の論理的かつ現実的なギャップが認識されているようです。BSCそのものが、そのようなギャップを埋めるための手法であるわけなのに、BSCを導入した後も、本当にギャップが埋まっているのか、なかなか検証ができていないのが実情です。
本稿では、プロセスの改革と企業経営の改革がどのようにして関連付けられ、連動するようになるのかを考えてみます。「組織は戦略に従う」といわれますが、同様にプロセスは組織に従うはずです。同時にプロセスは戦略を具現化し、組織の活動の実効を生み出すものです。そして情報システムはそれらに対して手段として有効に機能しなければなりません(図1)。
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図1 業務プロセスが戦略とITを結ぶBPMのコンセプトに基づく経営変革モデル(クリック >> 図版拡大) |
今回は、業務プロセスのレベルで改革に着手し、新たに進出した事業ドメインにおける競争力の獲得まで継続的に取り組んだA社の事例を紹介します。
個別改善の限界を、プロセス改革で打破する
A社は金融端末や事務・店舗機器などを製造販売する親会社の製品の保守サービス事業を行っています。過去、約10年間の間に金融業の店舗統合などが進み、顧客企業における設置機器数が頭打ちもしくは減少する傾向にあり、当然のことながら厳しい売り上げ状況が続いていました。
そんな中、顧客からの緊急修理要請や問い合わせに応じるコールセンターで、顧客の支持を高めるためのサービス改革への取り組みが始まったのです。当初は、顧客に自社サービスへの満足度を聞き取り調査するところからスタートしました。「それまではお客さまに満足しているかどうかを聞いたこともなかった」と担当したマネージャは語っています。
修理作業や保守作業員の対応はまずまずでも、客先からのコールに対する応対に不都合があったり、修理完了までの総所要時間が長いと満足度が低くなるということは当事者にとっては意外な発見だったそうです。顧客のさまざまな意見を集約すると、「お客さまは技術力の高い迅速な修理作業を期待しているのではなく、一刻も早い機器稼働の再開を望んでいる」「また修理完了までの所要時間そのものよりも稼働再開までの見通しが速やかに立てられて安心できることが満足につながる」ということでした。すなわち、個々の作業ではなく、保守サービスとしてのトータルプロセスが顧客満足の向上につながっていたのです。
それまでコールセンターは本社部門の1つとして顧客からの修理要請を管轄の支店支社の保守部門に対して取り次ぐことが役割であったため、副次的な組織機能と考えられていました。電話応対スキルの向上やお待たせ時間の短縮など、個別作業における改善には取り組んできたものの、コールセンターの応対と修理作業そのものを一体のものとして改革していくという発想はありませんでした。
そこで、A社では、顧客のコールに対する応対から修理の完了までの複数部署をまたがる一連のプロセスの全体を改善することにしたのです。
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