事例に見る“現場力”からの発想
2006/2/23
コールセンターからマネジメントセンターへ
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さまざまな対策が数年間の間に積み重ねられました。まず、保守担当者から携帯電話で修理作業の実施状況と作業予定、および各人の動静報告が挙げられ、その情報がセンターで一元的に管理され表示されるようになりました。これによって最も迅速に現場到着可能な保守担当者を割り付け、また到着予定を先行して顧客に通知することができるようになりました。
センターの担当者は、故障機器の情報とトラブル解決方法に関する教育を受けました。さらに、その情報をデータベース化することで、受付時に初期的なリカバリー処置を顧客に連絡したり、故障個所の簡単な診断を行うことができるようになりました。
保守作業のためのロジスティクスを再構築し、ハブ拠点に部品の集中補給体制を作り、部品供給が確実に行われるようにしました。これによってセンターによる初期診断情報を受けて部品取りそろえたうえ、現場に直行することで持ち帰り修理や再作業が減少しました。
本来は各地支店支社の保守部門に所属している作業担当者を定期保守担当者(定期点検など、計画的な作業を行う)とコール保守担当者(故障など臨時の作業を行う)に班分けし、コール保守担当者に対するディスパッチの権限をコールセンターに移しました。こうして所属にかかわらず最適な担当者を速やかに派遣することができるようになりました。
このような体制が定着した結果、コールセンターは会社組織全体の中でスーパーバイザーとしての役割を果たすようになり、現在ではさまざまなプロジェクトの進ちょく管理や支援業務も担っています。コールセンターは修理作業の作業品質や生産性の評価や記録に携わったことから、いまや日常の業務管理の中心となるマネジメントセンターと呼ぶべき組織的役割を獲得しました(図2)。
図2 BPM経営変革モデルによって描いたA社の経営革新(クリック >> 図版拡大) |
これらの変革の実現には、当然のことですが、ITのインフラとアプリケーションの開発が伴っています。当初はCTIで対処していた動静把握システムは携帯用ミドルウェアベースのインフラにグレードアップされました。
その結果、データベースを介したWebサービスによる顧客への直接的な情報提供サービスを実現する基礎ができました。機器メンテナンス知識情報のデータベース整備によって、保守担当者の社外製品に対するメンテナンス技能の早期習得を促進するとともに、親会社製品を含めたユーザーに対する製品・修理情報の提供が行われ、顧客企業の設備管理者に対する便宜を提供することができるようになりました。これらはいずれも社内業務プロセスの効率化と顧客支援機能の強化の両面において、貢献しています。
業務プロセス改善が事業戦略改革を呼ぶ
このようにして、センター中心の組織体制によって、業務プロセスがコントロールされサービス遂行状況の可視化が実現し、さらにその情報が顧客に開示され共有されるところまでプロセスマネジメントが確立された結果、事業戦略上も大きな効果が表れました。
従来保守していた親会社製品の市場設置数が減少することへの対策として開始した他社製コンピュータ製品に対する保守サービス事業が軌道に乗り、急速に売り上げを伸ばしているのです。
いまやA社のコールセンターは数々のアワードを受賞するような第一級の管理水準を実現しており、しかもそれを証明するためには、現に顧客に開示しているWebサービスを示せばよいのです。顧客に提供されている情報は、顧客の設置機器の情報(機種、保守予定など)、ユーザーのための保守マニュアル(特に故障への初期対応)、コールおよびそれに対する対応状況(作業予定、作業完了予定、担当作業員の現在地など)など詳細で広範なものであり、またユーザーインターフェイスも平易なものになっています。それを見た引き合い客は、プロセスの管理によほどの自信がなければそのような情報開示は到底実現できないことにすぐに気が付きます。これはまさしく提供サービスとその品質が可視的に示されているということです。そしてそのようなプロセスはセンターによる業務のスーパーバイズ機能を中心に置いた組織機構とデータベースおよびWebサービス技術を中心に置いたITインフラとアプリケーションによって支えられています。
このようにITインフラ、アプリケーション、業務プロセス、ビジネスシステム(事業組織)ががっちりと組み合わさって、選択した事業ドメインにおける非常に強固な事業実体を形成しているわけです。
興味深い点は、A社におけるこの取り組みは、あくまでサービス事業遂行の現場における顧客満足向上への問題意識が出発点であったということです。
このサービス遂行の業務プロセスを全体的、統合的な視点から突き詰めて改善していこうという積み重ねが結果として事業組織やドメイン戦略に及ぶ大改革につながっているのです。プロセス改善から生まれたWebサービスによるユーザーに対する情報開示が、結果として顧客のプロセスに対するA社のサービスの浸潤につながっていることに注目するべきでしょう。
顧客のプロセスを“自社のプロセスとして共有すること”が強みに
A社の扱い製品は本来は顧客が自社の事業を運営するための設備なので、それを保守し有効に活用することは顧客のプロセスから見れば設備資産管理プロセスの一環と位置付けられます。従って機器に関する情報は顧客とA社の双方で使用していますし、機器を有効に活用することは双方の共通の関心事といえます。
顧客にWebサービスで機器の保全情報を提供し、これにまつわる管理プロセスを提供することは、単なる修理作業の提供から設備保全へ、さらには設備の有効活用支援もしくはアウトソーシングへと事業機能を拡張していくことにつながります。それはサービス商品の付加価値を高め差別化することや販売における競争力を高めることに寄与します。
しかもA社の保有情報を転用しているという観点からすると最小のコスト増でもって事業機能の拡張を実現していることになります。これこそビジネスプロセス・マネジメント的な成果といえるでしょう。
次回はサービスの改革がA社のような生産財企業の事業競争力を変革する決め手となることについて、より一般的な分析を行い、BPMが企業変革の重要な手段になるという問題提起を試みたいと思います。
有限会社アイ・エフ・コンサルティング 代表
筑波大学経営政策科学研究科卒。1981年、株式会社日本能率協会(現日本能率協会コンサルティング)に入社。管理間接部門の業務効率化、OA化推進のコンサルティング経験を経て、企業の総合的な経営革新活動の支援へとコンサルティング領域を広げてきた。2001年、株式会社日本能率協会コンサルティングを退社。有限会社アイ・エフ・コンサルティグを設立し、代表取締役を務める。社団法人企業情報化協会の調査研究活動に参画し、研究活動および講演活動などを行っている。著書に「ペーパーレスオフィス〜その考え方・進め方」(日本能率協会刊)がある。
業務プロセスのレベルで改革に着手し、新たに進出した事業ドメインにおける競争力の獲得まで継続的に取り組んだA社の事例を紹介する。
A社は金融端末や事務・店舗機器などを製造販売する親会社の製品の保守サービス事業を行っている。同社は顧客サービス向上のため、コールセンターで改革に取り組んだ。従来、顧客のコールに対する応対から修理の完了までの複数部署をまたがっていた一連のプロセスを、一体のものとして改革するさまざまな対策を数年にわたって積み重ねた。
その結果、コールセンターは日常の業務管理の中心となるマネジメントセンターと呼ぶべき役割を獲得した。この体制によって業務プロセスが可視化され、さらに顧客にも開示・共有されると、事業戦略にも大きな効果が表れた。他社製コンピュータ製品に対する保守サービス事業が、急速に売り上げを伸ばすようになったのだ。
プロセス改善から生まれたWebサービスによるユーザーに対する情報開示が、結果として顧客のプロセスに対するA社のサービスの浸潤につながったのである。
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