■KIUオピニオン
「経営とITの融合」は、最重要経営課題と認識せよ!
アビームコンサルティング株式会社
工藤 秀憲
2006/1/24
- | ITの進歩と時代の変化 |
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「ITによる経営貢献」「ITによる経営競争力強化」「経営とITの融合」というような言葉でITの経営への期待が以前から叫ばれてきた。しかし、ここ数年は経営環境の悪化やITバブルの崩壊によってITと経営についての相関関係を言及するよりも、事業の選択と集中やリストラによる直接的な経営改善の方向へと動いてきた。
それが最近、産業の立ち直りや情報化投資復活の動きが顕在化するにつれて、真に経営に貢献するITの必要性が強く求められるようになってきた。
この要求は以前の論争とは違って、IT格差が経営に大きく影響する時代になったことも原因となっている。マクロにとらえると米国のGDPは日本の2.5倍だが、IT投資は4倍になっているのが現状だ。これは、まだまだ日本の企業が情報化投資によって競争力を強化する余力を残しているという見方もでき、これまでの日本の経営者はIT投資について、米国の経営者ほどには経営への貢献を信じていないという側面の表れともいえる。
近年の経営環境は、10〜20年前までのような、ITに依存しなくても「製品力」「サービス力」「セールス力」「ブランド力」などで勝負できる比率が高い時代から、(業界によって多少の差があるとはいえ)「IT活用力」なくしては敗者になってしまう時代へと大きな変化を見せている。
ITの進歩とその活用は、企業間競争を劇的に変える力を持っており、昨日までの小企業が大企業を一瞬のうちに飲み込んでしまう力さえ持つように進化している。
IT投資復活の兆しが見える現在、「ITと経営の融合」について再度議論を深め、各企業が『真に経営に貢献できるIT投資』を実現する施策を考えるべき時期にある。
そのためにも、
- いま、なぜ「経営とITの融合」が強く求められているのか!
- 経営層は、経営に貢献するIT投資実現のために何をなすべきか!
の具体的な考え方と施策の方向を提示したい。
- | いま、なぜ「経営とITの融合」が強く求められているのか! |
■1 ITへの投資対効果に対する経営視点からの反省
「経営とITの融合」が強く求められている理由の1つに、これまでのIT投資に対する経営視点からの効果への反省が生じているということがある。一般的に、情報システム開発後の効果に対するフォローが不十分である。情報システム開発の計画段階で設定した目標内容に対して、実際の効果の測定が不十分なまま、開発が完了したことで満足してしまう傾向がある。
原因として、
- 情報システム開発に従事する人たちが本番稼働で満足してしまい、効果測定を実施する余力がない
- 効果の測定ができるような仕組みが、情報システムの中に組み込まれていないため、効果に対する信憑性(しんぴょうせい)が薄い
- 情報システムは市場の環境の変化に合わせて継続的な改善を行うことによってさらに効果を上げるものであるが、継続的改善を行う組織が維持されず、資金の余力も残されていない
- 情報システムの目的が業務のKPIと連動しておらず、KPIが変わったのに情報システムは従来の目的を継続する
といったことが考えられる。これらのことが経営者に対して、IT投資が経営に貢献しているという確信を与えるに至っていない原因になっていることが多い。
また同時に、近年は大規模投資案件の増加によって、それにふさわしいリターンを得られないリスクが拡大している。大規模投資の中には計画段階からの予定投資額だけでなく、開発途上に発生する予期せぬ投資額の増加で相応のリターンを得られないことも多々発生する。この現象は、経営者に対して情報システム投資に対する懐疑心を与えている。
そして情報システムの維持・メンテナンスコストが大きく、新規投資に回す余力が減少している。情報システムの維持・メンテナンスコストは、各年度の全投資額の70%を超えており、この比率は増加の傾向にある。競争力強化を実現したい経営者から見ると、各年度のIT費用の額に比較して新規ビジネスへの投資額が少なく、結果的にITの経営貢献が薄いように見えてしまうのである。
■2 企業経営におけるIT活用の重要性が拡大
激変する企業間競争・各種規制の変化に対して、ITの活用は経営競争力強化のための必須要件になっている。
最近は、M&Aや企業間コラボレーションが頻繁に発生しており、これらを成功させるには、ITの活用なくしては不可能になっている。
攻めの経営として、事業創造となる新しいビジネスモデルの実現のためにもITの活用が必須であり、ITによって短期間に低コストで新しいビジネスモデルにチャレンジできる機会が広がっている。
激変するビジネス環境に対応するスピード経営、リアルタイム経営も、ITの活用によって実現される。市場の変化、競争の激化による製品やサービスのライフサイクルの短縮という現象も、ITによるライフサイクル・マネジメントの必要性を加速している。
法的・準法的規制も多くなってきており、グローバル会計基準、HACCP、GMP、J-SOX法、e-文書法、個人情報保護法などに対応するには、ITの活用なしには不可能だといえる。
■3 グローバル・ガバナンス強化の必要性の増加
グローバルなコーポレート・ガバナンスを強化する必要性がますます増加している。
グローバルな市場で競争力を強化していくためには、ITによるグローバル・ガバナンスが必須である。各国の特徴を生かしながら、全体で統合された企業運営を目指すために、ITによるガバナビリティを強化する企業が増加している。
また、グローバルな競争下では、SCMで結合される企業が多くなり、均質なグローバルデータを使った経営品質の向上が必須である。グローバル企業は、均質な運用・品質確保のために、ITを活用したデータ採取・活用が必要になっている。
そうしたシームレスなグローバル市場では、ITによる市場のセンシング機能(情報把握力)の強化によって迅速な経営判断が必須になっている。グローバルな競争下では、ITの活用によってマーケティングから製品開発・販売までを強化する必要性がますます強くなっている。
■4 IT品質と経営品質の関係深化
前述のように、今日の企業同士はITで結ばれている。このような状況下では、低品質なITしか提供できない企業は、直接的な社会的・経営的な制裁を受ける。ITの品質はすでに一企業だけの問題ではなく、社会全体に大きな影響を及ぼすようになっている。
そこではポジティブなIT能力の欠如だけではなく、ネガティブな出来事に対する耐性──すなわち、セキュリティの強度が企業評価に大きく影響を与える。脆弱なセキュリティシステムは、会社の評価を一気に下げるような事態を招くリスクを持つことになる。
それらを踏まえて、ITに対するBC(ビジネスコンティニュティ)対策が、企業にとっての経営課題の1つとなっており、災害対策を含めた事業の継続性対策は、経営にとって重要なウエイトを占めるようになっている。
そうした意味で、ITの品質が経営品質に直結しているといえる。
■5 CSRを向上させるためのIT
CSRもまた近年、強く求められるようになっている。CSRを向上させるためにも、ITの活用が不可欠である。経営の透明性と不正防止のためにはITの活用が必須であり、そうした流れを受けた規制であるJ-SOX法対応は、企業にとって近況の課題になっている。
これらの課題への対応策として、「ITと経営の融合」は必須であり不可欠な時代に突入している。次ページでは、『ITを真の経営に貢献するツール』として活用していくためには、何をなすべきかを考えてみたい。
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