連載
ハイパフォーマンスビジネスを実現するIT投資(1)


高収益・高成長企業のIT投資は、どこが違うのか?

アクセンチュア株式会社
白川 智之

2006/2/9

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ハイパフォーマンスIT組織の特徴

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 以降、アクセンチュアのグローバルCIO調査結果に基づき、ハイパフォーマンスを達成しているIT組織と、そうでないIT組織の取り組み方の違いを比較しつつIT ROI最大化に向けてのヒントを探る。

新規技術への取り組み姿勢

 パフォーマンスが高い組織は、新規技術に対して積極的かつ継続的に取り組んでいる。図4に示すように約8割のハイパフォーマンス組織が他社に先駆けて新規技術を導入するのに対し、低パフォーマンス組織のうちでそのようなマインドを持っているのは2割強にとどまっている。

最新技術への企業としての取り組み姿勢
図4 ハイパフォーマンスIT組織はイノベーションへの備えを怠らない。出典:「ハイパフォーマンスのためのIT投資:CIOを対象としたグローバル調査」(アクセンチュア/2005年)

 ビジネスにインパクトを与えるような技術的イノベーションに向けては、新規技術に対する継続的な投資が不可欠である。

 逆に、必要に迫られて都度技術を導入するような組織は全社戦略と事業目的に連動した意思決定ができずに、結果として高コスト・高リスクでの導入を行わざるを得ない状況に追い込まれる。

IT組織の時間の使い方

 図5に示すように、パフォーマンスが高いIT組織はシステムの保守より構築に時間をかけている。

IT組織の時間の使い方
図5 ハイパフォーマンスIT組織は、多くの時間を新規開発・機能拡張に充てている。出典:「ハイパフォーマンスのためのIT投資:CIOを対象としたグローバル調査」(アクセンチュア/2005年)

 ハイパフォーマンス組織がシステム改修に使うのは総作業時間のうち5%で、17%を機能拡張、18%を新規開発に充てている。パフォーマンスの低い組織ではこれが逆転し、16%が保守で、機能拡張が14%、新規開発が12%となっている。パフォーマンスの低い組織では老朽化している、ないしはメンテナンス性の低いシステムのお守りに時間を費やし、新規の取り組みに十分なパワーを割けない状況が見て取れる。また、これが負の循環となり、ハイパフォーマンス企業との差は開く一方となる。実際過半数のCIOは自社が保守に時間をかけ過ぎていると感じている。

インフラ導入の優先順位

 図6-1に示すように、ネットワーク、サーバ、ストレージなどのインフラの標準化・統合化については、程度の違いはあれ、組織のパフォーマンスにかかわらず、非常に高い優先順位が付けられた。いずれの企業においても、M&Aによる取得や個別部門の要求によって半ば無計画に導入してきたインフラの保守・運用コスト削減が緊急課題であるといえる。

インフラ導入の優先度「高」の割合(%)
図6-1 いずれの組織もインフラ標準化・統合は高優先度課題である。いい換えると、多くの組織では「基礎的」レベルにとどまっている。出典:「ハイパフォーマンスのためのIT投資:CIOを対象としたグローバル調査」(アクセンチュア/2005年)

 図6-2にあるようなインフラ資源の仮想化や動的割り当て技術の導入、ITILなど運用管理業務の合理化については差異が出た。ハイパフォーマンス組織はこのような「高度な」要件に関しても次のステップとして比較的高い優先順を付けたのに対し、低パフォーマンス企業はそこまで考えるに至っていないという結果になっている。

インフラ導入の優先度「高」の割合(%)
図6-2 ハイパフォーマンスIT組織は高度なインフラの導入を見据えているが、パフォーマンスが低いIT組織はそこまで検討する余力がない。出典:「ハイパフォーマンスのためのIT投資:CIOを対象としたグローバル調査」(アクセンチュア/2005年)

評価指標

 従来、ITの世界では主にコストが指標として使われてきた。従っていずれの組織でも、ハード/ソフトの支出総額などはよく管理されている。他方、プロジェクト遅延の根本原因や、アプリケーションの業務・技術適合性評価などのパフォーマンスにかかわる評価指標については、6〜7割のハイパフォーマンス組織が活用しているが、低パフォーマンス組織では2割程度と、活用度合いの差が大きい。

 プロジェクトの事後評価はハイパフォーマンス組織の約半数が行っているのに対し、低パフォーマンス組織で実施しているのは1割足らずである。

 以上のように、ハイパフォーマンスを上げているIT組織と、そうでないIT組織とでは取り組み姿勢に明確な違いがあり、結果として高い機動的IT支出比率につながっていると考えられる。次回はハイパフォーマンスITを実現するための具体的な施策について検討する。

筆者プロフィール
白川 智之(しらかわ ともゆき)
アクセンチュア株式会社 グローバル・テクノロジー・コンサルティング パートナー
先端IT技術を駆使してテクノロジーコンサルティング業務を行う組織、グローバル・テクノロジー・コンサルティングにおいて、日本のイノベーション&アーキテクチャチームを統括する。
テクノロジーアーキテクチャの戦略・計画立案、設計・構築を得意分野とし、これまでに数多くのクライアント企業において、先端的なeコマースアーキテクチャから大規模処理能力・高信頼性を要求される全社アーキテクチャまで、さまざまなアーキテクチャ構築を手がける。
E-Mail:tomoyuki.shirakawa@accenture.com
■要約■
社内外の環境がどのような状況にあっても高い収益性と成長性を保ち続ける企業が存在する。アクセンチュアでは、このような企業をハイパフォーマンス企業と呼び、その秘密を探ってきた。

企業がIT投資を手控える理由を調査したところ、その要因は大きく2つあることが分かった。近年のIT関連のプロジェクトが予測・実行しにくくなっていること、経営者がIT支出に対する効果を実感できていないことである。

アクセンチュアのグローバルCIO調査結果によると、パフォーマンスが高い組織は、新規技術に対して積極的かつ継続的に取り組んでいる。ビジネスにインパクトを与えるような技術的イノベーションに向けては、新規技術に対する継続的な投資が不可欠である。

またパフォーマンスが高いIT組織は、システムの保守より構築に時間をかけている。インフラ資源の仮想化や動的割り当て技術の導入などの「高度な」取り組みについても、ハイパフォーマンス組織は次のステップとして比較的高い優先順を付けている。

プロジェクトの事後評価はハイパフォーマンス組織の約半数が行っているのに対し、低パフォーマンス組織で実施しているのは1割足らずである。

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高収益・高成長企業のIT投資は、どこが違うのか?
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IT投資の現状と課題
−IT支出が効果を生む投資にならない
 (1)IT支出に占める投資/コストの配分が不適切
 (2)IT投資先の視野が狭い
 (3)IT投資/コスト管理の方法が貧弱
 (4)IT投資を生かすための施策が不十分
−悪循環と好循環の2つのシナリオ
−45%の機動的IT支出を確保する
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ハイパフォーマンスIT組織の特徴
−新規技術への取り組み姿勢
−IT組織の時間の使い方
−インフラ導入の優先順位
−評価指標

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