CIO】 【経営企画部

解説
「経営とITの融合」ロードマップ(1)


アジャイル・エンタープライズ実現への道

KIU研究会 事務局幹事
高橋 堅三

2006/4/5

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全社的なレベルでの戦略革新・組織革新・人財革新が要諦

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 SOAの考えを企業システムに適用し、BPMシステムを導入したとしても、それだけで“俊敏な経営”が実現されるわけではありません。BPM/SOAを最大限に活用するためには、IT部門だけではなく、業務部門も含めて、従来の考え方を大きく転換する必要があります。すなわち、全社的取り組みということができるでしょう。

 BPM/SOAから効果を得るためには、以下のような考え方が不可欠です。

  • ITガバナンス(SOAガバナンス)、BPM、EA(エンタープライズアーキテクチャ)の各領域について十分な検討を行い、戦略的な目標を持って推進する。
  • 中、長期的のビジネス戦略目標と整合させる。
  • EAを策定し、ビジネスプロセスの定義、サービスの識別基準の定義、技術の選定を行う。

 BPM/SOAは、単にIT手法・統合手法だと誤解されることがあります。しかし、実際にはビジネスソリューションやサービスの導入・展開アプローチに密接にかかわっています。そのために業務分野、技術分野、目指すべき将来像を含む、全体像を十分に理解しておくことが重要なポイントになります。

  • さらにSOA基盤の上に既存の業務プロセスを実装するだけでは、単なるシステムの置き換えです。ハイパフォーマンス企業では、業務効率向上にとどまらない新たな考え方を取り入れて、業務プロセスの変革を実現しています。SOAをそれを素早く行うための基盤なのです。
  • そのためにはITだけではなく、さまざまな業務にかかわる人財を公式にプロジェクトやガバナンスに取り込む仕組み──例えば「ビジネスプロセス・コンピテンシーセンター」を設立し、全社レベルで業務とITを整合させ、期待されるコスト削減と効率向上を確実にする体制を構築する必要があります。
  • BPM/SOA導入計画は、全従業員が参画する変革に向けての長い旅と考える必用があり、企業全体を広い視野で戦略的・体系的な考えでプロジェクトを立ち上げていかなければなりません。

アジャイル・エンタープライズ導入・推進のためのロードマップ

 KIU研究会/アジャイル・エンタープライズ編集委員会では、現在までのKIU研究会で発表されたメンバーのソリューション、執筆の内容を参考に、「アジャイル・エンタープライズ推進ロードマップ・マトリクス」をまとめました。これは(1)戦略策定革新視点、(2)ガバンナンス革新視点(内部統制、IT統制)、(3)人財開発/組織開発視点、(4)業務プロセス革新(BPM、SOA)視点、(5)ITアーキテクチャ革新(SOA、EAI、ESB)視点の5つの変革視点と、5段階成熟度(マネジメント度とIT機能との連携度)からなる表で、「企業の俊敏性を追求するBPM/SOA導入」の要諦です。

 また、「業務プロセスとITの全体最適化のための連携とコミニュケーションのフレームワーク」「情報システム構築導入事例」など、今後の「業務とITを戦略的に整合させる組織革新イメージ」も提示します。

アジャイル・エンタープライズ推進ロードマップ・マトリクス ver.1.0
MG革新+IT革新技術 MG技術とIT技術の同期 機能型からプロセス指向 SOA基盤とAP統合 統轄戦略的BPM
戦略策定の革新視点(俊敏な企業への変革視点) 全社レベルの定常IT費用削減策と戦略的IT投資策/「BPM導入」ロードマップ作成の実践 CPM・データウェアハウス・BIなどによる現状解析と市場予測など、ITでの可視化によるPDCAの効率化 業務パフォーマンス管理技術の習得/BPMSでのプロセス管理、「KPIでの見える化経営」の実践 全社の業務プロセス管理優位性を確立するためのSOA基盤構築導入ロードマップの作成 戦略・ガバナンス・人財・プロセス・IT、個々のレベルを統轄し、「包括的アジャイル経営の確立」
ガバナンスの確立と革新視点(IT監査とIT内部統制視点) 全従業員参加の財務報告信頼性を確保するための業務プロセスにかかわる内部統制策の把握 ITでの各業務間の連絡・承認プロセス・受発注の決定プロセスの可視化による内部統制の最適化を図る 内部統制を最適化するための業務プロセス上の意思決定最適化を実践するBPMSの導入計画と実践 SOA/アプリ統合で内外のグローバルな業務プロセス統一での「IT統治」ロードマップ作成 市場・ビジネス環境変化の察知・予測能力、変化への迅速な対応能力のあるガバナンスの確立
人財育成/組織開発の革新視点(ホワイトカラー生産革新視点) 全従業員参加の「機能中心の業務・IT視点から顧客視点のプロセス指向への変革」運動の展開 内部統制型組織を経由し、能動的IT統治・BPM推進組織のための現場次世代ビジネスリーダーの育成 BPM標準化技術教育によるビジネスプランナー・IT技術者の戦略的整合性でのコンピテンシーの確立 BPMの最大価値を生むSOA基盤によるBPCCの設立、BPMでの組織開発・競争力基盤構築 業務プロセスの迅速な革新を可能にする、全従業員参加型ビジネスモデル開発型企業組織へ
プロセスの革新視点(BPM視点)(SOA視点) パイロット部門でモデリングツールによる業務改革シミュレーションでのKPI設定可視化 基幹ビジネスプロセス・サブプロセスを顧客価値視点でKPIによる可視化計画/全社的BPMの推進 事業戦略と業務プロセスの最適化計画とBPMSの導入計画/KPI設定での機能評価法の確立 SOA基盤で、全社の業務プロセスを統合し、既存の資産を再利用し、ビジネスプロセスの再構築 顧客やパートナーと直接・間接的に社内外ビジネスプロセスを統合し、市場変化に迅速に対応
ITテクノロジの革新視点(ESB視点)(SOA視点) XML、WSDL、SOAPなどの標準でのサービスインターフェイス・SOAの知識習得とROIの数値化 SOA標準のESBインフラのコンポジット・アプリへの実装化/基本サービス設計モデル開発力の取得 ESB導入で新旧プロセス・新サービスアプリケーションの統合、SOA基盤を構築、包括的BPMの推進 SOAによる新サービス開発やビジネスプロセスの修正・サービスの再利用などとBAMの実践 ビジネス目標を効果的に達成する「ルールベースの応答」などが設定・自動化されたESBの導入

 KIU研究会では、今後ロードマップのさらなる精緻化を進めるとともに、KIU研究会メンバーによる各種診断プログラム、ソリューションなどのマッピングも進めてまいります。

筆者プロフィール
高橋 堅三(たかはし けんぞう)
KIU研究会 事務局幹事、アジャイル・エンタープライズ編集委員、株式会社フォーユー 取締役
昭和44年、日本能率協会入職。ビジネス誌・情報誌・専門誌の出版にかかわる。マーケテイングプログラム、HRプログラム、雑誌広告・販売担当、教育プログラムの販売、カンファレンス・コンベンション企画・販売担当などの現場業務を担当。平成元年、組織変更のため、日本能率協会マネジメントセンターに転籍。社内教育、能率手帳の販売、HR専門誌の企画・販売・広告業務を担当し、e-ラーニングの普及促進などに尽力する。平成14年、フォーユーに入社。企業内教育/生きた英語能力のプログラム販売を担当。現在、BPMの普及促進に取り組む。
■要約■
“俊敏な企業”への変革を目指すには、企業固有の組織風土・ビジネス構造の違いはあっても、ビジネスプランナーとIT(広い意味での情報技術)技術者が戦略的整合を持つごとが必要だ。

現在でも、大部分の企業では機能別の個別組織やその機能組織を支援する情報システムが使われているが、KIU研究会ではこれに替わるものとしてBPM指向の組織革新を提唱する。

BPM/SOA導入計画は、企業全体を広い視野で戦略的・体系的な考えでプロジェクトを立ち上げてなければならない。そこで5つの変革視点と5段階成熟度からなる「アジャイル・エンタープライズ推進ロードマップ・マトリクス」をまとめた。これは「企業の俊敏性を追求するBPM/SOA導入」の要諦となるものだ。

KIU研究会では、今後ロードマップのさらなる精緻化を進めるとともに、各種診断プログラムやソリューションなどのマッピングを進めていく。

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俊敏な企業だけが生き残る──エンタープライズ・アジリティ
機能中心組織から業務プロセス主導による組織へ
KIU研究会におけるBPM/SOAのマネジメントとテクノロジ
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アジャイル・エンタープライズ導入・推進のためのロードマップ


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