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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(15)

迷走しつつも資金繰りを続ける「したたかなJAL」

高田直芳
公認会計士
2011/6/9

経営分析の世界では、理論的な背景が検証されないまま使われる経営指標が少なくない。今回はその1つである「フリーキャッシュフロー」を、迷走を続ける経営再建中のJALを例にして、理論的に検証していこう。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年9月18日)

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 第12回コラム「ソフトバンク編」では、同社の決算短信などでしばしば用いられている“EBITDA”という指標の「メタボリック度」を検証した。一般的にEBITDAは大きいほど「望ましい」と考えられがちだ。しかし、この指標には支払利息なども含まれており、たとえ数値が大きくとも「借金太り」を見逃している可能性があることを指摘した。

 このように経営分析の世界ではEBITDAに限らず、理論的な背景が十分に検証されないまま、企業の決算書を渡り歩く経営指標が少なくない。今回取り上げる「フリーキャッシュフロー」もそのうちの1つであろう。筆者もあれこれ取り組んでいるのだが、実はいまだに、その正体がよくつかめない怪物である。

 今回はその怪物「フリーキャッシュフロー」を、迷走を続ける経営再建中のJALとキャッシュフローの伸び悩みに直面する日立を例にして、理論的に求めていこう。

フリーキャッシュフローの単純な求め方

 小学館の『大辞泉』でフリーキャッシュフローの意味を調べると「企業が生み出したキャッシュフローから設備投資などの現金支出を引き、手元に残ったその期の事業活動による純現金収入」とあった。式で表わすと〔図表1〕になる。


 この定義はおそらく、米国会計基準に則って作成された決算書を参照したのだろう。ニューヨーク証券取引所に上場している日立製作所の決算短信(2009年3月期、15ページ)を参照すると、そこに掲載されている「比較連結キャッシュフロー計算書」にフリーキャッシュフローまでが開示されている。科目に若干の修正を加えて、その要約を示すと〔図表2〕になる。


 〔図表2〕の2009年3月期において、営業活動キャッシュフロー558,947百万円に、投資活動キャッシュフロー▲550,008百万円を加味すると、フリーキャッシュフロー8,939百万円となり、〔図表1〕の式に一致する。

 フリーキャッシュフローの使い道は、まさにフリーだ。新規の設備投資やM&Aを行なう原資となるし、借入金の圧縮や株主への配当にまわす方法もある。どのような使い道を選択するかは、企業が自由に決められる。使途を制限しないからこその、“フリーキャッシュフロー”なのである。

 マスメディアで言及されるフリーキャッシュフローも、総じて以上のように理解され、重要視されている。

 そして、マスメディアだけでなく、企業の間でも重要な経営指標だ。第12回コラム「ソフトバンク編」でも紹介した通り、同社は向こう3年間でフリーキャッシュフローの累計額を、1兆円前後にすることを表明している。同社のいう1兆円とは、〔図表1〕にあるフリーキャッシュフローの3年分である。

理論的証明を怠った「期間対応」の観点

 筆者は、前述のフリーキャッシュフローの定義について、どうして誰も異議を唱えないのか、不思議に感じている。フリーキャッシュフローを〔図表1〕で定義する妥当性は、どこにあるのだろうか。

 1970年代後半にキャッシュフロー計算書を唱えたとされるアメリカの会計学者ロイド・ヒースなどの文献を調べたことがあるが、同氏がフリーキャッシュフローにまで言及していたかどうかまではわからなかった。

 売上高からコストを控除して利益を求めるのは、企業会計審議会『企業会計原則』第二/一/Cの「費用収益対応の原則」を持ち出すまでもない。収益(売上高)と費用(コスト)とが「期間対応」しているから、両者は差し引きできるのだ。

 では、〔図表1〕右辺において示されている、営業活動キャッシュフローと投資活動キャッシュフローはどうだろうか。長期的な観点ならともかく、1年ごとに「期間対応」するなどと、一体、誰が証明したのだろうか。

 おそらく、誰も証明していないのに「アイツが用いているから使おう」という「オレもオレも症候群」で伝播していったのではないだろうか。マスメディアが、それを加速させていったのではないだろうか。

 第8回コラム「家具のニトリ編」では、一般に流布しているCVP分析(損益分岐点分析)が「実務に役立たない理論」であることを紹介した。それに対し、フリーキャッシュフローは逆に「理論的な証明を怠った実務解」であるといえる。

 なお、EBITDAを基礎にしてフリーキャッシュフローを求める方法もある。ただし、その計算構造は、EBITDAから投資活動キャッシュフローを減算する形が大半であり、〔図表1〕と大同小異である。

 それに、第12回コラム「ソフトバンク編」でも説明したように、EBITDAは「マユツバもの」だ。

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