連載:IFRSとは何なのか(1)
ここから始まる国際会計基準
伊藤久明
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント株式会社
2009/6/29
国際会計基準(IFRS)の日本での適用が見えてきた。世界100カ国以上が採用する会計基準だが、日本企業にはなじみが薄い。IFRS誕生から広がったきっかけ、その特徴までをIFRS導入プロジェクトに従事する公認会計士が分かりやすく解説する。(→記事要約<Page 3>へ)
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日本におけるIFRSの適用
(1)日本基準改訂の取組み
世界的なIFRSの適用の広がりに対して、当初日本は、IFRSの適用(アドプション)ではなく、IFRSと日本基準との差異を縮小する(コンバージェンス)という対応をとってきた。具体的には、2007年8月8日に、日本の会計基準設定主体である企業会計基準委員会(ASBJ)とIASBは、コンバージェンスの取組みを加速化させることに関して合意した。これを東京合意と呼んでおり、以降現在に至るまで、毎年のように多くの日本基準が改訂されている。
例えば、2008年までに差異を解消する短期コンバージェンス項目の中には、工事契約(長期請負工事の収益計上は原則として工事進行基準)、資産除去債務(固定資産の撤去費用等は資産除去債務として負債計上し、固定資産の取得原価に含めて償却)などの会計基準が、2011年6月30日までに差異を解消する中期コンバージェンス項目の中には、セグメント情報開示(セグメント情報の開示は、経営管理で利用される管理数値に基づいて行なう)などの会計基準があり、これらすでに公表された基準はIFRSとの差異がほぼ解消されている。
(2)日本版ロードマップ
この東京合意から1年もたたない2008年は、日本においてもIFRSを適用すべきという声が強まった年であった。日本経済団体連合会(日本経団連)は2008年5月に会員企業にアンケートを実施(調査結果・PDF)し、67%の企業が日本でIFRSを選択適用することを認めるべきとの調査結果を発表した。また、日本公認会計士協会は同年7月に欧州を視察し、同年9月公表の報告書(リンク)の中で、IFRSを導入すべきと提言した。金融庁も意見交換会を実施、その後議論の場は企業会計審議会に移り、2009年2月4日に、日本版ロードマップ案を含む中間報告案を公表した。この中間報告案は、日本におけるIFRSの適用に向けての工程表とでもいうべきものである。
その後、6月11日の審議会で修正案が出されたが、その修正案によると、IFRSの任意適用については、2010年3月期から認めることが適当、としている。また、強制適用については、少なくとも3年の準備期間が必要になるとして、実施の是非を2012年に判断した場合、2015年または2016年に適用開始になる、との考えを示した(6月16日に中間報告として公表された)。
中間報告には以下のような特徴がある。
1.コンバージェンスは継続
IFRSを適用(アドプション)しても、IFRSとの差異を縮小する日本基準の改訂(コンバージェンス)は継続することが明示された。欧州委員会は、日本基準とIFRSが同等と認めたが、今後も日本基準が同等かを引き続きフォローアップする、としており、同等性を維持するための取組みが続くことになる。
2.連結先行
今後コンバージェンスを進める上では、会社法や税務との調整を要する問題があることが指摘されている。そこで、調整が必要な個別財務諸表に先行して、連結財務諸表に係る会計基準を改訂する、連結先行の考え方が示された。
3.個別財務諸表の取り扱い
個別財務諸表の取扱いについては幅広い見地から検討が必要としているが、任意適用においては日本基準のみを認め、強制適用においては日本基準とするかIFRSも許容するかは検討中とのことである。