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連載:IFRSと経営

IFRSがもたらす負荷、そして経営メリット

野村直秀
アクセンチュア株式会社
2009/7/23

IFRS導入は経営にどのようなインパクトを与えるのか。挙げられるのは業務プロセスやITシステムへの影響。教育の重要性も増す。しかし、負荷だけではない。IFRSが実現する「徹底した標準化と集約化」は経営の効率化、高品質化を生み出す(→記事要約<Page 3 >へ)

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ITへの影響

 IFRSがITシステムに及ぼす影響は広範囲にわたります。ITシステムは、様々な業務支援に活用されており、基幹業務プロセスの見直しが必要な場合には、必ず当該業務を支援しているITシステムの改修が必要となります。その中でも経理システムに及ぼす影響は特に大きくなることが予想されます。

 前回で述べた通り、グローバル基準のIFRSでは日本の税法との調整などは期待できません。そのため(連結)財務報告用の数値を作成する方法と、税務目的の財務数値を策定する方法との大きな乖離が予想されます。この場合も、国内で事業を営む以上は両方の基準での財務報告が求められますので、経理システム上も両方の財務数値を策定できるようにしておくことが必要となります。

 税務目的での財務数値は、税務申告時に申告期限内に策定できれば良いので、期末日以降にマニュアル処理などにより税務目的用の数値を策定することも可能です。一方(連結)財務報告用の財務数値は、制度上四半期開示も必要となり、重要な変動があった場合には適時に開示することが求められます。また、経営管理の観点からも適時な情報取得が必要となります。

 このように考えると、IFRS導入後は、IFRSの財務数値の生成を基本として経理システムを構築し、並行して税務目的あるいは会社法目的の財務数値の生成を行うシステムを構築(複数帳簿システム)あるいは、年度末などに税務目的の数値をマニュアルで生成する業務の構築が必要となります。

経営全般、人事組織への影響

 企業は、その経営目標を財務目標数値で表現し、進捗を外部に説明しています。したがって、財務数値を作成する基準が大きく変更された場合には、自社が掲げている経営目標としての数値を見直す必要があります。

 例えば、総資産利益率を経営目標数値として提示している企業の場合、IFRSの導入で固定資産および固定負債として計上される金額が大幅に増加することが予想できます。つまり基本的な経営環境に大きな変更がないにもかかわらず、以前設定した経営目標を達成することが困難になるのです。このような場合には、IFRSの基準を適用した場合の目標年次における想定総資産金額を算定して、新たな経営目標数値して設定・開示することが必要になるでしょう。

 企業全体としての経営目標数値が再設定された場合には、それを達成するために企業内で設定・運用されている各種業績目標数値やKPIの見直しも必要になります。

教育

 これまでも述べたように、IFRSの適用は、決算業務のみならず企業内の各部門に広く影響を及ぼします。これらの影響で生まれる新業務プロセスなどを短時間に習得し、日々の業務を着実に実行するためには、IFRSそのものや、IFRSの影響で変更される業務に関する教育を適時、適切に行う必要があります。

 経理・財務部門への教育は、早急に開始することが望まれます。その理由として、原則主義のIFRSを正しく理解した上で、自社の各種取引の内容を判断して適切な社内ルールを構築および維持できる人材の育成が必須となるからです。外部からの人材の調達も検討すべき項目ではありますが、日本国内におけるIFRSに習熟した人材は非常に限られているのが現状であり、自社内での育成も合わせて検討しておくべきといえます。

 またIFRSのエキスパートのみならず、経理財務部門で今後IFRSに対応した経理・決算処理を担当する方々は、やはり原則主義のIFRSの正しい理解が前提となりますので、継続的な教育プログラムの確立なども検討すべきです。これらの教育活動は、経理・財務部門の方々および新しい基幹業務を担当する内外のグループ企業の方々も対象とすべきことを忘れてはなりません。

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