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連載:SAPで実現するIFRS対応(1)

SAPユーザーがIFRS対応で考えるべきこととは?

鈴木大仁
アクセンチュア株式会社
2009/11/2

大企業向けERPとして高いシェアを持つSAPシステムのIFRS対応を説明する。ポイントになるのは目指す経営モデルとバージョンアップのタイミングだ。SAPユーザーがIFRS対応で考えるべきこととは?(→記事要約<Page 3 >へ)

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 私がSAP製システムの導入に携わり始めて15年が過ぎた。15年前といえば、SAPのERPがR2からR3に切り替わり、日本にSAPの現地法人が創立されたころだ。当時は、まずプロジェクト開始時に、SAPのカタカナ用語やERPの価値をクライアント企業の皆さんに説明し、理解してもらうことから始めた。設計時には、当時の機能上の制約もあり、事業部門や部署という組織構造をどのようにSAPのマスタで表現して業績をとらえるかに悩み、また構築時には、パフォーマンスの制約にも苦労しながらも本社に導入し、次に主要子会社1社ずつ構築・導入していく、この作業を同様に繰り返したものだった(参照記事:IFRS対応ITシステムの本質)。

 その後、R3側もバージョンアップを繰り返し、現在は機能面でもかなりの進化を遂げてきている。また、クラウド・コンピューティング技術に代表されるようにIT自体の処理能力も飛躍し、もはやこれまでの制約は制約でなくなり、導入の幅も大きく広がり、選択股が与えられるようになった。

 では、この15年で日本企業側のSAPの導入方法や範囲に大きな変化はあっただろうか。

 投資対効果の面からバージョンアップを躊躇(ちゅうちょ)し、導入前のカスタムメイドシステムの名残や初期導入時のユーザー要件、そして長年の運用の中でアドオンが散在。バージョンアップを実施して新たな機能をいくつか得たものの、ほとんどは以前と同じ。New(新)GLという複数元帳対応したモジュールの紹介は受けたが、意味合いや使い方に関する理解が進まず、Classical(旧)GLへのバージョンアップに留めた、などのユーザー企業が多いのではないだろうか。つまり、大きくは変わっていないというのが現状である。(※GLはGeneral Ledgerの略で、総勘定元帳の意味)

 しかし、我が国にとってのIFRS元年である2009年、SAPユーザー企業、及びこれからSAP製品の導入を検討する企業は、これまでにない変化が求められようとしている。以下ではこの点を解説する。

グローバル経済で日本企業に求められる経営能力

 リーマンショックを機に、これまでの経済秩序は大きな変化を見せている。IT技術の進化により世界の金融市場は直結し、BRICSといった新興国が台頭、経済及び世界の市場は急速に多極化へと進んでいる。世界第2位の経済大国である日本は、少子化・内需の限界を迎え、GDPでは2010年にも中国に抜かれる見通しである。こういった変化の中で、日本企業はこれまでの内需型企業も含め、大型M&Aによる海外市場への進出強化、中国をはじめとするグローバル市場への対応など、経営の比重を海外へとシフトしている。

 このような変化の中で、グローバル・ビジネス運営の必須条件として、企業はグローバル全体の拠点業績の変化をタイムリーにとらえ、グループ本社からマイクロマネジメントする仕組みや、そのためのガバナンス能力が求められてくる。

日本のIFRSに関する理解状況と懸念

 IFRSは多極化する市場において、投資家が会計基準の相違なく企業を評価するために必要不可欠な共通尺度である。原則主義であることは、各社が自ら投資家にアピールする方法を決定できることを意味する。またバランスシート重視であることは一過性の当期損益の変化に一喜一憂する経営から、将来の企業価値を約束する経営に変わることを促進するだろう。さらに連結に関するディスクロージャ(開示要請)は、本社中心や個社単位の経営から、グループ全体の最適経営へと舵取りを大きく変えることを、世の中にアピールできるのである。つまり、IFRSの本質は経営の中身を考えることにあり、それをなくしては何も始まらないのである。

 一方で、日本企業のIFRS検討はまだ初期段階にある。そのため、現在の経理情報をどのようにIFRSに加工するか、どこまでの情報を保持し開示することが可能かなど、開示方法の議論と、収益や資産の認識・測定といった経理テクニックに留まってはいないだろうか。また、企業会計基準委員会(ASBJ)や金融庁からのアナウンス待ち、他社の動向を見てから考えるという受け身の姿勢で足踏みをしている企業も多いのではないだろうか。

 私の懸念は、日本企業が上記で述べたIFRSの本質に気付かずに、開示や経理テクニック論に終始したまま、ITシステムの改修などのシステム対応を始めてしまうことである。IFRSの本質を理解できれば、強制適用までの間にしなければならないことが、山積みになっていることに気付くだろう。

 これからの経営のあり方を考え、オペレーション・モデルを再検討して勘定科目をはじめとするグループ内の情報構造を見直す、マスタ/データの共通化、組織変更、ITシステム再構築を検討するなど、それなりの時間が必要となることばかりである。開示や認識・測定の方法は、会計士や業界団体が教えてくれるが、経営のあり方は誰かが教えてはくれる訳でもなく、各社が自ら考えなくてはならない事である。数年後、気が付いた時にはグローバル競争の中で自社だけ取り残されていた、となってはならない。

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