Apacheの波に乗る大企業

2002/5/11
By Richard Karpinski InternetWeek, May 7, 2002, 4:39 p.m. ET

 “タダは良い”、これは大衆市場における経済の基本だ。そして、“タダは良い”が、それにはバックエンドの余分なサポートコスト、不十分なサービスレベル、低いシステムパフォーマンスによる費用が発生しないことが条件、というのがITでの基本だ。

 この法則のエンタープライズシステムにおける格好の事例が、高い人気を誇るオープンソースのApache Webサーバの商用サポートバージョン(特に大幅に改善されてリリースされたばかりのバージョン2.0)だろう。

 このビジネスチャンスを活用しているのが米Covalent Technologiesだ。同社はApacheプラットフォーム向けにアドオンサービス、サポート、そして製品を提供すべく数年前に設立された。同社の創業者兼CTOのRandy Terbush氏は、Apacheの開発に当初から携わっていた経歴を持つ。また、同社のエンジニアリングマネージャであるRyan Bloom氏は、Apache 2.0の開発を先頭に立って支援した人物だ。

 Covalentは5月7日、Apache 2.0を完全にサポートする初めてのバージョン、「Enterprise Ready Server」のバージョン2.1をリリースした。同サーバはほかに、ApacheコードベースのフロントエンドWebサーバを大企業が一段と容易に管理/運用できるようになる一連の管理機能も搭載している。

 商用サポート版のApache製品を販売しているのはCovalentだけではない。例えば、米レッド・ハットは同社の「StrongHold Enterprise Server」とTomcat Javaサーブレットエンジンなどの関連技術をApacheベースにしており、IBMもApacheに大きく力を入れ、WebSphereファミリの一部としてWebサーバを投入している。これらのサーバ(そしてApacheの本来の無償ダウンロードバージョン)は、米マイクロソフトのInternet Information Server(IIS)や米サン・マイクロシステムズのWebサーバ(先日ブランドの変更を受けてSun ONE製品ラインの一部となった昔のiPlanet)との間で最も激しい競争を繰り広げている。

 Covalentのマーケティング担当副社長、Jim Zemlin氏によると、Webサーバは、ありふれた、どちらかといえば補足的なものとして従来からとらえられてきたが、大企業はその進化の著しいWebサーバアーキテクチャが直面する管理、スケーラビリティ、そしてセキュリティの課題にもっと関心を寄せた方が賢明だという。

 「現時点でアプリケーションを論理的に3層に分割する場合は、Webサーバに力を入れる方がアーキテクチャ上は理にかなっている。だがIBM、HP(ヒューレット・パッカード)、BEA(システムズ)といったアプリケーションサーバ中心の企業は、このWebの階層にあまり重点を置いていない」(Zemlin氏)

 Zemlin氏の主張によると、Webの運営を発展させる際に大半の企業がとりあえずとる手段は、Webサーバの管理に手を加えることだという。

 「何年もかけてさまざまなWebサーバをまとめてきた運用担当者は現在、この階層を統一し、同じフロントエンドを用意して、(サーバ用の)パッチ探しに終止符を打ちたいと考えている。彼らは、数千までいかなくとも数十台のWebサーバを1台のコンソールを使ってリモートから管理、コンフィギュレーション、そして導入できるようにしたいと願っている」(Zemlin氏)

 この新しい要件を例証しているのが、同鉄道会社の米Union Pacific Railroadだ。同社は現在、Apache 1.3を運用し、フロントエンドにはBEAのWebLogicアプリケーションサーバを使用している。Union Pacificのシニアシステムエンジニア、Tom Lantry氏によると、同社は先日もApache 2.0ベースのCovalent Enterprise Ready Serversを購入し、数カ月以内にこの製品を導入するという。

 「(各Webサーバの)設定をわざわざ手作業で編集しているのが当社の現状だ。作業を楽にしてくれるソフトウェアもあるにはあるが、基本的には応急処置に過ぎない。Webサーバの難点は、サーバを追加すればするほど環境全体を同期させ続けることや管理が難しくなることだ」(Lantry氏)

 Lantry氏は、1台のサーバに常駐して単一インターフェイスでApacheサーバ全体を管理可能にするCovalentの管理ポータルインターフェイスが利用できるようになるのを心待ちにしている。また、同様に一元化されたログサービスを使えばサーバのログを1カ所に集約できるようにもなるという。さらにLantry氏によると、現在はCovalent製品の一部となっているものの、以前はサポートサービスの1つだったプロキシサービスを利用すれば、前バージョンを運用しながら、同時にアプリケーションサーバの各バージョンのアップグレードが実現するという。

 現在のところ同社のシステムは、6台のプロダクションサーバと7台の開発サーバで構成されているが、今後増段するWebサーバのインストールの拡張時には、これらすべての管理サポートが役立つようになる。これらのWebサーバは車両トラッキング、注文管理、請求アプリケーションといったUnion Pacificにとって最もミッションクリティカルなカスタマーアプリケーションのフロントエンドになっている。Lantry氏たちのチームは今年、利用度の非常に高い乗員スケジューリングアプリケーションをはじめとする自社イントラネットアプリケーションを新しいBEA/Apacheインフラへと移行することになる。

 これだけApache中心になってくると、その環境を管理するにあたって一段と統制のとれたアプローチが必要になる、とLantry氏は話す。その必要条件を満たすのがCovalentの商用サポートサーバなのだ。

 「オープンソースバージョンのApacheを使い続けていたら、コードベースの維持と問題解決だけに従事する専任の担当者が必要になっていただろう。このような人材は見つけるのが難しく、人件費も相当な額になってしまう」(Lantry氏)

 Covalent(そしてApacheコミュニティ全体)は、拡大するWebインフラの管理に大企業が大きな関心を寄せ始めていることを活用したいと考えている。

 CovalentのZemlin氏は、「来年には、ますます多くの企業がWebインフラ管理の問題に取り組むようになるだろう。彼らがどのようにしてこれだけのものを効率的に管理するつもりなのかは見当もつかない。多数のネットワーク機器の導入が進んでいた10年前のように、管理ベンダ各社が波に乗ってくるのは後になってからだ。シスコ(システムズ)が成功してからチボリが成功したのだ」と語った。

 Covalent(そのエンタープライズカスタマには米モルガン・スタンレー、米Bear Stearns、米シスコ、米Freddie Macなどの名前がある)といったApacheを支援するベンダ各社は、同じような波に乗り、WebやApacheサーバの成功に乗じて大企業の中核に食い込もうと考えている。

[英文記事]
Enterprises Ride Apache Wave

[関連リンク]
The Apache Software Foundation
Covalent Technologies

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