柔軟なバージョンアップが可能となった新R/3

2002/5/14

 SAPジャパンは5月13日、「SAP R/3 Enterprise」を発表した。同社のインターネット対応eビジネスソリューション「mySAP.com」のコアとなるもので、現行の「SAP R/3 4.6C」の後継となる。この日、ドイツ本社のR/3開発最高責任者であるエクゼクティブ・ボード・メンバー クラウス・ハインリッヒ(Dr. Claus Heinrich)氏が来日し、R/3 Enterpriseの開発方針や今後の方向性などについて説明した。

独SAP エクゼクティブ・ボード・メンバー クラウス・ハインリッヒ(Dr. Claus Heinrich)氏

 今年創業30周年を迎えるSAPは、1992年にR/3を発表し、クライアント/サーバモデルの全盛期とともにERPのデファクト・スタンダードとなった。その後、インターネット時代に合わせeビジネススイートのmySAP.comを発表、R/3はこのスイートの一部に盛り込まれた。

 現在、SAPは世界120カ国以上4万4500の拠点を持ち、顧客は1万7500を数える。1000以上のパートナー、120万を上回るエンドユーザーを抱える巨大IT企業に成長を遂げた同社は、メインフレーム時代から技術の変遷に合わせてERPを革新させてきた。mySAP.comは、企業システムに求められる領域が組織内の統合から組織間に変化したのに対応し、組織をまたいでのビジネスプロセス、ビジネスの変化に柔軟に対応するフレームワークなどをコンポーネントとして提供し、21もの業界別ソリューションを持つスイート製品だ。

 mySAP.comのERPの部分として統合されたR/3は単体でも利用が可能。ハインリッヒ氏は同社の原点であるERPに今後も注力し続けることを強調し、「ERPのリーダーであるSAPが提供するERP製品は今後もSAP R/3であり続ける」と述べた。

 R/3 Enterpriseは、「SAP R/3 Enterprise コア」「SAP R/3 Enterprise 拡張機能」「SAP Webアプリケーションサーバ」の3つで構成される。「新バージョン開発の際に、顧客にリサーチを行った結果、大きく3種類の要件に大別できた」とハインリッヒ氏は開発の背景を語る。R/3を継続して利用しつつ新機能を取り込みたいという“継続性”、R/3の最適化により新しいビジネス領域に拡張していく“柔軟性と最適化”、現状のR/3のままeビジネスへの全面移行を図る“移行”。これらの要件を満たすために「SAP R/3 Enterpriseは、インフラとなるコアモジュールと必要に応じて取捨選択できる拡張機能により構成することにした」と同氏は述べた。

 SAP R/3 Enterprise コアは、4.6CをベースとしたいわゆるERPの機能を持つ中核モジュール。SAP R/3 Enterprise 拡張機能は、ニーズに応じて選択が可能な機能群で、“カプセル化”という新コンセプトに基いて作成され、個別のモジュールとして提供される。こちらは継続的にバージョンアップされ、SAP R/3 Enterprise コアとは異なるサイクルでアップデートが行われる。SAP Webアプリケーションサーバは、すべてのmySAP.comソリューションの基盤となるもので、これまで同社がベーシス(Basis)テクノロジとして提供してきたパフォーマンスや拡張性、監視機能、バージョン管理、セキュリティ、ワークフローといった機能にSOAPやXMLといったオープン技術などを付加し、J2EEベースのアプリケーションサーバに進化させたもの。Unicode準拠により、異機種や多言語環境へ完全に対応できるという。

 アップグレードや保守などで柔軟な応対を求める声が高まっているが、同社によると、今後のSAP R/3 Enterpriseのバージョンアップはほぼ機能拡張セットに限られるという。そのため、バージョンアップにかかるコストは大幅に削減される。この拡張機能およびアプリケーションサーバのバージョンアップは毎年行われる予定で、保守は新バージョン発表後も続行するとしている。

 「ビジネスのトレンドは変化している。キーコンピテンシーへのフォーカス、既存資産の活用がますます重要になってきた」とハインリッヒ氏は述べ、新たにシステムや技術を導入するより既存資産をどう統合・活用するか、あるいはROIの計測といったことにトレンドが移ってきたとの見解を示した。「だが、変化は絶え間なく起きており、これに対応する準備を備えることが重要だ」(ハインリッヒ氏)。同氏はそのために、各企業はこれまでのビジネスや業界の枠を越えたビジネス・モデルを構築すべきで、そのために柔軟性が求められていると続けた。「それに備えられるのがSAP R/3 Enterpriseだ」(ハインリッヒ氏)。

 SAP R/3 Enterpriseは、今年第3四半期までに利用可能となる予定。

(編集局 末岡洋子)

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