[ガートナー特別寄稿]
携帯電話のJavaサービスはゲームにしか使えないのか?

ガートナージャパン
ジャパン リサーチ センター リサーチディレクター
丹羽 正邦

2002/8/2

 Javaは、複数ベンダからの支持を集めており、従来のメインフレームと、PCを中心としたマイクロソフトのWindowsと並び称される企業システムの基盤になりつつある。Javaが注目を浴びている理由の1つとして、携帯電話にJavaが組み込まれることにより、企業システムにとどまらないJavaアプリケーションの幅広い展開が期待されることが挙げられる。しかし、いまのところ、携帯電話のJavaサービスの利用は、一般ユーザーを対象としたゲームやツールが主流となっている。また、それ以前に登場した、iモードに代表されるインターネット接続サービスに関しても、企業での利用はスケージュールや電子メールといったモバイル対応のグループウェアにとどまり、主流は、一般ユーザーを対象とした着メロや待ち受け画面など、エンターテインメント系コンテンツである。

 このように、さまざまなデータ通信サービスが付加された携帯電話だが、企業の利用はいまだに通話と電子メールによるコミュニケーションにとどまっているように見える。

なぜ企業向け携帯電話アプリケーションは普及しないのか

 通話と電子メールによるコミュニケーションを超えた企業向け携帯電話アプリケーションの普及が遅れている理由として、データ通信料金の高さを指摘する声が多い。また、現在のような従量制の料金体系は、かかる費用の予測が難しく、企業が採用を躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない理由の1つとなっていることに疑いの余地はない。

 では、単に通信料金が下がり定額制になれば、携帯電話アプリケーションが普及するのかと言うと、そのようなことはないというのがガートナーの見方である。普及の進まない最大の理由はやはり、企業向け携帯電話アプリケーションの提供が困難であるということにあるだろう。携帯電話は、端末の買い換えサイクルがPCよりも短いうえに、表示画面の大きさや使用できる機能、アプリケーションの容量、データ領域、アップロードできるサーバなどのさまざまな制約条件が存在し、それらが端末ごと、通信事業者ごとに異なっている。これらの制約条件を考慮して、企業向けに携帯電話アプリケーションを構築・提供することは、アプリケーションベンダにとって、決して容易なことではない。

携帯電話アプリケーションが普及するには

 もちろん、ある特定の携帯電話を対象にアプリケーションを作成することは、それほど難しいことではない。つまり、基盤となる携帯電話端末を別途用意することを前提とすれば、その端末を対象にアプリケーションを展開することは比較的容易といえる。しかし、ある携帯電話端末に対応するのにどの程度の時間がかかるのか、そして、その端末はいつごろまで販売が継続されるのか、次の端末にアプリケーションやデータを容易に移行できるのかは問題である。

 次々と新しい機種が発売される携帯電話端末市場では、特定の端末向けに新たにコンテンツやアプリケーションを用意することにしたとしても、その準備が整うまでに、入手可能な端末が変わってしまうかもしれない。特定の携帯電話端末を対象としたアプリケーションの開発は、発売予定の端末をメーカーから事前に入手するか、各携帯電話端末に共通して搭載されることが見込まれる機能だけを利用するか、あるいは、特定の機種のみを対象にする必要がある。しかし、このような対応は、いずれも一般企業にとっては難しく、アプリケーションベンダにとってはリスクが高いことである。こうしたことから、企業向けの携帯電話アプリケーションの普及は、当面困難な状況が続くと見込まれる。

企業における携帯電話の今後

 それでは、今後も企業における携帯電話の利用は、音声と電子メールによるコミュニケーションが主流なのだろうか。ガートナーではそのようなことはないと見ている。すでに比較的廉価な定額制の通信料金を採用しているサービスとしてPHSの存在があるが、その新規契約のほとんどはデータ通信サービスの利用であり、音声通信利用者の解約数とほぼ同じだけの新規加入者を獲得しているという状況だ。

 第三世代(3G)携帯電話で、より高速なデータ通信サービスが定額制で提供されれば、企業の携帯電話の利用はさらに拡大することになるだろう。一方の携帯電話アプリケーションの利用には、端末の機種や通信事業者による制約条件の違いがアプリケーションに影響を及ぼさず、アプリケーションのポータビリティが保証される必要がある。PCやPDAなどの携帯情報端末は、アプリケーションのポータビリティが携帯電話よりもはるかに保証されている。携帯電話とPCあるいは携帯情報端末を接続する場合には、それぞれの機器メーカーや通信事業者がその接続を保証している。この構成であれば、携帯電話端末の機種やサービスに依存することなくアプリケーションを利用することはすでに可能である。現在、携帯電話各社は、自社の携帯電話端末に独自の機能を付加することによって、他社との差別化を図ろうとしている。携帯電話アプリケーションの利用にあたっては、今後も個別対応が必要になるであろう。

まとめ

 当面の間、企業における携帯電話の利用は、アプリケーションの基盤としてではなく、さまざまな機器とネットワークを接続する、より高速なゲートウェイとして拡大することになる。企業向けアプリケーションの基盤としての見込みがないわけではないが、現時点では短期的な基盤と考えざるを得ない。長期的には、より安定したアプリケーションの基盤としてはPCや携帯情報端末の利用をお勧めする。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクター 丹羽氏からの寄稿である。

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