[ガートナー特別寄稿]
必ずしも順風満帆ではないMSのサーバ・ロードマップ

ガートナージャパン
ジャパン リサーチ センター リサーチディレクター
栗原 潔

2003/2/15

 停滞している2003年のIT市場において期待される大きなイベントの1つがWindows Server 2003の出荷開始である。米国では4月、日本でもほぼ同時期の出荷が予定されている。ある意味、このサーバOSの出荷は難産であった。本来であれば、2001年に出荷を予定していたものが、2年近くの遅れとなってしまったからである。

 そもそも、コード名“Whistler”として知られていたこのOSは、その名称が4回も変更されている。2001年の4月にWindows 2001として発表されたが、同年7月にはWindows .NET Serverと名称変更され、さらに、2002年8月にはWindows .NET Server 2003へ、さらにさらに、今年の1月9日にはWindows Server 2003と変更された。

 .NETというブランドをサーバOSの名称からはずしたのは賢明だろう。かねてから、ガートナーはマイクロソフトが.NETというブランド名を濫用しすぎることで、顧客を混乱させていると述べてきた。

 .NETには、少なくとも、Webサービスによる疎結合型の分散システム・インフラとしての意味と、言語中立(マイクロソフトによるJavaへの対抗策)の実行環境(いわゆる、.NETフレームワーク)という両方の意味があった。実は、これだけでも十分に顧客を混乱させている。Webサービスは複数アプリケーション間の連携のためのアーキテクチャであり、1つのアプリケーション内部の実行環境とは独立したものだからだ(例えば、EJBのコンポーネントを.NETのWebサービスで連携することが原理的には可能である)。

 さらに、マイクロソフトは、.NETを単にサーバ製品のブランド名としても使用し始めたため、混乱にさらに拍車をかけることとなってしまった。つまり、.NET Enterprise Serverというブランドである。例えば、ExchangeやSQL Serverまでも(少なくとも現時点では)上記の.NETの意味とほとんど関係がないのに、.NETというブランド名で語られることとなってしまった。Windows Server 2003も.NETフレームワークがプリインストールされているという点では、.NETに関係ないことはないのだが、.NETフレームワークは別途無償ダウンロードして、現行のWindows 2000 Serverにインストールすることもできるので、特に、Windows Server 2003ならではということもないのである。

 Windows Server 2003は、名前が表すほど画期的な製品ではなく、Windows 2000 Serverのマイナーチェンジである(しゃれで、“Windows Server 2000.1”と呼ぶ人もいるくらいである)。ただし、マイナーチェンジとはいえ、ActiveDirectory周りで重要な強化(より正確に言うならばWindows 2000 Serverでの積み残しの解消)が行われている(例えば、フォレスト間の信頼関係など)。ガートナーはActiveDirectoryへの移行を検討しているNTバージョン4のユーザーに対して、可能であればWindows Server 2003を待つように推奨してきた。いったんWindows 2000 Serverへ移行し、さらに、Windows Server 2003へと移行することは、特に大規模なActive Directory環境では負担が大きすぎると考えるからだ。この場合、Windows Server 2003がマイナーチェンジであることは、かえって好都合である。Windows 2000 Serverと比較してカーネルの大幅な変更がないため、コードは枯れており、出荷初期から比較的安心して利用できると考えられるからである。

 ガートナーは、今までWindowsの新しいバージョンが出荷されるたびに、最初のサービスパックの安定稼働が確認されるまで待つべきというガイドラインを出してきたが、Windows Server 2003については、出荷後すぐにテスト運用が可能という見解である(もちろん、ActiveDirectoryの新機能については十分なテストが必要であるし、IISのキュー管理の一部がカーネル・モードになったことから、大規模なIISの展開には注意を要すると考えるが)。

 また、もう1つの重要な動きとして、コード名“Longhorn”として知られていた次期マイナーチェンジ・バージョンのサーバ版がキャンセルされたことがある(“Longhorn”のデスクトップ版は今のところ2004年後半から2005年前半に出荷されると予測されている)。“Wshitler”の出荷遅れにより、矢継ぎ早にサーバOSのバージョンアップが行われることになっては、ユーザーおよびマイクロソフトの負担が大き過ぎるということが大きな理由である。

 サーバ版の“Longhorn”では、ワークロード管理機能(オンラインとバッチなど、タイプの異なるアプリケーション群を資源のバランスを取りながら同時並行的に稼働させる機能)や動的区画分割(区画の構成(CPU数やメモリ容量)をリブートなしに変更できるようにする機能)などのハイエンド向けの機能が予定されていた。ユニシスのES7000などのハイエンド・サーバ領域でUNIXサーバと競合していくためには重要な機能である。マイクロソフトのロードマップ上は、これらの機能は次期メジャー・バージョンである“Blackcomb”まで提供されないことになるが、現実には、例えば、データセンタ版専用の機能強化パックのような形態でOEM向けにのみ提供される可能性が高いとみている。“Blackcomb”の出荷予定時期である2006年から2007年前半まで、これらの機能が出荷されないことは、Windows Serverのハイエンドでの競争力を著しく損なうことになるからである。

 そもそも、マイクロソフトのサーバOSの出荷は同社の当初の思惑通りではないだろう。本来であれば、デスクトップOSを毎年バージョンアップ(メジャー・バージョンアップは2年に1度)し、新学期シーズンにぶつけて出荷、そして、メジャー・バージョンアップの半年後に同じカーネル・ベースのサーバを出荷するというのがマイクロソフトの理想のパターンだったはずだ。しかし、このパターンの維持は2つの理由で困難になった。第1に、セキュリティ確保のためのテスト負荷が今まで以上に大きくなっていることである。第2に、企業コンピューティングの世界では、2年ごとのアップグレードは非現実的であるという点が挙げられる。

 マイクロソフトの製品バージョンアップのペースが緩やかになったことは、企業ユーザーとしては喜ぶべきことである(もちろん、セキュリティ問題修正などの重要パッチが迅速に提供されることが大前提ではあるが)。その一方で、バージョンアップによる収益の減少を嫌うマイクロソフトが、ライセンス料金の実質的な値上げを行う兆しが見られる点には注意すべきだろう。マイクロソフト製品以外の “代替ソリューション”がほとんどない過去においては、ユーザーの立場は弱いものだった。しかし、今ではLinuxなどのオープン・ソース系の代替案もある。無理にWindowsをLinuxへ移行したりするなど、マイクロソフトとけんかをする必要はないが、Linuxを武器としてマイクロソフトと対等な立場で交渉することが有利なケースが、今後は増えてくるだろう。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクター 栗原氏からの寄稿である。

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