“マイヤーズの呪縛”を解き放て

2003/3/7

セッション会場は満員だった

 ソフトウェア開発におけるテストの重要性は年々高まっている。ITシステムの規模が拡大し続け、アプリケーションは複雑化の一途をたどるこのような状況は、企業におけるITの重要性を測るものさしの1つとも言えるだろう。もちろん、そのこと自体はIT業界にとって喜ばしいことなのだが、一方で複雑化、大規模化のベクトルを突き進む開発現場の“負の側面”として、近年、新聞、テレビ、雑誌をにぎわすITシステムの不具合を引き起こす遠因ともなっている。不具合を未然に防ぐには、リリース以前の検証作業が担う役割は非常に重要だ。

 3月6日、ソフトウェア技術者ネットワーク(S-open)とソフトウェアテスト技術者交流会(TEF)は、「ソフトウェアテストシンポジウム 2003」を開催した。ソフトウェア開発のテストに携わるハード・ソフトベンダ、システムインテグレータ、学術機関の研究者たちが一同に会し、さまざまな研究成果を発表した。

 基調講演として「日本と世界のソフトウェア・テストの状況」と題するプレゼンテーションを行った日立ソフトウェアエンジニアリングの山浦恒央氏は、日本のソフトウェア開発現場が潜在能力として持つ、高品質製品構築の底力に言及し、モノ作り大国としての地位は揺るがないことをあらためて指摘した。とはいえ、ソフトウェア開発方式は年々進化し続ける。コスト削減、納期短縮のため、すべてを自社開発するのではなく、すでに市場に存在する製品を組み込んだり、技術の特殊化、特化で他社に製品の一部の開発を依頼せざるを得ない状況などが生まれている。結果的に、製造工程(もちろんアプリケーション開発も含む)における品質管理はさらに重要性を増し、品質管理を行う専任担当者の地位の向上が企業にとっては最重要課題の1つ、と山浦氏は提言する。

 そのほか、研究発表の場では、「テストプロセス改善モデルの比較分析」「ダイナミックに操作を補完するテスト自動化について」「プログラムの実行履歴を用いた利用モデルの作成方法について」など、現状のソフトウェア開発現場で取り上げられる問題点を浮き彫りにし、その解決策を見いだそうとするテーマが議論された。

 「ソフトウェア・テストの技法」(近代科学社)で著名なG.J. マイヤーズ(Glenford J. Myers)はかつて、「一般に、プログラムのすべてのエラーを見つけることは、非現実的でもあり、しばしば不可能でもある」という“原則”を提示したが、マイヤーズの原則を何の疑問もなくうのみにしていては先には進めない。ソフトウェアテストシンポジウムは“マイヤーズの呪縛”を解き放つ試みとして、今後も重要性を増していくかもしれない。

(編集局 谷古宇浩司)

[関連リンク]
ソフトウェア技術者ネットワーク(S-open)
ソフトウェアテスト技術者交流会(TEF)

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