灯台下暗しのポータル導入秘話

2003/3/12

  日本でポータルというと、ポータルを持つこと自体が目的となってしまい、技術的な問題と投資回収効果ばかりが話題に上る。結局、ポータルそのものの導入は進んでいないような気がするのだが、米国のある先進ポータル導入ユーザーの場合、「目の前にある問題を解決する手段がまさにポータルだった」ということのようだ。BEAシステムズのテクノロジーカンファレンス「BEA eWORLD 2003」で、同社の顧客企業のプレス向けパネルセッションを聞いて、そういう感想を持った。
 
 パネリストとして参加したのは、Oppenheimerfundsという投資信託会社のリサーチ・アンド・ポートフォリオサービス担当ディレクター Michael Goldverg氏、ストレージベンダ ネットワーク・アプライアンス シニアITマネージャ Tracy Howard氏、コピー複合機やファクシミリ製品を扱う東芝アメリカビジネスソリューション eBusiness設計/開発担当ディレクター Denny Staciel氏の3氏。
 
 3氏はまず、各社がポータルシステムを導入した動機を語った。Oppenheimerfundsの場合、同社の社員がさまざまな投資案件で意思決定を行うために支援が必要だった、とする。従来は対象企業の株価分析1つにしても、さまざまなチャネルから情報を入手できたのだが、意思決定までの時間があまりにも少ないため、社員はそれぞれ、自分たちのやり方で、自分なりに情報をまとめていた。しかし、経営幹部のツルの一声もあり、こうした基幹ビジネスの業務負荷を減らそうという目的から、ポータルシステムの導入が決定された。
 
 ネットワーク・アプライアンスで問題となっていたのは、営業部隊のコミュニケーションだった。同社は世界70カ国以上の地域で販売展開をしている。異なった言語、異なったタイムゾーンでのビジネスを、電子メールやボイスメールを活用して、マーケティングや販売オペレーションなどの情報のやりとりをしていた。しかし、どこに何があるか整理されていない状態だったため、社員は必要な情報を探し出すのに苦労していた。そこで、約3年前に情報リポジトリを作ろうという機運が高まった。
 
 東芝アメリカビジネスソリューションの場合、600を超えるディーラーやディストリビュータ向けのCRMを考える中で、ポータルプロジェクトが持ち上がった。それまでは、専門窓口が問い合わせに応じていたが、人間系だけでは時間的、人材リソース的に顧客満足度を向上させることが難しいと判断、BEA WebLogic Portalの導入を決定したらしい。
 
 プロジェクト中での最大の挑戦として各氏とも、“技術的な問題ではなく、ビジネス上の問題だった”と答えた。Oppenheimerfunds、ネットワーク・アプライアンス、東芝アメリカビジネスソリューション、いずれの場合もそれまで、個人や営業部隊が確立してきたビジネスの流儀やビジネスプロセスを、1つのポータルの中でどのようにグローバル化し、標準化していくかが乗り越えなければならない壁だった。
 
 東芝アメリカビジネスソリューションではそれに加えて、ディーラーとディストリビュータで求める情報が異なるため、1つのポータルの中でどのようにパーソナライズするかが課題となった。結局、パーソナライズの方法を見極めるのに6カ月かかった。「いったんビジネス要件がクリアになると、適用する技術の選定、開発自体は容易だった」とGoldverg氏、Howard氏、Staceil氏ともに声をそろえる。BEA WebLogic Portalを選択したのは、「スタンダードベースのJ2EE環境で構成されており、ソリューションとして完成度が高かったからだ」とGoldverg氏は述べている。
  
 いずれのケースも、ポータルの導入で企業文化が大きく変化したようだ。Oppenheimerfundsでは、今やポータルがビジネスを遂行するための一大手段となっており、情報システム部門は新しく必要な機能は何かを考え続ける一方で、ビジネスユーザーに対して定期的にトレーニングを行っている。進化のスピードも速くなっており、6週間ごとに新しいツールが追加される。
 
 効果を数値でとらえているのは東芝アメリカソリューションだ。ディーラー/ディストリビュータ担当部門は、これまで営業時間の56%をサポートビジネスに割いていたが、現在は20%までダウンした。部門の人員数は増えていないにかかわらず、今日では1万5000ユーザー(立ち上げ当時は6000ユーザー)の管理が可能になった。ポータルを、情報コンテンツを運ぶ“乗り物”としたことで、年間30万ドルのコスト削減も達成した。この成功にヨーロッパやシンガポールのグループ会社も興味を示し、同様のシステムを展開する予定があるという。
 
 「人とビジネス、われわれとエンドユーザーを結ぶコミュニケーションチャネルがオープンした」というのは、ネットワーク・アプライアンスのTracy Howard氏だ。「誰もがアクセスできて、誰もが利用できるシステムを持ったおかげで、ビジネスを遂行している人々の顔がよく見えるようになった」と彼女は語った。
 
 興味深かったのは、どの企業も「投資回収効果を事前に詳しく見積もらなかった」と答えたことだ。必要に突き動かされて導入に踏み切り、結果として大きな効果を得たという彼らのケースは、日本のポータルプロジェクトのありようを考える際にも参考になるかもしれない。

(吉田育代)

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米BEAシステムズ

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