[Interview] 「PDFにライバルはいない」、アドビのサーバソリューション

2003/5/17

 アドビ システムズがPDFをベースにしたサーバソリューションを加速させている。5月15日の「Acrobat 6.0」の発表では米アドビ システムズの社長兼CEO ブルース チゼン氏が「eペーパー・ソリューションには大きなチャンスがある」と語り、今後もPDFを中心としたソリューション事業を拡大していく考えを示した。

 アドビは5月12日に定型フォームの利用が多い企業をターゲットに、電子フォームを設計、運用する3ツールの出荷を開始した。3ツールは電子フォームを作成する「Form Designer 5.0」と、フォームをユーザーに配信する「Form Server 5.0」、クライアント用ツールの「Form Client 5.0」。さらにAdobe Reader(旧Acrobat Reader)を使ってPDFフォームへの電子署名や記入データの送信、注釈ツールの利用などが可能になる特別なPDFファイルを作成できるツール「Document Server for Reader Extensions」を今年第2四半期に出荷予定だ。

 Form Designer 5.0、Form Server 5.0、Form Client 5.0はいずれも昨年買収したアクセリオの製品をバージョンアップさせたソフトで、アドビとして国内で本格的に販売することになる。アドビはどのような戦略でサーバソリューションを進めるのか。米アドビ システムズのePaper ビジネスユニット担当シニア バイス プレジデント アイヴァン クーン(Ivan Koon)氏と、アドビ システムズのマーケティング本部 ePaperソリューション部 部長 市川孝氏に聞いた。


──サーバソリューションにおけるアドビの戦略は

クーン氏 アドビには2つのチャンスがあると考えている。どこの企業でも2つの情報の流れがある。1つは各企業が導入したCRM、ERPなど情報システムによるトランザクションをベースにした流れだ。もう1つはドキュメント情報の流れだ。これは紙の文書の場合と、電子文書の場合がある。

米アドビ システムズのePaper ビジネスユニット担当シニア バイス プレジデント アイヴァン クーン氏

 だが、ドキュメントの流れは自動化されていない。このため場合によってはビジネスプロセスが遅れたり、誤った情報がまぎれてしまうケースがある。それでビジネス上の意思決定が行きづまってしまう。これは、ドキュメントがトランザクションの流れに統合化されていないのが問題。この自動化と統合の2つのソリューションがアドビにとってチャンスになる。

 アドビが訴えているのは、ドキュメントシステムを自動化して、トランザクション系のシステムに統合すること。われわれは、これをドキュメント統合ソリューションと呼んでいる。このソリューションのベースになるテクノロジがPDFだ。PDFには3つのレイヤーがある。1つ目はよく知られたプレゼンテーション用のレイヤーで、忠実な再現性をアドビは提供している。コンテンツの内容が整合性を確実に維持することも保障している。2つ目のレイヤーの中にはビジネスロジックを組み込んでいる。電子署名を組み込んだり、オフラインでの機能を提供することができるようになっている。オンライン、オフラインでワークフローを進めることを可能にしている。3つ目のレイヤーにはXMLデータやメタデータを組み込んでいる。

──具体的にはどのようなソリューションを想定しているのか

クーン氏 ERPを使っている企業を例に挙げると、ERPがPDF文書を出力する。このPDF文書を「Adobe Document Server for Reader Extensions」で処理すると、PDF文書に組み込まれている特別な使用権をオンにすることができる。取引先の企業では、通常のAdobe Readerを使って、このPDF文書を閲覧だけでなく、注釈コメントを付けることができるようになる。また、PDF文書からXMLデータを抽出して、顧客のバックエンドシステムに自動入力させることが可能だ。この例のように、アドビのテクノロジは、ドキュメントの自動化やトランザクションシステムとの統合を可能にする。それは社内だけでなく、社外のパートナーとの取引にも有効だ。

 このドキュメント統合ソリューションをサポートする3つのサービス分野がある。文書生成、文書コラボレーション、文書のプロセス管理。この3つのサービス機能が実現することで、ドキュメントのライフサイクルをエンド・ツー・エンドでカバーできる。

──サーバソリューションのターゲットはどこか

クーン氏 ターゲットとして主に考えているのは官庁。電子政府は日本はもちろん、世界中の政府が力を入れている。例えば、米国では行政によって厳格な規制と報告を求められる業種がある。事業で廃棄物を出すような企業は、創業の許可を得るためにさまざまな文書を州政府に提出する。さらに毎月、州政府、連邦政府に報告する必要がある。そのような毎月の報告が求めれている企業は全米で6万社ある。各社ごとに人手、労力をかけて報告書を作成しているが、受け取る官庁も報告書をもう一度、入力してバックエンドのシステムに入れるという手間がかかっている。その処理時間に数カ月もかかっているのが実情だ。

 こういうときに、「Adobe Form Server」を導入すれば、州政府のWebサイトにPDFフォームという形で掲載し、報告書を提出する企業が利用できる。企業が州政府のWebサイトにログオンすれば、システムが企業名を判断して、必要なフォームを用意する。しかも前もって記載できるところは記載されている。ビジネスロジックをフォームに埋め込むこともできるので、フォームが警告を出したり、注意を促すことができ、データ入力の誤りを最小限にできるだろう。また、官庁は、「Adobe Workflow Server」を使って、電子的に受け取った文書を必要な部署に回すことができる。担当部署が申請許可を出せば、文書からXMLデータを抽出して、官庁のバックエンドシステムに入力する。あとは企業に対して、通知を送ればいい。アドビのサーバソリューションで、数カ月かかっていた処理を、2週間に短縮できる。

──官庁への導入をどのように進めるのか。国内では国産ベンダが強力で、外資のベンダが参入するのは難しいように思えるが

クーン氏 官庁に入っていくには、強力なパートナーが必要だ。官庁の仕事をよく行うシステム・インテグレータ(SI)と協力する必要があると認識している。現在は、ワールドワイドでアクセンチュア、ベリングポイント、IBMなどとパートナーを組んでいる。ただ、各地域ごとにパートナーの得手不得手はあるので、パートナー戦略のオペレーションは日本に任せている。組織的には、官庁担当の専門部隊をワールドワイドで組織している。北米では官庁専門の営業部隊もいる。

──国内でのパートナー戦略は

市川氏 日本でも公官庁担当の営業担当者がいる。サーバ製品、パートナーもアクセリオから引き継いでいて、パートナーとの関係をよりいっそう強化している。

──国内企業ではすでに帳票ソフトが広く使われている。アドビと競合することもあるのではないか。また、帳票ベンダとのパートナーシップは考えているか

市川氏 帳票ベンダがPDFを使ってソリューションを構築していく部分において、アドビと協力できる可能性は十分ある。アドビが国内で設立したPDF研究会には、帳票ベンダも加入して、情報交換を行っている。協業の機会は多くある。もちろん、競合する可能性もあるだろう。

──PDFは電子文書としてほぼ標準として使われている。ライバルといえるようなほかの電子文書フォーマットやベンダはないか

クーン氏 ポータブルドキュメントではライバルは、いないだろう。この立場を利用してサーバソリューションに力を入れたい。

(垣内郁栄)

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