塩漬けレガシーシステムをどうする? ベンダが本音で提言

2003/6/19

 メインフレームに代表されるレガシーシステムの弊害が指摘されて久しい。独自システムのため、新しいビジネス展開に即応できず、Webサービスなど新しい技術を導入しようとするとコストがかかる。利用年数に応じてトラブルが多くなり、保守、サポート費用も増大する。情報システム部などでは、メインフレームを扱えるエンジニアの不足に直面している。

写真右からサンの山本氏、IBMの山下氏、HPの松本氏。モデレータはアットマーク・アイティの藤村厚夫が務めた

 6月18日に開催された翼システムのイベント「翼システムカンファレンス2003」は、「基幹システム再生の奔流 “オープンサイジング”の実装と展開」がテーマ。特別講演では、サン・マイクロシステムズ、日本ヒューレット・パッカード、日本IBMの担当者が登場し、パネルディスカッションを展開した。“塩漬け”になっているレガシーシステムをオープンシステムにどのように移行させるか、現場の苦労話を交えながら、さまざまな提言を行った。

 そもそもメインフレームからオープンシステムに移行する場合、その投資対効果(ROI)は測定できるのか。ROIが測定できれば、企業がオープンシステムへの移行を決断するきっかけになるだろう。サン・マイクロシステムズ データセンター・ソリューション事業本部 本部長 山本恭典氏は、この問いに対して「イエスという面と、ノーという面がある」と述べた。「顧客からアンケート用紙に記入するので、いくら費用がかかるか測定してくれと言われることがある。この方法で測定できると言えば“できます”と答える」と説明した。ただ、山本氏はこの方法は限定的との条件を付けた。つまり、「(システムの)この部分は測定できる、この部分はメインフレームを残す、この部分はERPに任せたほうが安くなる」(山本氏)など、システム全体を区分けし、特定の部分についてはオープンシステムのROIが測定できるというのだ。

 日本IBMのソフトウェア事業部 WebSphere事業推進部長 山下晶夫氏は「ROIの問題はよく出てくる」としながらも、「顧客にROIのアドバイスをすることはするが、縛られていたら前に進まない」と断言。「10年塩漬けにしているシステムを今後も5年、10年と塩漬けにするほうがリスクは大きい」と述べた。IBMが実際に担当した企業では、レガシーシステムを捨ててJava環境に移行したが、ROI重視ではなく「グローバルシェアを目標値まで上げて、ライバルに立ち向かっていくという強い意志」がオープン移行への推進力になったという。

 日本HPの執行役員 ビジネスクリティカルシステム統括本部 本部長 松本光吉氏の考えも、単にコスト削減を目的にオープンシステムに移行するのではなく、「グローバルに勝ち抜くインフラを作るという経営的な観点が必要」ということだ。「何のためにオープン化するのかを考える必要がある」と強調した。

 レガシーシステムからオープンシステムへの移行にはツールの活用がキーポイントになる。特に現場で作業するエンジニアにとっては、ツールを使って作業を自動化することはコストを下げるため重要だ。サンの山本氏は移行ツールについて、「ツールを利用することで、条件を整えれば帳票以外のほぼすべてを移行させることができる」と説明。ただ、条件を整えるのが重要で、サンが担当した案件では、349万ステップあったメインフレームのコードのうち、実際に利用されているのは179万ステップだった。利用していないステップを削減することで、コストを大きく削減できることがわかり、顧客企業のトップが移行を決断したという。ツールを使う前の、この切り分けが重要になるのだ。

 また、山本氏は移行を考える企業には2つあると説明する。1つは、移行の意思があってサンにアセスメントを依頼する企業。もう1つは、サンにアセスメントだけを依頼し、アセスメントが示すコスト削減効果を基にIBMなどメインフレーマーに交渉し、月額費用を削減させる企業だという。後者の企業は実際にメインフレームからオープンシステムに移行することはなく、山本氏は「IBMさんの前ではいいにくいが……」と苦笑。

 「毎月のライセンス費用が減ってきているのは、なるほどこのためだったか」と苦笑いし、次を引き取った山下氏は、「WebSphereの関係上、レガシーシステムをJavaに変更することが多い」と説明。「単純にツールで移行すると“Javaで書いてあるが中身はCOBOL”のようなコードが出てくる」と指摘した。IBMでは顧客に運用性、安全性の面から、“Javaで書いてあるが中身はCOBOL”でも問題ないと認識しているが、IBMの米本社に相談すると、「全部、ピュアJavaに書き換えないと10年もたない」とアドバイスされるという。しかし、コストを考えるとすべてを書き換えるのは困難。「ツールは使うが、ツールによって全部、簡単に移行できるわけではない」というのが山下氏の認識だ。

 オープンシステムへの移行がトレンドとはいえ、ユーザー企業にとっては「安定しているレガシーシステムをオープンに移行して、安定性は大丈夫か? 仕事が増えるだけではないか」というのが本音ではないだろうか。日本HPの松本氏は、「メインフレームは水と空気とサービスはタダという文化があった」と指摘。「オープン系ではプラットフォームとサービスが明瞭会計のため、高いというイメージがあるのでは」と述べた。しかし、企業にはIT投資による効果(RoIT)を考えてほしいと訴えた。

 サンの山本氏は、オープンシステムの安定性について、「今のUNIXはメインフレームに限りなく近い可用性を備えつつある」と語った。しかし、メインフレームとオープンシステムでは運用や管理がかなり異なるため、「顧客への教育やトレーニングが必要だが、顧客の本音は“そんな時間やお金はない”」と説明した。そのため顧客の中にはオープンシステムへの移行で不安を感じるケースもあるというのだ。

 では、具体的にメインフレームからオープンシステムに移行する際、技術的な障害として、どのような点が挙げられるのか。サンの山本氏は、「OGLなど仕様がないところをどう書き換えていくか」「帳票」「運用ツール」「SNA、FNAなどレガシーなネットワーク」の4点を挙げた。そのうち、帳票と運用ツールについては、ほとんど問題が解決。残りの2つが問題となり、山本氏は「サンではできないのでメインフレームベンダにお願いしてください」と顧客に謝るケースがあるという。

 SNAとはIBMのメインフレームが採用していたネットワークプロトコル。IBMの山下氏は、「SNAが相変わらずご迷惑をおかけして……」と語りながら、「一度に進めないのが、移行を成功させるポイントの1つ。移行できるところを見定めていくのが重要」と指摘した。日本HPの松本氏も、企業がメインフレームの顧客として長年、国産ベンダなどと付き合っていることから、革新的なことを達成するのは難しいとして、人間的な関係や企業の風土を乗り越えることが重要と指摘した。

 サンの山本氏はパネルディスカッションのまとめとして、「メインフレームから移行した顧客から“ここまでできるようになったか”という感想を聞く」と述べた。「技術的にはほとんどできるようになった。国際的な競争力を高めるために移行を考える企業が増えてきた」と語った。IBMの山下氏も「技術はレディ、計画、デザインに時間をかけることが重要。それと強固な意志があれば、ジャンプして乗り越えられる」と述べた。HPの松本氏も「チャレンジしていくべき」と述べて、企業の決断を促した。

(垣内郁栄)

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