課題山積の無線ICタグ、普及までのロードマップは?

2003/8/8

大日本印刷 ICタグ事業化センター 副センター長 石川俊治氏。携帯電話のストラップに付けたICタグを示しながら説明した

 日本ユニシスが開催したイベント「ユビキタス時代のビジネスイノベーションセミナー」で講演した大日本印刷のICタグ事業化センター 副センター長 石川俊治氏は、無線ICタグの普及について、「モノの1つ1つに付くにはここ2〜3年かかる」との考えを示した。無線ICタグの実験は欧米や国内で始まっているが、商品を納めるパレットやケース単位が大半。しかし、開発から普及まで7〜8年かかったバーコードに対して、無線ICタグはバックエンドのシステムがすでにあるため「今日から無線ICタグの利用を考える必要がある」と指摘した。

 無線ICタグは、欧米で流通分野での実証実験が始まっている。スーパーマーケットやアパレルの商品管理や在庫管理などが中心で、米ウォルマートは上位100社の納入業者に対して、商品を運搬するパレットに無線ICタグを付けるよう求めているという。国内でも大日本印刷やNTT、サン・マイクロシステムズが書籍に無線ICタグを搭載し、万引き防止や商品管理に利用するシステムを開発して、実験を行っている。

 しかし、商品単体に無線ICタグを搭載するまでには時間がかかりそうだ。普及に時間がかかる原因の1つは、無線ICタグの価格が1個当たり100〜200円と高額なこと。単価が安い商品には付けられないのだ。石川氏によると、現在の技術では無線ICタグの価格の下限は10〜20円で、コストを考えると商品を運搬するパレットやコンテナなど再利用できる物にしか付けられない。

 石川氏が商品ごとに搭載できるようになると考えているのは、無線ICタグの単価が数円まで下がってからだ。日立製作所が開発した無線ICタグの「ミューチップ」のようにゴマ粒大までサイズが極小化し、製造コストも下がる必要がある。さらに開発が進み、有機半導体材料や特殊磁気材料で電子回路を作り、製品容器などに印刷するだけで無線ICタグとして利用できる技術が開発される段階になって、「ユビキタス時代の流通が実現する」と石川氏は見ている。

 石川氏が示したオートIDセンターのアンケート結果によると、単価が安い食品の1つ1つに無線ICタグが搭載されるようになるのは2007年。2004年にはパレット、2005年にはダンボールなどのケースに無線ICタグが搭載されると予測しているが、商品単体に搭載されるまでは時間がかかるようだ。ただし、高額な電気製品には2005年にも無線ICタグが搭載されると予測。製薬など商品自体の厳密な管理が必要な場合も無線ICタグの搭載は早くなりそうだ。

 ただ、無線ICタグには、まだ課題がある。それは現状の技術では複数のタグを検知した場合に、検知漏れが生じること。100個の商品が入っているダンボールを無線ICタグリーダで一括検知しても、99個しか検知できないことがある。しかも、現状の技術ではリーダが誤検知しても、管理者がミスに気付くことはない。石川氏は「リーダが読めなかったときにバックアップする技術を開発する必要がある」として、「ほかのセンサーとの組み合わせが必要だ」と述べた。

 また、国内で利用が許可されている無線ICタグ用の電波は、135KHz帯や13.56MHz帯など通信距離が短い電波だけ。工場など広い場所で多数のタグを同時に検知するような用途には利用できない。欧米では通信距離が7メートルと長いUHF帯が利用されていて、国内の無線ICタグベンダや流通企業の一部は、UHF帯の電波を利用できるよう総務省に求めている。総務省はかつて携帯電話で利用していたUHFの950MHz帯が無線ICタグで利用できないかと検討している。流通分野での無線ICタグの本格利用を考えるには、UHF帯の開放が必須になるだろう。

(垣内郁栄)

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