今から分かるICタグ〜実証実験から学べ
2003/9/13
無線ICタグを流通や店舗のシステムに組み込む実証実験がすでに始まっている。一部では実ビジネスでの運用もスタート。ユーザー企業とシステム・インテグレータ、ICタグベンダの試みを紹介する。
流通、アパレルで先行
実証実験で先行しているのはオートIDセンターを中心にした欧米だ。実証実験が始まっているのは主に流通業界やアパレル業界だ。
オートIDセンターのICタグ実証実験 |
英国のスーパーマーケット、テスコはジレットと共同で「スマートシェルフ」を1店舗に導入した。スマートシェルフとは、ICタグのリーダを取り付けた商品陳列棚。安全かみそりなど商品にICタグが付いていれば、リアルタイムで商品の在庫を把握できる。消費者が陳列棚から一度商品を手に取ったが棚に戻した、など消費者の店内での活動を記録し、マーケティング活動につなげることができるのが特徴だ。日本ユニシスが8月に開催したイベント「ユビキタス時代のビジネスイノベーションセミナー」で講演した大日本印刷のICタグ事業化センター 副センター長 石川俊治氏によると、テスコはスマートシェルフを1店舗に導入。欠品ロスの低減効果を検証しているという。
ドイツのスーパーマーケットチェーン、メトロはICタグを使った商品の入荷管理や在庫管理、商品情報の提供などを行う実験店舗「Future Store」をオープンした。ショッピングカートにPDAが搭載されていて、商品を読み取らせると商品情報やレシピ、関連情報がPDAのディスプレーに表示される仕組み。まさしく未来のスーパーマーケットを表わしているといえるだろう。
ただ、商品の1個1個にICタグを貼付して、システムで管理したり、消費者に情報を提供する実証実験は多くない。流通業界の多くで行われている実証実験は、商品を格納、運搬するダンボールやパレットにICタグを付けて、入出荷や検品に利用しようというケースだ。石川氏によると、英国のスーパー、セインズベリーはチルド食品の納品用プラスチックケースにタグを貼付。店舗への納品時に無人で検品できるようにした。世界最大といわれる米国のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートは商品を納入している業者に対してパレットにICタグを付けるよう要求。2005年には実用化したい考えだ。
1年で投資コストを回収
サプライチェーンとの統合では、英国のビール会社、スコティッシュ・カレッジ・ブルーイングが、ビア樽にICタグを付けた。石川氏によると、スコティッシュは900万樽を保有し、1樽当たり年間7回転させていた。しかし、工場内や輸送中にビア樽を紛失する事故が相次いでいた。紛失による損失は年間20億円にもなっていたという。スコティッシュは180万樽にICタグを実装した。工場内や輸送中のICタグの位置をSCMのシステムで把握できるようにしたことで、ビア樽の紛失が当初の10%に減少。ICタグ導入後1年で初期投資のコストを回収できたという。石川氏は「回収が見込めるところでは導入が始まっている」と現状を説明した。
アパレル業界もICタグに積極的だ。洋服に取り付けたICタグは精算時に取り外すことが可能で、再利用できる。そのため流通だけにとどまらず、店舗内でICタグを利用する実証実験も行われている。海外の事例ではイタリアのプラダがニューヨークの店舗でICタグを洋服に取り付けて、在庫管理などに利用している。米GAPも商品の1つ1つにICタグを取り付けることを計画。検品の無人化や仕分けの合理化に利用できないかを検討している。
本番稼働するシステムも
国内での実証実験も本格化してきた。日本ユニシスは、5月末まで日本航空と共同実験を実施した。電池を搭載し自ら電波を出すことができるアクティブタグを航空貨物に貼付。空港の貨物置き場で、フォークリフトに搭載したアンテナを使い貨物の位置を検知する実験や、置き場の四方の柱に貼付したアンテナでフォークリフトで運ばれる貨物を検知する実験を行った。貨物の位置をバックオフィスのシステムに認識させることで、貨物をスムーズに出荷できるようになり、全体としての流通コストを下げるのが目的。日本ユニシスのソリューションビジネス統括部 ユビキタスソリューション部 担当課長 西田憲司氏は「サービス品質の向上が最終目標」と説明。今後は第2フェイズとして、より実運用に近い形で実証実験を行っていくことを計画している。
日本ユニシスのソリューションビジネス統括部 ユビキタスソリューション部 担当課長 西田憲司氏 |
ICタグの実証実験では、日本出版インフラセンターが組織した「ICタグ技術協力企業コンソーシアム」が行っている出版向けICタグの実証実験が知られている。出版社や書店、ICタグベンダなど100社以上が参加するコンソーシアムではICタグを書籍に貼付し、効率的なSCMを構築することを検討。書籍の印刷から取次店での卸し、書店への搬入まで広くSCMを効率化する計画。書店内での在庫管理や、図書館での貸出管理に利用する。書店内での万引き防止など利用することも想定している。
ユニシスが製造業と組んで行っている別のICタグの実証実験では、10月にも本番システムが稼働しそうだ。製品を納めたパレットにICタグを取り付けて、工場内の在庫管理をするシステムで、これまで人手がかかっていた製品の出荷などを自動化することができるという。主に狙った効果は人的ミスの削減だ。チェック漏れなど人間がどうしても犯してしまうミスをICタグを使うことで削減する。将来的には製品の1つ1つにICタグを取り付けて、より効率的できめ細かい管理をできるようにすることを計画している。
西田氏はICタグの活用について、「ICタグを使って工程を自動化させる場合は、運用ルールが重要になる」と指摘。「同じ作業でも人間と、ICタグなどのセンサーでは、どうしてもずれがでる。その差異を埋めるための運用ルールが必ず必要になる」と訴えた。また、日本ユニシスのソリューションビジネス統括部 ユビキタスソリューション部 松谷博氏は、「ICタグを導入するといっても、SCMなどに今までとまったく違う工程を導入するのは、利用者側としてはうれしくない」と述べ、「ICタグを導入しても、負荷をかけず、今までと同じやり方でできないかをSIは考える必要がある」と強調した。
(垣内郁栄)
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