HP、ワークステーションの分野で「真の1位を目指す」

2003/9/20

日本ヒューレット・パッカード 取締役副社長 パーソナルシステムズ事業統括 馬場真氏

 日本ヒューレット・パッカードの経営状態は、日本の経済状況よりはるかに調子がよいようだ。同社 取締役副社長 パーソナルシステムズ事業統括 馬場真氏によれば、「HPは昨年に比べて(業績は)大きく回復している。40%を超える成長」と業績の好調さを明らかにした。「今年を見ると日本のIT産業は2%成長」(同氏)と比べ、業績の回復ぶりが際立っている。

 しかし、そもそもHPとコンパックの合併騒ぎの中で、同社はサーバなどのシェアを大きく落とした。だとすれば、現在の業績の好調さはその落とした分を取り戻しただけなのでは、との疑問がわく。が、「それを取り戻したうえ、さらに成長している」(日本HP 広報)という。

 では、成長の源泉は何か。馬場氏は「HPとコンパックの合併効果が本格的に出てきた。両社を足すと大きな生産量を誇る。それによって部材コストが下がる。量産効果で製造コストが下がる。つまりすべての面でコストが下がる」と述べ、合併効果によるコスト削減効果が同社の業績の回復に大きく寄与していると説明した。そしてそのコスト削減分をすべて利益に回すのではなく、ユーザーに還元するため製品価格を積極的に下げ、それによってユーザーの購買意欲をかきたて、製品を購入させる。この好循環の中にある。まるで「供給はそれ自身の需要をつくる」という古典経済学の基本、セイの法則を地で証明するかのような勢いだ。

 馬場氏はもう1点、業績の好調さの要因として挙げたのは「ビジネスモデルの改革」だ。同社は問屋、小売店を通した間接販売からWeb、電話を通じた直販の割合が増加、現在は問屋、小売店もWebを利用し、「販売しているPCサーバの40%以上はWeb、電話経由」(馬場氏)だという。

日本HP パーソナルシステムズ事業統括 ワークステーション・ビジネス本部 本部長 井上公夫氏

 こうした好調な業績の恩恵はワークステーション分野にも及ぶ。国内におけるHPのワークステーションの売上高のシェアは、サン・マイクロシステムズやデルコンピュータを上回って1位(ガートナー データクエストの調査結果)。そのシェアは約25%。ただし、UNIX+Itaniumやパーソナルワークステーションの売上高シェアではそれぞれ2位。日本HP パーソナルシステムズ事業統括 ワークステーション・ビジネス本部 本部長 井上公夫氏は、「できれば1年以内に各分野のシェアで台数、金額とも1位にしたい」と抱負を語った。「ワークステーションの分野で真の1位を目指す」(井上氏)。

 今回日本HPが発表したのは、そのワークステーション事業の強化策「プロ・クオリティ戦略」だ。プロ・クオリティ戦略の根幹をなすのは、(1)プロ・ソリューション(パートナー強化、日本HPと販売代理店によるダブルサポート体制)、(2)プロ・テクノロジ(最新テクノロジの搭載や安定性の高いOS環境の提供)、(3)高い価格性能比(グローバル企業の利点を生かした高い価格性能比を追及、継続的なコスト見直しの実施)という3施策だ。コンシューマPCと異なりワークステーションの購入者層が求めるのは、高機能、高性能で価格性能比がよく、安定稼働する環境。発表した3施策は、まさにこうしたことに真正面から応えようというもの。

 だが、これらの施策は、1つ1つは納得できるものとはいえ、ユーザーとしては当たり前のことでしかないとの指摘もあろう。こうした当然の施策をHPが発表するのは、今年になって何度も価格改定を実施し、それに伴って急激に下がり続ける製品価格に対して、一部のユーザーが不安を感じているためかもしれない。

 つまり、価格は下げる。しかし、その下がった分サポートなどのコストも削減される。そしてサポートが“お寒い”状態になるのでは……。こんな連想を抱くユーザーに対して、日本HPが明確に否定するために発表したのが、今回のプロ・クオリティ戦略なのだと考えれば分かりやすい。つまり、同社は価格を下げる中でも、ワークステーションのユーザーに対し、サポートの質は下げないと宣言したともいえる。

 もちろん、プロ・クオリティ戦略は、今回の発表のため突然考え出したことではない。プロ・ソリューション展開の一例を紹介しよう。HPは金融業界に対して定期的な働きかけを行っている。金融業界では、いまやディーリングルームでワークステーションを利用するのは当たり前。HPは欧米の金融関連の企業のITマネージャを入れたアドバイザリ会議を開催しており、そこで金融業務で必要なハードウェアスペックや構成要素、アプリケーションは何かといった議論をし、その開発成果が「HP Workstation xw6000」に結実したのだという。「開発した製品がすでにソリューションとなっている」(井上氏)。こうした例に見るように、プロ・クオリティ戦略はすでに同社が推進してきたことの集大成だ。

 HPは、今後PCワークステーションの分野ではデルを、UNIX+Itaniumの分野ではサンを追撃するわけだが、そのターゲットはどこだろうか。それは、同社の得意分野である制御系や金融系のほか、映像系(TV局など)やゲームの開発現場といったデジタルコンテンツクリエーションの分野、病院、さらには電子政府構築を進める官庁、地方自治体などを想定している。井上氏は、「今後大きな画像データなど(病院では画像診断装置によって撮影されたデータ。地方自治体では資料やその地域のデジタルマップデータなどが考えられるという)を扱うようになれば、現在のマシンでは効率よく仕事はできなくなるだろう。そこを狙う」と話す。

 こうしたワークステーション分野で繰り広げられる価格競争、ソリューション提供、手厚いサポート、といった流れで気になるのは、国産ハードベンダの対応だ。その流れに付いていけるのか。それとも外資系ベンダ同士の戦いの渦に巻き込まれるだけになるのだろうか。

(編集局 大内隆良)

[関連リンク]
日本ヒューレット・パッカードの発表資料

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