[ITU Telecom World 2003開催]
唯一の共通テーマは“不在”
2003/10/16
通信の標準の策定などを行う国際団体のITU(国際電気通信連合)が主催する4年に1度のイベント「ITU Telecom World 2003」が10月11日(現地時間)、スイス・ジュネーブで幕を開けた。最近のIT不景気の影響を受け、規模は大幅に縮小した中での開催となった。それでもITU側は会期中11万5000人の参加を見込むなど、テレコム業界最大規模のイベントである地位は揺るがない。
景気に翻弄された通信業界としてみると、この4年は意外とあっという間だったかもしれない。ドットコムバブルの痛手を受けた通信業界各社は、倒産した企業あり、買収された企業ありで、生き残りに必死になった。多くの企業で大量の人員削減をした結果、通信業界の総就労人口は約50万人も減少したといわれている。だからこそ、今年のTelecom Worldは、インターネット景気にわきドットコムブームが頂点にあった1999年と比べると対照的だ。「今年このイベントが無事に開催されただけでもニュースだ」という皮肉混じりの冗談が開催者側の口から漏れるほど、停滞ムードが漂う。今回、展示フロアは前回の6.7万平方メートルから4.2万平方メートルへと縮小、展示社数も1100社から約900社へと減った。
悲観的なムードをさらに強調するかのように、展示社リストの中にはノキアやシーメンス、アルカテルといった欧州系の大手企業名がない。前回のTelecom Worldでは、当時会長だったルイス・ガースナー(Louis Gerstner)氏が公演し、展示スペースではフロアに宇宙船に似たブースを設置して話題を呼んだIBMも、今回はフロアの隅っこで隠れるようにしてブースを構え、商談スペースやパートナー向けの展示しかしていない。今回元気だったのは日・韓・中のアジア系企業で、明るい話題はブロードバンドやモバイルぐらいだ。それが、今回のTelecom Worldを代弁していた。
Telecom World 2003の展示会場 |
オープニングを飾った12日の講演では、「Helping the World Communicate」をテーマに、ITU事務総局長の内海善雄氏、EUや中国などの政府代表者のほか、企業セクターからは米ヒューレット・パッカード 会長兼CEOのカーリー・フィオリーナ(Carly Fiorina)氏がスピーチを行った。各スピーカーのスピーチに共通したテーマは、IT業界の景気回復や、デジタルデバイドといった挑戦課題だ。
米ヒューレット・パッカード 会長兼CEOのカーリー・フィオリーナ氏 |
カンファレンスの議長を務めたITUボードメンバーのレーザ・ジャファリ(Dr. A. Reza Jafari)氏は、「ITはインフラのインフラ。どの産業にとっても不可欠なものなのは疑いようのない事実だ。そして、世界経済の成長に責任を持つのはIT産業なのだ」と述べる。フィオリーナ氏は、グローバルエコノミーで最初に問われるのは「競争性」と語る。「競争性が成長を生み、成長が機会を生む。国も企業も、競争性に投資しなければならない」。具体的には、教育や研究開発、起業家を生み出せるような環境を投資分野とすべきだと続けた。同様の意見は、EU欧州委員会委員のエルッキ・リッカネン(Erkki Liikanen)氏からも聞かれた。「ITの活用により、公共・私企業の両セクターとも成長できる。必要なのは、PCなど機器への投資ではなく、スキルを向上させることへの投資だ」。
■明るいのはブロードバンドとモバイル
数少ない明るい話題となったのは、前述したようにブロードバンドとモバイルの分野。ADSLなどブロードバンドでのインターネットへのアクセスは、1999年以来、年間成長率155%で推移した結果、2002年には6500万人レベルに達した。現在、ブロードバンドの最高浸透率を誇るのは21.3%の韓国で、7.1%の日本は10位となっている。
「ブロードバンドはナレッジエコノミーの土台となる」と述べるEUのリッカネン氏は、EU加盟国においても急速にブロードバンドが普及していることに触れ、2005年には、加盟国におけるインターネットアクセスの50%がブロードバンド経由となることを目標としていると述べた。そこで浮上するのが、セキュリティや著作権の問題だ。会場からもこれらを懸念する意見が出たが、スピーカーの口から決定的な解決策は出されなかった。今後の挑戦課題といえそうだ。
モバイル分野は、3Gの提供開始が各国でじわじわと進んでいる携帯電話や、無線LAN、Bluetoothがけん引力となっている。「すべてのアナログ、物理的プロセスが、デジタルになる」とスピーチ中何度も強調したフィオリーナ氏は、モバイルの課題として、複雑性と使いにくさを挙げた。「根本からシンプルにしなければ利用を促進できない」とフィオリーナ氏。使い勝手は、まだ向上する必要があるという。
携帯電話は、ITUの取り組み課題であるデジタルデバイドの解消、ユニバーサルアクセスでも大きな役割を果たしている。開発途上国では、固定電話を通り越して携帯電話を持つようになった。ITUによると現在、世界の携帯電話ユーザーの46%は途上国の人々だという。「プリペイド式の導入により、端末は購入できなくても、電話機能を手に入れられるようになった。この成功は、次の目標であるインターネットアクセスでも生かすことができる」とITUの電気通信開発局ディレクター ハマドゥン・トゥレ(Hamadoun Toure)氏は語った。
ITUでは2015年をターゲット年として、開発途上国におけるアクセスが向上することを目指しており、内海氏は「技術やツールはある。これを確実に広めることがITUの役割だ」と述べる。だが、先進国では電話料金など通信の価格が下がっているが、途上国ではいまだに高額な料金を支払って通信しているなど、アクセス以外の課題も残されている。
今回のTelecom Worldは、カンファレンス、展示スペースともに、勢いがなく、フォーカスがぼけたものとなった。共通しているのは「不在」だ。リーダーの不在、テーマの不在、目標の不在……。インターネットバブルの崩壊から3、4年経過したが、Webサービス、3G、ブロードバンドと材料はあっても、関係者はいまだに具体的な方向性が見いだせていない。そんな印象を受ける。
ITUのIS(情報サービス)部門のトップ、ルイス・ロドリゲス(Luis Rodrigues)氏は、「1995年からあまりにも急速に拡大してしまったが、今年は基本に立ち返ったといえる」と語る。だからといって、1999年のテーマだった通信とITの統合が無意味だったわけではない。当時描かれた構想は少しずつ実現し、確実にわれわれの生活に浸透している。ロドリゲス氏もそれを認めつつ、「次はITより広範な、マルチメディアとの統合になるのでは」と語る。いずれにせよ、次回2007年の成功は、どん底を経験した各社が今後4年間でどのような答えを見いだすのかにかかっているといえるだろう。4年間は決して長くないのだ。
(末岡洋子)
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ITU
Telecom World 2003
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