「これが正しいグリッドの定義」とIBM

2003/11/11

日本IBM グリッドビジネス事業部 技術理事 関孝則氏

 日本IBMは11月7日、都内でイベント「DB2 Day Autumn2003」を開催した。現在、データベース業界はオラクルが発表した新製品「Oracle 10g」などによって「グリッド」が大きなテーマとなりつつあるが、日本IBMはそのグリッド技術で日本オラクルよりも先行していると強くアピールした。「某ベンダがグリッドで先行しているというが、実はIBMの土俵に乗ってきたのだと認識している」(ソフトウェア事業 インフォメーション・マネジメント事業部長 中川いち朗氏)。

 このイベントで基調講演に立った関孝則氏(グリッドビジネス事業部 技術理事)によると、そもそも一般にいわれているグリッドの定義は誤解されている、という。「グリッドとは、異機種混在、分散環境で、しかも組織を超えて顧客にサービスを提供する仕組み」(関氏)であり、単純に並列動作するサーバを束ねて性能を向上させるだけでは不十分だという。

 関氏は、初期のグリッドの代表的な例として、宇宙からの電波をインターネット上に分散する一般ユーザーのコンピュータで分析するプロジェクト「SETI@HOME」を例に挙げ、そこには異機種、分散、組織を超えたサービス提供の仕組みがある、と説いた。そして、こうしたグリッドの技術をビジネスに応用していくには、プロセス全体のQoS(Quality of Service)を維持する技術なども組み込む必要があるとした。

 その日本IBMが、Oracle 10gの対抗製品として考えているのが「DB2 Integrated Cluster Environment for Linux」(DB2 ICE)だ。DB2 ICEは、複数台のxSeriesのサーバ上稼働するDB2 Universal Databaseをクラスタ化する。

 壇上ではDB2 ICEを用いた16台のクラスタ構成によるデモが行われ、1台で約15秒かかっていた処理を、2台で約8秒、16台で約1秒と、台数の増加とともにリニアに検索性能が向上することを実証してみせた。さらに、16台中1台が故障したとしても、故障を別のマシンが自動的に検知し機能を代替する機能も紹介。代替には約1分程度かかったが、チューニングすれば30〜40秒程度になるとした。

 そしてグリッドの名の下に提供するのが、今年5月に発表された「DB2 Information Integration Server」だ。以前はコードネーム「Xperanto(エスペラント)」と呼ばれていたこの製品は、さまざまなデータソースをDB2から単一のビューで見せることができる。具体的には、DB2に対してInformix、Oracle、Sybase、SQL Serverといったリレーショナルデータベースはもちろん、MQSeries、Webサービス、Excelファイル、テキストデータといったデータに対応する機能を追加する。同社はこうしたデータ統合機能を「フェデレーション」と呼んでおり、フェデレーションに対してDB2からSQLやXQueryを発行して操作を行える。こうした一連の機能が、異機種、分散、組織を超えてサービスを提供するグリッドの定義に該当するという。

 ガートナージャパンの栗原潔氏が指摘(「グリッドとクラスタはどう違うのか?」参照)するように、グリッドの定義は、まだ業界で統一されたものがない。オラクルとIBMでグリッドの定義がすれちがっているのも仕方ない面がある。とはいえ両社ともに、大規模で高信頼なシステムを複数のコンピュータ資源の仮想化と並列化によって実現しようとするアプローチは一緒だ。データベース市場は数年前から技術的な成熟に近づいたと思われていたが、グリッドというキーワードに沿って、再び新たな技術競争が見られるかもしれない。

(編集局 新野淳一)

[関連リンク]
日本IBM

[関連記事]
Webサービスを統合したグリッドの標準規格が決定 (@ITNews)
グリッドだけではないOracle 10gのインパクト (@ITNews)
「Oracle 10g」が正式発表、すべてはグリッドのために (@ITNews)
IBMが「全製品系列でグリッド化を推進」 (@ITNews)
オラクル次期データベースは「グリッドの名の下に」 (@ITNews)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)