「小さく生んで、大きく育てる」、デルのプリンタ事業

2004/6/4

デル 代表取締役社長の浜田宏氏

 デルは6月3日、日本国内のプリンタ事業に参入すると発表した。ラインアップはインクジェット複合機「デル オールインワンプリンタ 922」(1万3800円)とモノクロレーザープリンタ「デル レーザプリンタ 1700n」(2万9800円)の2機種のみ。同等レベルの他社製品と比較して30%〜35%程度低い価格設定とした。「時期はわからない。約束もできないが、いずれPCやサーバに比肩するほどのシェアを獲得できるとわれわれは考えている」と同社代表取締役社長の浜田宏氏はいう。米国(のプリンタ市場)では「発売開始12カ月で約17%のシェアを獲得した」(浜田氏)。販売方法は従来の直販方式を継承し、「小さく生んで、大きく育てる」(浜田氏)デル・モデルのブランド価値を、プリンタ市場でも拡大していく予定。

 2003年初旬からデルは、S&P(Software&Peripheral)事業として、プロジェクタ(2003年4月発売)、TV機能付きワイド液晶モニタ(2003年12月発売)、携帯情報端末(2004年3月発売)を発売している。デル全世界のS&P事業の売り上げは前年同期比39%増、デル周辺機器の売り上げは同70%増を達成するなど好調な滑り出しをみせている(いずれも2004年第1四半期業績)。
 
 これらの周辺機器はいずれも同社のPCおよびサーバユーザーをターゲットにしたもの。個人向けPC市場では「20%に迫る」(浜田氏)シェアを獲得しつつあるデルだけに、周辺機器のビジネスにおいて、20%弱という既存顧客の“インフラ”を活用しない手はない。もちろん、個人、企業を問わず、デルのPCやサーバユーザーではない顧客がデルの周辺機器を購入していくケースはあるが、最初から既存顧客以外の層をあてにするほど、デルのビジネスは流動的な計画の元に立てられてはいないようだ。とはいえ、「プリンタについては特に、デルのPCユーザーではない顧客がデルのプリンタを購入していくケースが予想外に多かった」と浜田氏はいう。

 なお、今回の発表で浜田氏が特に熱心に解説をしたのは、同社独自の「インク/トナーマネジメントシステム」について。プリンタと同時に新たにPCもデルで購入した場合、あらかじめインストールされたプリンタドライバには、インクの残量を検知するソフトウェアが組み込まれる。このソフトウェアはインクやトナーの残量が25%になると黄色いポップアップを表示する。クリックするとインク/トナーを注文することができる。「午後3時頃までに注文すれば翌日には配送することが可能」(浜田氏)だ。

 BCN総研(BCNの市場調査部門)によると、国内の店頭インクジェットプリンタ市場全体に占める複合機の販売台数シェアは、2003年9月の22.4%から2004年5月の30.2%にまで拡大している、という。また、日本のプリンタ市場で圧倒的な販売台数シェアを誇るエプソンとキヤノン*1が、インクジェット複合機のみでは、日本ヒューレット・パッカードの後塵(こうじん)を拝しているという状況がある*2。今回、デルがインクジェット複合機とモノクロレーザーに絞ってプリンタ市場に参入した背景には確かに、「(デルは)成長が見込める市場にしか参入をしない」(浜田氏)という“デル・モデルの鉄則”が働いているようだ。そしてこのことは、デルが着実に成長してきた要因の1つでもあるといえる。

*1 (2004年5月の店頭インクジェット・プリンタ市場における販売台数シェアはキヤノンが47.6%で1位、エプソンが37.3%で2位)

*2 (2004年5月のインクジェット複合機のみの販売台数シェアはHPが35.2%で1位、2位はエプソンで33.1%、3位はキヤノンの25.9%)

(編集局 谷古宇浩司)

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