日本の独自技術PHSの未来に賭ける“外資系ファンド”

2004/6/22

カーライル・グループ 在日代表安達保氏

 カーライル・グループとKDDI、京セラ、ディーディーアイポケット(DDIポケット)の4社は6月21日、DDIポケットの事業をカーライルと京セラのコンソーシアムが買収することで合意したと発表した。今回の合意でDDIポケットの事業を継承する新会社の株主構成は、カーライル60%、京セラ30%、KDDI10%となる。これまでDDIポケットの81%を保有していたKDDIは新会社への出資を10%に縮小したが、従来DDIポケットの13%を保有していた京セラは逆に、PHS製品事業への注力を加速させ30%の出資をする。京セラは、過半数持分保有者のカーライルとともに、新会社のPHS事業を製品サイドからサポートしていく。
 
 カーライルの在日代表である安達保氏は「今回の投資案件はDDIポケットの成長を前提とした中長期的なもので、現経営陣には続投をしてもらう。もちろん雇用調整を行う予定は一切ない」と話す。なお、今回の買収劇は買収金額2200億円という大型のもの。

 新会社の事業戦略の柱は、DDIポケットの中核サービスである定額制のモバイルデータ通信サービスAirH"である。現在、DDIポケットが保有する基地局は全国16万に上り、法人向けモバイルサービスで「マーケットリーダーとしてのポジションを確立している」(安達氏)。カーライルおよび京セラでは、PHSが持つ技術的な特徴によるコスト効率のよさに注目、法人向けモバイルサービスの将来性に賭けた。

 PHSのコスト効率のよさを示す技術的な特徴とは、例えば、時間軸上で1つの周波数を時分割するTDMA(Time Division Multiplex Access:時分割多元接続)と呼ばれる方法を用いていることや、伝送方式にTDD(Time Division Duplex、1周波時分割複信方式)を採用している点が挙げられる。TDMAは、1つの周波数を短時間で複数の発信者間で共有する方式。また、消費電力の低さも投資コストの圧縮に影響を及ぼす。

 新会社の筆頭株主となるカーライル・グループは全投資事業のうち約30%を通信事業に対して行っており、最近では、台湾のケーブルテレビ会社、米国ハワイのテレコム企業、オランダのケーブルテレビ会社に巨額の出資を行ったという実績を持つ。グループの運用総額は183億ドル(約2兆円)で、1987年の設立以来317件の投資実績がある。日本国内では現在15人のスタッフが大企業の事業部門・中堅企業を対象に、現経営陣によるマネジメント・バイアウト(MBO)を志向した投資活動を行っている。安達氏は今回の案件において、株式公開で利益を出すことを「1つの目標としている」と話す。DDIポケットの2200億円という企業価値は高いの安いのか。いずれにせよ、KDDIが事実上、日本の独自技術であるPHS事業から手を引いたことに変わりはない。

(編集局 谷古宇浩司)

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