米NetAppに聞くストレージ選択の日本的問題

2004/12/7

 ストレージ業界は2004年、「インフォメーション・ライフサイクル管理」(ILM)という言葉があふれていた。ベンダ各社はILMによる既存投資の保護や運用管理性の向上などを訴えた。その中で米ネットワーク・アプライアンス(NetApp)はILMを横目に「ストレージ・グリッド」を提唱している。NetAppのエンジニアリング担当上級副社長兼CTO スティーブ・クレイマン(Steve Cleiman)氏は「ILMはわれわれが考えるストレージ・グリッドの一部でしかない」と指摘し、技術の先行性を強調する。

米NetAppのエンジニアリング担当上級副社長兼CTO スティーブ・クレイマン氏

 NetAppがILMの流行に乗らなかった理由は、「ILMは(ストレージ・グリッドへの移行で)自動で満たしていくべき技術要素」(クレイマン氏)と考えたからだ。クレイマン氏は「最もユニークなのはストレージ・グリッド」と述べ、他社が競って提案するILMでは差別化にならないとの考えを示した。「ILMはペタバイトクラスのストレージを扱う時代には必須」と述べ、各社がそのメリットを語っているILMも将来的には標準的な技術になるとの見方を示した。

 しかし、ユーザー企業の多くはまだストレージ・グリッドになじみがない。クレイマン氏は「ストレージ・グリッドの考えは新しくない」として、ヤフーなどのインターネットサービス企業や半導体開発企業、コンピュータ・グラフィックス作成の企業などでは普通に使われていると説明した。「巨大なSMPサーバから安価で高パフォーマンスなブレードサーバをスケールアウトして利用する考えをストレージに持ってきたに過ぎない。そしてそのストレージ全体を管理レイヤの“グローバル・ネーム・スペース”で1つのファイルシステムとして統合・管理する」(クレイマン氏)。

 ストレージ・グリッドを目指すNetAppの中で伸びが著しいのがファイバチャネルやiSCSIを使ったSANのビジネスだ。2年前に始めたSANの事業は、NetApp全体の売り上げの23%まで成長。今後も伸びが期待できるという。NetAppのSAN/iSANビジネスユニット担当バイスプレジデント リッチ・クリフトン(Rich Clifton)氏によると、SANが大規模UNIXサーバなどを保有する顧客に広く利用されているのに対して、iSCSIはWindowsプラットフォームでの利用が増えているという。マイクロソフトが2003年6月にWindows OSをiSCSI対応にするソフトウェアを配布したことが強い追い風になっている。クリフトン氏は「iSCSIに対する市場の受け入れ態勢が整ってきた」と述べた。

NetAppのSAN/iSANビジネスユニット担当バイスプレジデント リッチ・クリフトン氏

 ただ、さまざまなプロトコルのストレージを提供することはベンダにとって開発コストの増大を意味する。コストを考えるならIPネットワークベースのNAS、iSCSIに製品を一本化するのも1つの考えだろう。クリフトン氏は「われわれが特定のプロトコルに製品を集約し、単純化することは逆に既存のシステムを持つ顧客の環境を複雑にすることになる」として、この考えを否定。「さまざまなプロトコルのストレージ製品を持つことによる複雑性は、顧客かサービス、製品のいずれかで吸収する必要がある。NetAppは仮想化技術を実装した製品で吸収することを選択した」と説明した。

 また、クリフトン氏はストレージのプロトコルの選択について「技術的な理由だけでは決まらない。コストだけを考えるならIPネットワークベースのストレージが有力だ。しかし、その顧客企業がこれまでファイバチャネルのSANに投資をしてきて、人員の教育もしてきたのならファイバチャネルを選択するだろう」と指摘。さらに「特に日本で重要かもしれないが、ストレージを選択する場合は顧客の過去の意思決定を考慮しないといけない」として、過去の担当者の“面子”を保つ選択が重要になると語った。

(編集局 垣内郁栄)

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