BPM、内部統制、そしてCIOの役割をつなぐものとは?

2004/12/9

 BPM(ビジネスプロセスマネジメント)は、企業戦略とITとを連携させるものとして注目を集める。さらにそれに追い風になりそうなのが、今年11月に施行された米国企業改正法(Sarbanes-Oxley Act、通称“SOx法”)などで必要とされる内部統制の文書化だ。調査会社のガートナーによれば、BPM市場の最大手と位置付けられているのが独IDSシェアーで、ERP最大手のSAPのあるドイツで生まれたベンダだ。主力製品「ARIS」は世界で3000社以上の企業に採用されており、先日はSOx法遵守ツール「ARIS SOx Audit Manager」の提供も開始した。

 同社の取締役のDr.ウォルフレム・ヨースト(Dr. Wolfram Jost)氏にBPMやSOx法の与えたインパクト、CIOの役割などについて話を聞いた。

――御社の事業内容と、内部統制からみたBPMについて教えてください。

独IDSシェアー 取締役のDr.ウォルフレム・ヨースト氏

ヨースト氏 IDSシェアーは1985年設立以来、ビジネスプロセス・マネジメント(BPM)を追求してきました。われわれは、あらゆる企業にとってビジネスプロセスをプロアクディブに管理することが必要だと考えています。企業は発注処理などのビジネスプロセスで構成されています。これを管理するということは、プロセスを5W2Hで定義し、それを技術を使って実装し、KPI(主要業績評価指標)を測定するなどして、ビジネスの効率をコントロールすることを意味します。

 ここ数年、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)、品質管理(クオリティマネジメント)、eビジネス、ナレッジマネジメントなど、さまざまな“ハイプ”や流行語が登場しましたが、これらはすべてBPMへ通じる“エントリポイント(入り口)”といえます。SAPの実装はプロセス変更につながり、品質管理実装はプロセス向上につながります。米国や国際企業で話題になっているSOx法遵守もこれと同じです。

 SOx法第404条では、企業は自社のバランスシートに影響を与える財務報告のプロセスを文書化するよう要求されています。これもBPMです。具体的には財務レポートのプロセスを文書化、実装、管理しなければならないわけですが、これは9割がたBPMといえます。

――多くの企業にとってSOx法遵守期限は11月でした。企業の遵守状況はどうなっているのですか。

ヨースト氏 ほとんどの企業はまだ遵守へ向けた作業中で、スケジュールは遅れています。ただ、SOx法が成立した後、一種の“ショック(パニック)期間”にあった企業も、現在はこの法が何を意味するのか、自社が何をすべきかが明確になってきたようです。監査側の理解も深まっており、ツールもそろってきました。今後、3〜5カ月で落ち着くと予想しています。

 まずは遵守することですが、その後は毎年更新することになります。最初の数年は大変でしょうが、後は効率化されるでしょう。

――SOx法は米国法ですが、米国以外の企業にも影響はあるのでしょうか。

ヨースト氏 SOx法により、外国(米国以外)企業でもSEC(米国証券取引委員会)登録企業は遵守が求められます。また、それ以外の企業も無関係ではなくなりそうです。というのも、同様の法はEU(欧州連合)でも検討されていますし、日本でもそうだと聞いています。このような法が制定される背景には、企業に与える効率化というメリット、株主に与える企業の内部統制の透明化というメリットなど、潜在的な必要性が高いことがあると思います。

 また、企業規模という点でも、将来的には中規模企業もこのような文書化を迫られることでしょう。

――BPMでは、ミドルウェアベンダもツールを提供していますが、違いはなんですか。BPMはSOA(ビジネス主導アーキテクチャ)にも関係してくるのでしょうか。

ヨースト氏 IDSシェアーの製品そのものがBPMである点です。他社製品は、BPMを1つの要素としてとらえているのに対し、われわれの場合、BPMは(拡張ではなく)中心です。われわれのBPM製品「ARIS」はSAP、ナレッジマネジメント、品質管理、SOx準拠、すべてに対し単一のプラットフォームを提供します。特定のタスクに依存することはありません。

 別のいい方をするなら、「ARIS」はビジネスが主導で、ビジネスプロセス、ビジネス機能、従業員の視点でBPMを捉えたものです。ミドルウェアベンダのBPMは技術主導で、メッセージフローの記述とわれわれは理解しています。

 SOAが注目される背景には、ソフトウェアの複雑性を排除したい、プロセスにおいてソフトウェアに柔軟性を持たせたいという顧客のニーズがあるといえます。企業はプロセス向上のためにソフトウェアを実装するわけですが、ここでの問題として、ソフトウェアがサポートするプロセスを変更するのは容易ではない点があります。例えば、SAPの発注システムを変更するのは簡単ではありません。しかし、経済環境などから容易にプロセスを変更したいというニーズが上がってきており、SOAはこれを助ける仕組みとしてスポットがあたったのです。

 SOAでは、企業は統合された複雑なシステムを実装するのではなく、単位の小さなサービスを組み合わせてシステムを構築できます。ソフトウェアはあくまでも(組み合わせ可能な)“サービス”を提供するもので、エンドツーエンドのプロセスではありません。確実にいえることは、SOAによりIT業界は今後、さらにプロセス主導になるということです。

――CIOの役割も変わりそうですね。

ヨースト氏 現在、CIOはITの知識に加え、ビジネスやプロセス、さまざまな知識が求められています。私は将来、2種類のCIOが登場すると見ています。1つ目はこれまでのCIOで、技術だけを見る責任者です。もう1つはプロセスマネジメントの責任者で“CPO(最高プロセス責任者)”とでも名付けましょうか。より戦略にかかわってくる責任者で、会社の取締役レベルの人です。

(末岡洋子)

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IDSシェアー・ジャパン

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