マイクロソフトによるMDAを実現させるためのアプローチ

2005/1/28

マイクロソフト シニア プロダクト マネージャ 岩出智行氏

 マイクロソフトが2005年にリリースする「Visual Studio 2005 Team System」は、その名の通り、開発チーム全体をサポートするコンポーネント群で構成されている。各コンポーネントは開発プロジェクトに携わるスタッフの役割ごとに機能を分散している。すなわち、「Team Architect Edition」「Team Developer Edition」「Team Test Edition」の主要3コンポーネントとTeam Systemの基盤となる「Team Foundation」の4コンポーネントだ。

 各コンポーネントに搭載される機能は、実は競合他社の開発ツールにすでに搭載されている機能がほとんどで、それほど目新しくはない。しかし、それらの機能を分散システム開発という環境で使いこなすというシーンにおいて、Team Systemは競合する他ベンダの開発ツールとは一線を画す能力を発揮する。その詳細については「Visual Studio 2005 Team System概要(2) 分散アプリケーションと論理データセンターのデザイン」(Insider.NET)で解説しているので参照してほしい。

 上記の分散アプリケーションと論理データセンターのデザインなどで利用するモデリング言語が、マイクロソフトが独自に開発した「SDM(System Definition Model)」である。マイクロソフト シニア プロダクト マネージャ 岩出智行氏によれば「UMLは拡張を前提とした仕様になっており、業種(ドメイン)ごとの特性を取り込むには適していない」という弱点があると指摘する。UMLの標準化を推進しているOpen Management Group(OMG)は、UMLのダイアグラムを実行可能なコードにまでツールによって実現する「Model Driven Architecture」の標準化を進めている最中だが、業界ごとに特殊な条件が多すぎるため、MDAの実現はほとんど「夢物語だ」とする人々も少なくない。

 マイクロソフトはUMLの現状を横目に見ながら、各業界の代表企業ともに、SDMをベースとした業界独自のモデリング言語の策定を進めている。同社によると、SDMとは「システム定義に最適化されたモデリング言語」という位置づけで、「システム定義」というドメインに特化されたモデル(言語)である。このSDMに関しては、パートナー各社と仕様策定を進めており、現時点の仕様も公開している。

 UMLである特定のドメインに最適化したモデリングを行う場合、ステレオタイプ等の拡張が必要になる。これに対して、マイクロソフトはDSL(Domain Specific Language)を使用したモデリングを考えている。DSLとは、ある特定のドメインに最適化したモデリング言語であり、その包括的な概念を指す。例えば以下のものはすべてDSLである。

  • ER図 (データの関連を表現するのに最適化されたモデリング言語)
  • DFD (データがプロセスによりどのように流れるかを表現するのに最適化された
    モデリング言語)
  • クラス図 (クラスと関連を表現するのに最適化されたモデリング言語)
  • 五線符 (音楽を表現することに最適化されたモデリング言語)
  • SDM (システム定義に最適化されたモデリング言語)

 マイクロソフトは、上記のような様々な言語があった場合、それらをUMLで統一的に表現するよりは、ドメインに最適化された形のままで、モデリングするほうが効率的ではないか、という立場をとっている。そうすることで、モデルからの成果物(実装コードや、ドキュメント、あるいは次のフェイズで使用する何か)とモデルの間のギャップを埋めることもできるようになる。Team Systemによる、SDMを利用したモデリング機能では、実際にモデルと、実装コードが同期する。また同じくクラスダイアグラムというモデリング機能でも、モデルとコードの同期が自動的に行われる。つまり、これらのことがマイクロソフトの考えるMDA実現へのアプローチである。

 マイクロソフトによるMDAが実現するという前提のもと、Team Systemは、実装者、アーキテクト、テスターなどの現場の開発者のみならず、プロジェクトマネージャ、IT部門管理職、オペレータなどさまざまなスタッフが携われる開発/運用/管理システムへと機能を拡張していくだろう。1月25日に発表したボーランドの次世代開発環境に関する報道(「開発プロジェクトをビジネスプロセスに変える、ボーランド」 @ITNews)でもほぼ同じようなビジョンが描かれていた。2005年、開発環境は次世代の形態に向けて、新たな次元に突入し始めた。

(@IT 谷古宇浩司)

[関連リンク]
Visual Studio 2005 Team System:概要

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