コストはファイバチャネルの半分、「iSCSIは使い物になる」

2005/1/29

 「構築するシステムの要件定義がポイント。費用対効果においてiSCSIはファイバチャネルSANと十分比較検討すべきプロダクトである」。日本ネットワークアプライアンス(NetApp)が主催した「IP-SAN(iSCSI)セミナー」では、iSCSIを使ったシステム構築の実例が紹介された。

 iSCSIの導入事例として紹介されたのは、西日本の製造業の企業。従業員数3000人以上の大企業だった。その企業は、マイクロソフトのSQL Server 2000を搭載した2台のサーバで生産管理システムを運用していた。データはSCSIドライブをサーバ直結型(DAS)で保存。別にネットワーク経由でテープドライブのバックアップを利用していた。2台のSQL Serverは冗長化させることはせず、別々のサービスに利用していた。

 この企業がシステムのリプレースを決断したきっかけは、2005年1月にカットオーバーを予定していた生産管理システムの全社展開だった。複数の工場で生産管理システムを利用することになり、データの総容量は1TBまで増加することが予想された。

 しかし、既存システムは1TBのデータをテープバックアップするのに約9時間かかる、ディスクの追加でシステムを1日止める必要がある、など全社展開に耐えられないのは明らかだった。また、サーバが冗長化されていないためシステム障害時には、システムを停止させる必要があり、膨大な損失が発生すると想定された。2005年1月の全社システムの展開後にリプレースを行うのは困難。この企業は全社展開前のリプレースを2004年8月下旬に決断した。

 この企業はリプレースを決断したとき、iSCSIストレージの利用を考えていたわけではない。8月下旬のシステム・インテグレータ(SIer)との会談では、この企業は「Microsoft Cluster Service(MSCS)を導入できないか、ディスクの追加をシステムを停止せずにできないか」と相談。結果として「ファイバチャネルSANを使用したMSCSシステムを提案してほしい」と依頼した。

 ファイバチャネルSANの提案を受けたのは2004年9月下旬。しかし、この企業が返した答えは「コストが高い」だった。この企業は逆にiSCSIストレージの利用を提案。SIerは「iSCSIストレージの事例がなく、ミッションクリティカルシステムでの利用は分からない」としながらも、とりあえずiSCSIストレージを使ったシステム構築の検証作業を開始した。

 iSCSIストレージに対するSIerの不安は、NetAppと連携した検証作業を続けるうちに消えた。iSCSIストレージに対しては一般的に、コストはファイバチャネルSANと比較して安く、伝送力でも勝るが、信頼性やパフォーマンスは劣るといわれてきた。しかし、これらの認識は具体的な要件に照らし合わせて導き出された考えではない。実際に顧客が利用するシステムの要件に基づきiSCSIストレージを構築する場合はどうなのか。SIerの担当者らは「イメージにとらわれず、要件に対して使えるのか、使えないのかを追求した」。

 検証結果は「iSCSIでも十分に稼働可能。使い物になる」。正式にiSCSIストレージを使ったMSCSシステムの構築が決まった。

 この企業が提案を受けたシステムは、これまでファイルサーバとして使ってきたNetAppのストレージ「FAS960」とMSCSでクラスタ構成にしたSQL Serverを、iSCSIで接続する構成。NetAppのバックアップ/リカバリソフトウェア「SnapManager for Microsoft SQL Server」を導入し、短時間のバックアップとリカバリの実現を目指した。システム設計、導入は約3カ月をかけた。

 システムは2005年1月6日にカットオーバーし、安定稼働を続けているという。この企業が最も評価したのは、iSCSIストレージを使ったシステムのコストだ。SIerが当初に提案したファイバチャネルSANのシステムと比較すると導入コストは半分になった。また、SnapManager for Microsoft SQL Serverを使った瞬時のバックアップに対する評価も高かった。SnapManager for Microsoft SQL Serverを使えば、SQL Serverのデータをオンラインのまま5分程度でフルバックアップできる。リストアも12分程度で完了するという。

 イベントではパートナーから「iSCSIは信頼性、パフォーマンスなど一般的にいわれている技術的な課題はすでにクリアしている」などの声が聞かれた。ある担当者は「むしろ気をつけなければならないのは、運用面でのフォロー。いかに顧客とパートナーが二人三脚で対応できるかがキーとなる」と述べた。

(@IT 垣内郁栄)

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日本ネットワーク・アプライアンス

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