オープンソースを評価する「共通言語」、IPAが新手法を公開
2005/3/23
情報処理推進機構(IPA)は日本OSS推進フォーラムの開発基盤ワーキンググループと連携し、オープンソースソフトウェア(OSS)の性能・信頼性評価手法と障害時の解析支援ツールを開発、3月22日に公開した。LinuxなどOSSの企業への導入が進んでいるが、ベンダとシステム・インテグレータ(SIer)、エンドユーザーの間で性能に関する共通の評価基準がなく、企業が導入をためらう理由の1つになっている。開発基盤ワーキンググループでは開発した評価手法を「ベンダやSIer、ユーザーの共通言語になる」と説明。「ベンダが提出したOSSのベンチマークが一人歩きすることを避けるための裏づけになる」と述べた。
日本OSS推進フォーラム 開発基盤ワーキンググループ 主査の鈴木友峰氏 |
日本OSS推進フォーラム 開発基盤ワーキンググループ 主査の鈴木友峰氏(日立製作所 ソフトウェア事業部 プラットフォームソフトウェア本部 OSSテクノロジセンタ 担当部長)は、OSSについての評価手法を公開することで、エンドユーザーがシステムのどの分野でOSSを適用できるかを判断できるようになると説明した。ベンダとユーザーが「同じ土俵の上でOSSを評価できる」(鈴木氏)という。
開発した評価手法は、Javaのアプリケーションサーバとデータベース、OSの3種について。アプリケーションサーバは、Linuxカーネル2.4と2.6を用いて、商用のベンチマーク「SPECjAppServer2004」によりOSSのJBossと、商用ソフトウェアのBEA WebLogicの共通評価手順を確立した。データベースについては同様にLinuxカーネル2.4と2.6上でOSDLのベンチマーク「OSDL DBT-1」「OSDL DBT-3」を使い、OSSのPostgreSQL、MySQL(MaxDB)と、商用のOracleに共通の評価手順を作成した。OSはLinuxを対象にベンチマークツール「iozone」を使ったI/O、CPUのボトルネック解析手法などを開発した。
開発基盤ワーキンググループでは開発した評価手法を使って実際にOSSを評価した。評価結果によると、JBoss 4.0.0は「比較的小規模なWebシステムに適用可能」。クラスタ構成にすることでスケーラビリティも得られるという。しかし、セッションリプリケーション機能にバグとみられる不具合があり、構築時の注意が必要だという。また、PostgreSQLは「1つの目安として単体で秒間50〜150トランザクション程度のシステムに適用可能」。チューニングによって性能は2倍以上の向上が可能で、個別システムごとに最適化するのが有効とした。
PostgreSQLのバージョン8.0は前バージョンの7.4と比較して10%程度の性能向上。新搭載のPITR(ポイント・イン・タイム・リカバリ)機能を使うことでリカバリタイムが従来の3分の1に短縮できると説明した。また、Linuxカーネルについては2.6が2.4と比較して高負荷時のレスポンス、安定性が向上していると評価した。
鈴木氏は評価結果について「OSSは十分に使える。ただ、適用範囲を見極めて導入する必要がある」と述べた。また、バージョンアップごとにOSSの性能が向上している結果が出ていることから、「今日の1点を捉えてOSSが使える、使えないと判断するのではなく、進化を見ながら、システムのこの範囲なら使えるということを判断するのが重要」と指摘した。
鈴木氏らが作成したOSS評価のための手法は、評価手順、評価環境などが文書にまとめられている。LinuxやPostgreSQLのインストールの方法が具体的なコードともに記載され、「文書どおりにやれば誰でもできる」(鈴木氏)という。ただ、文書は800ページを超える長文もあり、活用するにはエンドユーザーもそれなりの覚悟が必要になる。
1時間でメモリダンプを解析
IPAはLinuxの障害解析ツールも公表した。Linuxは障害を解析して問題点を探したり、顧客にレポーティングするためのツールを標準では搭載しない。そのためSIerは自前でツールを用意する必要があり、Linuxで構築するシステムのコスト増の要因の1つになっていた。
IPAが公表したのは、既存のダンプ解析ツール「crash」と連携し、必要情報をメモリダンプから迅速に抽出するダンプデータ解析ツール「Alicia」。従来の手法では5時間以上かかるダンプ解析をスクリプトを作成することで1時間程度に短縮する。ダンプ解析のためのスクリプトは蓄積、再利用することができる。さまざまなスクリプトを蓄積することで、さらなる高速化が期待できる。
カーネル性能評価ツール「LKST」(Linux Kernel State Tracer)はシステムコールごとにかかる処理時間、メモリ確保・解放の処理時間などLinuxカーネル内部のトレース情報を収集する機能を持つ。収集したデータを分析・グラフ化する機能もあり、障害解析の効率を上げる。また、ディスク割り当て評価ツール「DAV」はハードディスクドライブにあるフラグメンテーション(断片化)状況を可視化する。管理者が目でフラグメンテーションの状況を確認することができ、アクセス性能が低下する前にデフラグを行うなど、予防措置を採ることができる。
Aliciaはユニアデックスが著作権を持ち、同社からOSSとして公開された。LKST、DAVは日立が著作権を持ち、同じくOSSとして公開されている。
(@IT 垣内郁栄)
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