分析モデルパターンはどこまで“共通化”できるのか?

2005/6/2

 情報処理学会ソフトウェア工学研究会パターンワーキンググループは6月1日、設立2周年を記念した2005年度の総会を開催した。基調講演を行ったのは、DBC代表の渡辺幸三氏。「企業システム設計に必要なモデリングパターンと会計の知識」と題し、パターンや分析設計手法偏重の風潮が強いソフトウェア開発業界の状況に批判を加えた。このような状況に対する1つの解決策として渡辺氏は、財務管理向けのレファレンスモデル製品を提示し、メタレベルで留まりがちなパターンの議論に新たな風を吹き込んだ。

エクサの児玉公信氏

 渡辺氏の基調講演を受けて行われたパネルディスカッションでは、パネリストがそれぞれの立場から、レファレンスモデルの位置付けを明らかにしようとつとめた。パネリストの顔ぶれは、エクサの児玉公信氏とウルシステムズの平澤章氏、日本フィッツの荒井玲子氏。司会を務めた豆蔵の羽生田栄一氏が、議論の交通整理を行った。

 渡辺氏が提示するレファレンスモデルは「極めて独善的なもので、むしろわたしの『作品』という位置付け」であるという。財務管理業務に特化したレファレンスモデルに続き、生産管理、人事管理、給与管理といった業務分野に拡大していくと今後の予定を明らかにしているように、渡辺氏のレファレンスモデルは、特定業務のワークフローをパッケージ化したいわゆる「業務パッケージ」の要素が強く含まれている。

 議論の核は、分析レベルのモデリングパターンがどこまで、(パターンとして)共通化できるものなのかということ。パネリストの中で、日本フィッツというユーザー企業に近い位置にある組織に属している荒井氏は、「ビジネス系の人たちは、カノン形式は知らなくても、カエルの歌は知っている」という表現で、渡辺氏のレファレンスモデルを評価した。このことは、モデリング手法や開発プロセスといった議論に傾きがちな“IT系の人たち”に対する批判でもある。“IT系の人たち”に近い立場にいるウルシステムズの平澤氏は、レファレンスモデルが適用できるのは、ERPパッケージが適用できる分野であり、スクラッチ開発には個別のモデリングパターンを構築していく必要がある、とした。児玉氏の議論も平澤氏と同じスタンスに立っていたといえる。レファレンスモデルとはいわば、汎用性が非常に高いモデルであり、どうしても“先端性”を犠牲する傾向を避けることができない。レファレンスモデルに内包する古典性と先端性のバランスをどうとるのか、という懸念が児玉氏の議論にはあった。この事態を解決するアプローチとして、標準化活動があるとするのが児玉氏の意見でもあった。

 結局、パターンがどのレベルまで共通化できるか、その境界線をどのあたりに引くかは非常に難しい問題で、なかなか答えはでない。

(@IT 谷古宇浩司)

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情報処理学会ソフトウェア工学研究会パターンワーキンググループ

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