ユーザー会がSAP幹部に直接質問、「日々の疑問を聞く」

2005/7/9

 「ユーザーの立場から日々の疑問について聞きたい」。SAPジャパン主催のイベント「SAPPHIRE '05 TOKYO」で、SAPジャパン・ユーザー・グループ(JSUG)がSAPジャパン幹部に対して直接質問を行うセッションがあった。テーマは「SAPに問う、ユーザー企業成長のためにSAPは何ができるのか?」。

JSUG会長 都築正行氏(三菱商事 理事 CIO補佐)

 JSUGがまず指摘したのは、「SAP NetWeaver」や「エンタープライズ・サービス・アーキテクチャ」(ESA)の導入で、「ユーザーから見てその複雑性が増している」(JSUG幹事 村上公一氏[IBM ビジネスコンサルティング サービス パートナー])ことだ。村上氏は「さまざまな疑問と期待が交差している」とユーザーの声を代弁した。また、JSUG会長 都築正行氏(三菱商事 理事 CIO補佐)も「従来はSAPのフィロソフィー、コンセプト、効果が経営のニーズにマッチしていて、バージョンアップでもその必然性、合理性が分かりやすかった」としたうえで、「しかし、ESA、NetWeaverなどの新しい戦略は、そのフィロソフィーのさらなる強化なのか、フィロソフィーが変更されたのか。ユーザーの間にも混乱がある」と訴えた。

 SAPジャパン 代表取締役社長の藤井清孝氏は、この問いに対して「(SAPのフィロソフィーの)基盤の軸は、強化することはあれ、外すことは考えられない」と断言。「ESA、NetWeaverの基本的な考えは個別解に答えましょうということ。企業の状況に応じて個々の体力にあったメニューを作る。勝手にやってくださいではなく、メッセージを企業に合わせて多様化している。押し付けの答えではいけない」とした。

 村上氏は冒頭に、JSUG会員に行った「これからの展開と課題」についてのアンケート結果を紹介した。約100社の回答があり、第1位は「アップグレード」で67%、第2位が「活用促進」で37%だった。運用保守体制の再考、SAPでカバーする業務領域の追加などが続いた。村上氏はこの結果から、「すでにSAPソリューションを利用しているユーザーは、いままでの延長線上でいかに長く、広範囲にSAPを利用していくかが最大の関心事」とまとめた。

 藤井氏はこの結果について、「(アンケート対象の)情報システム部の基本的な生業として、SAPがころころと変わるのは困るというのは分かる」と分析。しかし、「経営者の講演などを聞くとビジネスモデルをチェンジする考えが広がっている。ESA、NetWeaverはビジネスモデルを柔軟に変えられる要件を満たしながら、従来の基幹システムの安定性を守るというのがコンセプト。変化を是として、ITが変化の足かせにならないようにしなければならない」と理解を求めた。

SAPジャパン 代表取締役社長の藤井清孝氏

 ERPパッケージは業務に関するベストプラクティスを集合させたアプリケーション。ERPを使うことは、これまで業務に従事していた人を減らして、コンピュータに肩代わりさせるともいえる。都築氏はこのERPの効果を取り上げて、「アウトソースすること」と表現した。しかし、SAPはESAでユーザー企業自らがビジネスプロセスを柔軟に組み替えられることをアピールしている。この戦略は、ベストプラクティスに従って業務を進めればよかったユーザー企業にとって、「選択肢が増える」(都築氏)ことを意味する。ビジネスプロセスの管理にはITと経営の両方の視点が必要だが、ERPの導入で業務が効率化された現場には、ITと経営の視点を持つ人材は潤沢にはいない。都築氏は「アウトソースで人材が薄くなってきている。SAPのサポートもお願いしたい」と訴えた。

 藤井氏はSAPアプリケーションを微細化してサービスに適合したコンポジット・アプリケーションを作るSAPの戦略を説明したうえで、「業務面の小粒な粒度から組み立てて、新しいビジネスプロセスを作るスキルは社内に絶対に必要。しかし、砂からこねて業務の塊を作って、つないでいくプロセスの中で、砂をこねるプロセスを自分たちでやる必要はない」と語った。「IT部門に要求される能力は、ビジネスにリンクしたところでITをどのように開発するかということ。プログラミングなどITの力仕事はアウトソーシングするか、SAPなどが用意するものを使ってつなげる。IT部門の役割はより業務寄りになる」。

 村上氏が示したアンケート結果から分かるようにユーザー企業の最大の関心は、アップグレードだ。コストに見合っただけの効果を得られるのか、アップグレードの作業に大きな“痛み”があるのではないか。ユーザー企業の心配は大きい。

 SAPジャパンのバイスプレジデント ソリューション統括本部長 玉木一郎氏は、「アップグレードの痛みは、アドオンが増加すること」と指摘した。「アドオンで多いのは、外部とのインターフェイスや対エンドユーザーの画面周りのインターフェイス。従来は標準的な技術を用いていなかったので、アップグレードに耐えられなかった」。しかし、ESA環境では、「インターフェイスをできる限り共通化することで、アドオンがアップグレードに耐えられる仕組みにする」と述べ、将来的にはアップグレードの痛みが解消されるとの認識を示した。

(@IT 垣内郁栄)

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