[IDF FALL 2005開催]
10倍の低電力化を実現しつつ、10倍のパフォーマンスを

2005/8/25

 「Growth is Back!」をキーワードにした米インテルの開発者会議「Intel Developer Forum 2005 Fall」(以下、IDF)が米サンフランシスコで8月23日(米国時間)に開幕した。2005年初めに事業部を再編して5つのユニットに会社を分割し、5月には前CEOのクレイグ・バレット(Craig Barrett)氏からポール・オッテリーニ(Paul Otellini)氏へとトップが交代したばかりのインテルだが、2005〜2006年は主力製品ラインの総入れ替えを控えるなど、技術的にもビジネス的にも転換点に差し掛かっている。今回のIDFの主要テーマは、プロセッサの「デュアルコア化」とWiMAXに代表される「無線ネットワーク技術」の革新だ。

積極的なデュアルコア攻勢をかけるインテル

米インテル CEOのポール・オッテリーニ氏。今回のIDFは同氏がCEOになってから初めての開催となる
 前述のようにインテルは2005〜2006年に、いくつかの技術的に大きな転換点を迎えることになる。1つはプロセッサのデュアルコア化だが、もう1つの大きなポイントが生産プロセスルールの移行だ。現状で、同社のプロセッサ製品は90nm製造プロセスで生産が行われているが、これが段階的に65nmプロセスへと移行されることになる。

 プロセスルールの移行直後は製品供給が不安定になるという問題はあるものの、トランジスタの集積度の向上や消費電力削減などが実現できるため、現行プロセッサが抱える性能などの問題を一挙に解決できるチャンス到来ともいえる。インテルではデュアルコアへの移行を進めると同時に、難作業であるプロセスルールの移行も済ませようとしている。

 同社では、2006年前半に65nmプロセスで製造されるプロセッサの先兵として、サーバ向けの「Dempsey」(開発コード名)、デスクトップPC向けの「Presler」、ノートPC向けの「Yonah」をそれぞれリリースする計画だ。これら3プロセッサはすべてデュアルコア対応であり、2006年後半にはさらに処理効率をアップしたデュアルコア・プロセッサの新製品「Woodcrest(サーバ向け)」「Conroe(デスクトップPC向け)」「Merom(ノートPC向け)」が登場を控えている。

 インテルは先週、サーバ向けプロセッサ「Xeon」として初のデュアルコア対応の次世代版「Paxville」のリリーススケジュールを前倒しし、当初の2006年前半から2005年内へと予定を変更した。CEOのオッテリーニ氏は「2006年中盤には90nmプロセスと65nmプロセスの製品の出荷数が逆転し、さらに2006年第3四半期には全プロセッサに占めるデュアルコア製品の出荷数がシングルコアの数を上回ることになる」と、デュアルコアへの移行を積極的に推進することを表明した。

 「今後は単純にクロック数を上げるのではなく、プロセッサの消費電力当たりの性能を考慮しなければならない。それによりワット数当たりのTPC-Cは、現行プロセッサに比べて、Meromで3倍、Conroeで5倍、Woodcrestで3倍に向上することになる。今後これを推し進めることで、10倍の低消費電力を実現しつつ、10倍のパフォーマンスを達成していきたい。こうした消費電力削減とプロセッサ効率向上の努力により、年間10億ドルの運用コスト削減が実現できる」とオッテリーニ氏は力説した。

成果が結びつつあるインテルのWiMAX戦略

 インテルは先週行ったテレフォン・カンファレンスの中で、「世界でも初といえるWiMAXのデモをIDFで開催する」と予告しており、オッテリーニ氏の基調講演のさなか、ネパールに程近い小さな田舎街と会場を結んだビデオ・カンファレンスのデモが紹介された。

ネパールに程近いインドの山奥にある拠点とWiMAX経由でビデオ・カンファレンスを行った
 現地は、WiMAXでISP側のアンテナと無線接続されている。映像のレスポンスはややもたつくものの、音声自体はクリアで通常の国際電話と遜色(そんしょく)のないレベルの通話を実現できていた。

 このWiMAXによる通話デモは、インフラの整っていない山奥のような地域でもブロードバンド環境を利用できるようになる、という事実を示すためのものだ。WiMAXにより、比較的低コストでブロードバンド接続環境を広く展開することが可能になると、同社では過去数年にわたってアピールし続けていた。それが、今回ようやく実際のデモという形で紹介できたのだ。その後、同社のモビリティ部門を率いるショーン・マローニ(Sean Maloney)氏が行った基調講演では、さらに中国、欧州中部、カナダを結んだWiMAXによるビデオ・カンファレンスのデモが紹介された。

 オッテリーニ氏の基調講演では、ホームユースにおけるデジタル・コンテンツの利用のサンプルとして、巨大なHD-TV1台と12台のノートPCや携帯端末で同時にストリーミングによる新作映画の予告編を上映するデモを紹介した。その後、実はストリーミング映像はWiMAX経由で会場まで送信されていたことを明かした。コンテンツサーバは同社の米オレゴン州にある研究所に設置され、光ケーブルでサンフランシスコまでデータが送られた後、丘の高台からIDF会場のMoscone Centerまで送信され、そこから先は有線LANや無線LANで各端末にデータを分配する形態だった。これは、高画質映像をWiMAXのブロードバンド通信で問題なく送受信できることを意味している。

高解像度のビデオストリーミングのデモでは、実はWiMAXが利用されていた
 また同社では、WiMAX以外にWi-Fiなどのほかの無線LAN技術についても積極的な取り組みを続けている。例えば、ノートPCを持つユーザーが移動環境に応じて、UWBやBluetoothのような短距離無線規格、屋内では802.11a/b/gなどの無線LAN、そして移動先ではWiMAXや携帯電話ネットワークの3GやGPRSを利用したりと、適時最適なネットワークへとローミングできる仕組みが必要だという。インテルでは、これら複数の無線規格を同時にサポートするマルチバンド端末の開発のほか、異なる規格間で無線ローミングを実現するIEEE 802.21の標準化を現在進めている。

 またインテルは、米シスコシステムズとの提携も発表した。これは、シスコと共同で企業システムでの利用に耐え得る信頼性の高い無線LAN環境を構築していこうというものだ。具体的には、継続的に通信セッションを維持できるようなシームレスな無線LANローミングやVoIPの実現、セキュリティ、そしてインテルが進めているリモートでのPC管理フレームワークである「AMT」を、両社の製品でサポートできるようにすることが目標である。

(鈴木淳也/Junya Suzuki)

[関連リンク]
Intel Developer Forum 2005 Fall

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