「レガシーERPを包囲する」、オラクルがアプリ事業で戦略転換

2006/6/15

 日本オラクルは6月14日、6月に始まった新年度のアプリケーション戦略を発表した。既存製品のアップグレード表明や買収先企業との共同営業が柱。ERP製品中心のこれまでの戦略を転換し、買収先の業種別パッケージ製品を活用、「レガシーなERPを高付加価値を与えるアプリケーションで包囲する」(米オラクル 日本アプリケーション・ビジネス担当 シニア・バイスプレジデント ディック・ウォルベン[Dick Wolven]氏)という「Relevant(身近な)ソフトウェアカンパニー戦略」を採る。

米オラクル 日本アプリケーション・ビジネス担当 シニア・バイスプレジデント ディック・ウォルベン氏

 オラクルは自社の「E-Business Suite」(EBS)だけでなく、買収した「PeopleSoft Enterprise」「JD Edwards Enterprise One」「JD Edwards World」「Siebel CRM」「Siebel CRM On Demand」「Siebel Analytics」「Siebel Integrations」について継続的にアップグレードすることを表明した。オラクルはこの戦略を「Applications Unlimited」と命名した。従来はこれらの製品について2013年までサポートするとしていたが、将来のアップグレード対応は未確定だった。

 オラクルはEBSや買収した製品の機能を統合した次世代アプリケーション「Oracle Fusion Applications」を開発中で、2008年に提供開始予定。従来の戦略ではEBSなど既存製品の顧客は順次、Oracle Fusion Applicationsにアップグレードさせることを想定していたが、既存製品のアップグレードの表明によって「顧客はライフサイクルに合わせて既存製品を使い続けることができる」(日本オラクル 執行役員 アプリケーションマーケティング本部長 藤本寛氏)。

 EBSをはじめとする同社アプリケーションのユーザーは国内で1350社を超える。藤本氏は「いまのユーザーの80%はOracle Fusion Applicationsに移行しても影響は出ないだろう」としている。

 オラクルはERP製品を中心とする従来の戦略を国内で転換した。ウォルベン氏は「われわれはERPの最大手になれるわけではない。短期間ではライバルを超える数字はあげられないだろう」と語り、大企業向けERPで最大手のSAPとの直接対決を避ける考えを示した。同氏は「われわれの戦略は何をしないかだ」と話し、他社ERPやレガシーシステムのリプレースをエンドユーザーに働きかける戦略の封印を宣言した。「ERP市場は成熟している。ERPは成長の源泉ではない」(藤本氏)ともいい、急激なシェア拡大が見込めないERPに投入するリソースを節約する考えもある。

 リプレースを求めない代わりにオラクルが採るのは、Siebel CRMやRetek、i-flex、業種別テンプレート、ミドルウェアなどの「高付加価値アプリケーションでERPを包囲する」戦略だ。ウォルベン氏は「グローバルではERPに投資した企業の70%は期待通りの価値をERPから得ていないといわれる。またCRMを導入した企業の50〜70%は最初のトライアルでは失敗したと答えている。そこにオラクルのチャンスがある」と話し、新戦略の狙いを説明した。藤本氏も「高付加価値アプリケーションはERPと比べて競争の源泉になる」と話した。他社ERPに対してオラクルのアプリケーションを提供し、「将来のERPリプレース時期にオラクルを選んでもらう」ことも期待している。

 日本オラクルは、米本社が買収したピープルソフト、シーベルシステムズの日本法人を統合した新会社「日本オラクルインフォメーションシステムズ」(OIS)との協業も発表した。両社は製品に関してクロスライセンス契約を6月1日に締結し、それぞれの製品を取り扱えるようにした。両社の人員で350人規模のチームを組織し、プリセールスなど共同の営業活動を開始する。既存顧客はApplications Unlimitedを推進、大規模システムにはEBS、ミッドマーケットにはJD Edwards、フロントオフィスにはSiebel、人事管理にはPeopleSoftなどと製品の色分けも明確にした。

 日本オラクルとOISは将来的に統合する計画。だが、米オラクルが依然として買収戦略を続けているため、買収企業の受け皿としてしばらくはOISを残す方針。

(@IT 垣内郁栄)

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