いま人気の社内SEを考える:ITエンジニアの求人動向最前線(5)
自分がしている仕事にどれほどの求人があるのか、気になったことはないだろうか。また、その動向に変化はあるのだろうか。そんなエンジニアの求人動向を紹介する。
内閣府が9月11日に発表した2006年4−6月期実質国内総生産(GDP)の2次速報値は、前期比プラス0.2%、年率換算プラス1.0%となり、6期連続のプラス成長を示した。1次速報値と比べるとやや上方に修正された。新聞各社の報道を見ると、民間需要が景気回復を促していると分析している記事もある。景気回復の波は確実に求人動向にも好影響を与えているようだ。
景気回復で求人は全面的に上昇傾向
リクルートエージェント 第二ビジネスユニット ITカスタマーマーケット 4グループのグループマネジャーの佐々木啓介氏は、社内SEの求人動向概況を次のように語る。
「去年ぐらいから日本全体で景気がよくなってきました。それで企業に余裕が出てきて投資にも力が入り始めてきました。この一環にITへの投資もあります。IT投資の拡大により、最近では社内SEの募集も増えてきています」(佐々木氏)
佐々木氏が指摘するとおり、景気が回復したことで企業は多方面で投資を拡大している。例えば新商品を投入するとなると、それに伴い新たなITシステム導入が必要となることもある。また企業が合併すれば社内システムの統合や新規開発などで社内SEの需要が高まる。景気回復の恩恵は求人動向全般に当てはまり、社内SEについても同様ということだ。
社内SEとは本社機能に近いエンジニア
そもそも社内SEとは何か整理しておこう。名前から分かるとおり、雇われた会社の内部で開発するITエンジニアだ。システムインテグレータ(SIer)と比較すれば分かりやすい。SIerなどは顧客企業のために開発し、開発したものを成果物として納品する。社内SEに当てはめると、自分が所属する企業が顧客であり納品先となる。一般的に社内SEは企業のシステム部門などに属し、開発を行う。
こうしたITエンジニアは相当数いる。2005年に実施した国勢調査(速報値)を見てみると、いわゆるエンジニアに相当する「情報処理技術者」の就業者数は85万人だ(表1)。だが就職先企業で「情報処理・提供サービス業」は24万人しかいない。これはいわゆるSIerなど開発を請け負う企業を指す。
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トータルで85万人のITエンジニアのうち情報処理を専門とする企業、すなわちSIerなどに属しているのが24万人だ。残り61万人に社内SEは含まれている。とはいえ全部ではない。派遣などで実質的にはSIerに近い形で就労しているが就職先が「情報処理・提供サービス業」ではない人も相当いると考えられるため、正確な割合はいい当てられないが、61万人のうちある程度の割合で派遣社員(特定派遣を除く)がおり、それらを除いた数が社内SEと考えられる。
「社内SEの対象者数は多いと思います。しかし社内SEとは自社向けに開発を行うため、自社の利益を稼ぐ部署ではなく、人事など本社機能に近い存在です。加えてあまり出入りが発生する職種ではないため、求人はそう多くはありません」(佐々木氏)
一般企業のシステム部で開発を行う、そうした社内SEはどの企業でも何人かは抱えているはずだ。中小企業であればほかの業務を抱えながら片手間に開発を行うということもあるかもしれない。ただし企業規模にかかわらず社員の流動性は低い。それが社内SEだ。
社内SEが求職者に人気の理由
社内SEは求職者に人気が高い職種だという。その理由を佐々木氏は5点挙げて説明した。
(1)一貫して携われる
開発のきっかけとなる自社内の要望や企画の段階から最終的なサービスリリースまで、開発のすべての工程に一貫して携わることができる。
(2)達成感
システムのエンドユーザーとの接点が多く、開発したものの成果や効果が手に取るように分かる。さらに感謝されるなどの経験が達成感ややりがいにつながる。
(3)一体感
開発の主体となる企業や部署の一員として関与できる。プロジェクト単位で雇われる立場と違い、開発現場でメンバーとの一体感がある。
(4)転勤が少ないと思われている(ようだ)
システム部となると本社機能に近く、支社などに転勤が命じられる可能性は低い。絶対にないとはいい切れないが、転勤がないことを期待する求職者は多い。
(5)残業が少ないと思われている(ようだ)
同じく企業や部署次第で絶対的な傾向ではないが、顧客への納品期限に追われる立場ではないため、「残業が少ないだろう」と期待する求職者が多い。
これらを総合すると、SIerとは対照的な立場であることが人気のポイントであるのが分かる。どれも「顧客のために」ではなく「自社のために」開発を行う立場が魅力につながっている。
SIerなどだと、開発の背景が分からぬまま仕様書や依頼書の指示どおりに開発をしなくてはならないときもある。そうした働き方に対して空虚さを感じ、より手応えのあるかかわり合いを志向すると社内SEに関心が向くようだ。
とはいえ、これらはあくまでも「好み」であり、社内SEとSIerのSEの立場や職種における優劣ではないと念を押しておく。
安定志向が社内SEを希望する
概して社内SEを希望する求職者には生活重視、安定志向が見受けられるという。
佐々木氏はこう語る。「いわゆる『上昇志向』など積極的にキャリアアップを追求する人もいますが、そうではない人もいます。そうした自分の生活を大事にしたいと考える人が社内SEに関心を持つことが多いようです。例えば30代でソフトハウスの過酷な開発環境で働いていた人が、社内SEに転職を希望したケースもあります」
ITエンジニアでITスキルを武器に仕事をするにしても、何を重視するかはその人次第である。特に20代など若い段階では、スキルアップや業績に熱心になる人も多い。最先端を学び、実践したいのであればSIerを目指すのがいいだろう。だが、そろそろ安定が欲しくなったころ、社内SEへと目を向ける人もいるようだ。
もちろん、最初から社内SEを望む人もいる。その場合は企業ブランドが選択の決めてになるようだ。
「若い段階で社内SEを選ぶ場合は、その企業が持つブランドに引かれて選ぶということがあるようです。例えば飲料や衣料など自分が気に入っているブランドがあれば、自分がよく知っている製品に何らかの形で携わりたいという気持ちが動機になるようです」(佐々木氏)
年相応のスキルや経験を持つこと
社内SEに求められるスキルや経験はどうだろうか。スキルで考えるなら「年相応のスキルを持つことが大事です」と佐々木氏はいう。年齢に応じて求められるスキルや役目などが違うからだ。
20代前半から半ばなど(いわゆる第2新卒がこれに当たるだろう)新人に近い人材ならスキルや実績はあまり問われない。これから学べばいいからだ。20代後半から30代に入ってくるとプロジェクトリーダー、さらに上となるとプロジェクトマネージャや企画を行うような役割として募集が行われるので、それ相応のスキルや経験が求められる。もちろんこうした傾向は、社内SEだけではなく、ITエンジニアの転職でも求められることだ。
だが決定的に違うのが、システム開発とのかかわり方だ。自社のために働くか、他社のために働くかだ。そのためスキルは必要になるが、それに加えて社内SEだと「調整力や折衝力が必要になります。作り込みの部分は外部に委託することになる場合が多いので」と佐々木氏は指摘する。
加えて佐々木氏は社内SEは「その業界や企業の人間として関与する」ことが重要になると話す。どの業界であろうと、その業界の知識を蓄えていること、また就職先企業の理念などに納得していることなどがその先長く働けるかどうかにも影響するということだろう。これは当人との相性次第でもあるが、自分がどの業界のどの企業に向いているかをよく分析したうえで、目標となる企業を選ぶことが必要となりそうだ。
金融、医療や製薬系、新興サービス業で需要上昇
業界別の事情について佐々木氏に尋ねた。好景気は全体的な傾向なので、どの業界も肩を並べて求人は上昇しているという。金融はもともとIT投資の必要性が高く、需要は多いがやはり好景気のせいで上昇している。
「意外なのが医療や製薬系」と佐々木氏はいう。もともと医療関係はIT化が進んでいる分野ではない。だが電子カルテなどをはじめ、ようやくIT投資が広がり始めているようだ。また製薬については外資との合併や買収の影響などで、システムの統合や日本向けシステムの開発で人員が必要になっているという。
あとは新興のサービス業でも需要が高まっている。例えば人材派遣で考えれば、求人広告や勤怠管理などでIT化を推進する必要がある。人材派遣に登録して働く人が増えているいま、そのシステムの規模はますます大きくなりIT投資も膨らむというわけだ。
ほかにも物流や小売りなどでは、これまでもPOSやCRMなど、積極的にIT投資を行ってきた。これが最近ではICタグを用いたトレーサビリティなどにも取り組むようになってきている。「安全性もキーワードとなっています」と佐々木氏はいう。個人情報保護の一環で安全性を重視するのはいうまでもないが、例えば野菜の生産者の顔が見えるようにするなど、食のトレーサビリティを高めることが安全性や信頼性向上につながるからだ。
あらためて最近の社内SEに関する求人動向を考えると、景気回復により多方面でIT投資が膨らみ、結果として社内SEの需要が高まっている。とはいえ社内SEは流動性が低く、かつ安定性や立場を重視する求職者からの人気は高いため競争率は激しい。スキルは年齢に応じたものが求められるが、それに加えて業界・企業人としての自覚や適応性がポイントになりそうだ。
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