自分がしている仕事にどれほどの求人があるのか、気になったことはないだろうか。また、その動向に変化はあるのだろうか。そんなエンジニアの求人動向を紹介する。
インターネットは、多くの企業にとって重要なビジネスの道具になりつつある。Webサイトで企業情報を発信してイメージアップを図ったり、商品の宣伝や販売などにも利用されている。そんな状況の中、いま、新しいタイプのITエンジニアとして市場ニーズが急速に高まっているのがインターネット系ITエンジニアである。インターネット系エンジニアの魅力とは? そして、どのようなスキルや知識が求められるのだろうか。リクルートエイブリックの服部恵美さんに聞いた。
ひと言で「エンジニア」といってもデータベースに詳しかったり、ネットワークの構築が得意であったりと専門性が異なるし、また、職種もそれぞれで異なるのが実情だ。仕事の内容も、例えばソフトウェア開発のプログラマと、企業向けの基幹システムを導入するプロジェクトマネージャでは大きく違う。そんな多種多様なITエンジニアの中にあって、いま、ひときわ注目を集めているのが「インターネット系エンジニア」である。
ITエンジニアの転職を数多くサポートしてきた服部さんによれば、「ここにきて求人企業数が一気に以前の数倍にまで拡大しています。求人企業の増加のスピードに転職希望者の数が追いつかない状況です」という。いま、そこまで市場で求められているインターネット系エンジニアとは、いったいどんな職種なのだろうか。
インターネット系のエンジニアとは、Webサイトやモバイルサイトでのアプリケーション開発や、Webサイトの設計・構築から運営・保守・管理までを手掛けるエンジニアの総称である。実は仕事の範囲、業務の内容は多岐にわたり、例えばJavaでの開発やPHPやPerlなどのスクリプト言語を使用するデータベースに絡む開発から、Webデザイナーと一緒になってWebサイトをシステム側からサポートする役割までさまざまな業務がある。
例えば、ある企業でインターネットを利用した通販ビジネスを展開しようとした場合には、そのフロントエンドとなるWebサイトの設計・構築、Webサイトから物品を購入できるシステムの開発、そして、Webサイトを訪れた利用者の属性や顧客情報をデータベース化して管理する営業ツールの開発など、フロントエンドからバックエンドまでを全般的に担当するケースが多く、守備範囲が広い。
服部さんは、インターネット系のITエンジニアの魅力を次のように語る。「最大の特徴は、仕事の内容が『BtoC』であることですね。ターゲットが一般のコンシューマなのです。自分が開発したシステム、フロントエンドのWebサイトなどを含めて、それらが一般の利用者にどう受け入れられて、どう使われているのか。それが体感できる。作り上げたシステムが明確に『形』となって現れ、時には人気サイトになったりする……。そこが仕事の魅力です」
確かに一般的なシステムインテグレータ(SIer)では、企業向けのシステムを開発するケースがほとんどだろう。どうしてもBtoBのビジネスになると、そこでITエンジニアとして活躍していても、構築した実際のシステムが広く一般の人たちに利用されるのを体感できるチャンスはなかなかない。ましてやプライマリーではないSIer、3次請けや4次請けのSIerのプログラマやシステムエンジニアでは、開発を担当する部分が実際に巨大なシステム全体のどこの部分であるのかも分かりにくく、「指定された納期までに」「指定された開発をひたすら繰り返す」だけの仕事になってしまうことも多いのではないだろうか。
その点インターネット系ITエンジニアの場合、一般のコンシューマ・利用者に非常に近いポジションで、「自分が作ったシステムが多くの人たちにこんなふうに使われている」と肌で感じられるところに、大きな魅力があるといえる。その意味では、インターネット系のITエンジニアは、一般的なITエンジニアのイメージとは少し異なるようだ。異色で魅力にあふれた「ニュータイプ」のエンジニアなのかもしれない。
また、インターネット系のシステムは開発のスピードが速い。通常のSIerでは1つのプロジェクトを2〜3カ月間かけて回すが、インターネット系の開発は1カ月程度で納品にまで結び付くことがある。自分が開発した「成果」がすぐに分かり、それらのプロジェクトが次々に繰り返されていく。そのスピード感も一般的なITエンジニアとは異なるようだ。
さて、そんなインターネット系ITエンジニアではあるが、求人企業側はどのような人材を求めているのだろうか。
必要とされるスキルセットや知識、キャリアとはどのようなものなのだろうか。服部さんによれば「スキルセットは通常のSIerのエンジニアと変わりません」とのこと。「Javaでの開発が多いため、サーバサイドまでを含めたJavaの知識があれば非常に市場価値は高くなります。ただ、いまは『とにかく人が欲しい』という企業が多いのは事実です。売り手市場なのです。そのため、C言語やVB(Visual Basic)の経験があればいいという企業もあります」(服部さん)
服部さんは「スキルや知識、経験よりももっと企業が重視していることがあります」と指摘する。「ずばり、そのITエンジニアの『やる気』です。『気持ちのある』エンジニアが欲しいという企業が多いのです」(服部さん)
それには理由がある。インターネット系の開発は、フロントエンドからバックエンドまでと業務内容が幅広く、しかも、短納期で次々に開発を手掛けていかなくてはならない。そのため1人のエンジニアがプログラミングからシステム開発、顧客との折衝、納期の管理まで全部を担当することもある。いわば、プログラマでもありプロジェクトマネージャでもあることを求められるのだ。
一般的なSIerのITエンジニアのように、プログラマ、システムエンジニア、プロジェクトリーダー、プロジェクトマネージャといった「エンジニアのヒエラルキー」は存在しないといってよい。それだけに、本人にやる気さえあれば、若くしてプロジェクトマネジメントも経験できる。顧客との折衝を通じて、ビジネスのイロハを学ぶことができれば、若いうちにはなかなか経験できない「経営的な視点」を知ることもできるかもしれない。
自分の意欲と能力、仕事の発展のさせ方次第で、次々にフィールドを広げて、新たなスキルや経験を身に付けていくことができる。そして、システムを納入した際には、まさに「最初から最後まで自分の力で作り上げ」「それが利用者に使われ」「その企業の利益に結び付く」といったIT系「ものづくり」のだいご味を十二分に味わうことができる。それがインターネット系エンジニアの大きな魅力の1つでもあるのだ。それだけに、求人企業側も「やる気」があって、仕事のフィールドを拡大し、お金を稼げるプロ意識の強いエンジニアを求めている。
魅力ばかりがあるように思えるインターネット系エンジニアであるが、いい面ばかりではないことも理解しておく必要はある。1つは、業務内容が多岐にわたり、本人のやる気次第で仕事を拡大していけるということは、裏を返せば「自分が苦手な仕事もやらされる」可能性があるということだ。システム開発という職種で入社したのに「客先に行ってお金の交渉をしてきて」と頼まれることもあり得るだろう。
インターネット系の開発会社は、大手検索サイトや大手インターネットショップのシステム開発を任されるような実績のあるシステム開発会社からベンチャー企業まで数多く存在する。中には、仕事の分担や社内の責任の所在などが明確でない若いベンチャー企業もある。エンジニアとしてのヒエラルキーがなく自由な雰囲気ではある。が、それだけに「社内の仕組みがあいまい」で、きちっと規定されていないこと、業務範囲や責任の範囲が明確でないことにストレスを感じてしまう可能性もある。しっかりとした企業を選ばないと転職に大きなリスクを伴うことになってしまうのだ。
そうはいっても、やはりエンジニアとして「やりがい」を感じられる仕事であることは間違いないようだ。「37歳の男性や45歳の女性のエンジニアが転職に成功しています。通常のSIerでは年齢的に難しいと判断されるケースが多いのですが、インターネット系ITエンジニアは、本人の『やる気』とそれに見合った経験があれば、年齢や性別が転職の障害になるとはいえません。自分の可能性を広げられる転職も可能なのです」(服部さん)
多くのエンジニアは、自分のキャリアパスをどう構築するかに悩んでいるだろう。プログラマからシステムエンジニアになって、プロジェクトリーダー、プロジェクトマネージャへとステップアップしていくのは確かに王道だが、エンジニアとしての道筋はそれだけではないはずだ。
例えば、映画が大好きなエンジニアであれば、「映画の魅力をインターネットを通じて1人でも多くの人に伝える」システムを開発するという発想を持ってみるのはいかがだろうか。視野が広がれば、その世界で自分のスキルや経験を生かすチャンスも広がる。「単純な開発に追われ続けている人、自分の力を発揮できずにくすぶっているITエンジニア……。チャンスが広がるかもしれません」(服部さん)
ただし、繰り返しになるがインターネット系の開発会社への転職はリスクも伴う。インターネット系開発会社には「若い企業」も多いために、求人情報雑誌やWebサイトでは正しくその会社の情報を把握することが難しい。そんなリスクを回避するためにも、人材紹介会社を利用すことをお勧めする。その会社の社風や経営者の資質、実績など正しい情報を得てから、転職を考えても少しも遅くはないのだ。
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