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「データベースで生計を」――未踏ユース 郷原浩之ライバルに学べ! 学生スターエンジニアに聞く(5)(2/2 ページ)

高い技術力を持って活躍する「学生スターエンジニア」たち。彼らはどのように生まれ育ち、どんなことを考えているのか。同年代のスターへのインタビューから、自分の就職活動のヒントを得よう。

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謙虚な郷原さんの「セルフコントロール術」

―― 以前、この連載で未踏ユース採択者の方にお話を伺ったことがあるのですが(参考:飽き性が武器――未踏ユース「misky」は技術系芸術家)、郷原さんの未踏ユースプロジェクトでは、開発はどのような進め方だったのでしょうか。

郷原 基本的に開発は個人で進めます。あとは、PM(プロジェクトマネージャ)の先生とミーティングをしたり、毎月レポートを提出したりですね。

―― 未踏ユースに採択されて、開発に関して変わったことはありましたか?

郷原 開発に対する姿勢が変わりました。やはり、決められた期間の中で、ある種、責任を負って開発をするという点が、それまで1人でやっていたのとは違いますね。例えば、品質について真剣に考えるようになったり、プログラムを公開するに当たって一から権利関係の勉強をしたり。

―― 応募するとき、採択される自信ってありましたか?

郷原 (審査に)通る自信ですか? ううん……無理やり自信を持っていました(笑)。自信がないと落ちちゃうと思うので。とはいっても、未踏ユースのオーディション中、自分の前にプレゼンテーションしている人たちは自信満々の顔をしていたんですよ。それを見て、自分はけっこう噛(か)んじゃうので、どんどん自信がなくなって……(笑)。そんなときは、無理やり自信を持つしかないじゃないですか。

―― いいですね、郷原さん流セルフコントロール術ですね。自分に自信を持つってことは、ものすごく大事だと思います。具体的には、どうやって無理やり自信を持つんですか?

郷原 そうですね、こう……「受かる受かる受かる……!」と念じるんですよ。5回くらい。で、「あ、受かったかもしれない」まで持っていくんです。単純ですけど。根が単純なので(笑)。

―― お話ししていて感じるんですが、すごく謙虚ですよね、郷原さん。すごい方なのに。あまり普段から自信満々な感じではないんでしょうか。

郷原 多分、数学とロボット工学とで、2度挫折しているので。自分よりはるかに実力のある人たちを具体的に知っているので、自信満々にはなれないです。

―― 前回インタビューしたchokudai(高橋直大)さんも、「パ研の同期には数学で勝てる気がしない」ということをおっしゃっていました。わたしたちから見ると、そんなchokudaiさんや郷原さんに勝てる気がしないのですが(笑)。

郷原 でも、例えばわたしが3日かけても解けなかった問題を彼らが5分で解いたりすると……ちょっとこれは勝てないなぁ、と。

―― それはすごいですね……。逆に、郷原さんがいま「これに関しては自分は誰にも負けない」と思えるのはどんな分野ですか?

郷原 それはやはり、HibernateやRDBのガーベジコレクションの技術周りですね。ここは間違いなく自信があるといえます。

就職活動は「来年から頑張る」?

―― 就職活動についてもお聞かせください。学部から院に進むとき、就職という選択肢は考えられましたか? また、やはり就職先はIT業界をお考えですか?

郷原 学部3年のときには、大学卒業後は就職するつもりでいました。そのときはあまりITに限らず、金融業界などいろいろな業界を考えていました。でも、夏休みに4週間くらい、ワークスアプリケーションズのインターンに参加して、プログラミングの仕事に触れることができたんですね。そのとき「ああ、これは面白いかも」と思って、大学院でもっと本格的にプログラミングの勉強をしようと考え、院に進みました。

 それ以降は、開発に携わる仕事をしたいと考えるようになりましたね。でも、そうこうしているうちに景気が悪くなっちゃって、「あ、これはしまったかも」と思ったり。けっこう不安です。

取材の様子
2009年、最後の取材

―― 郷原さんほど力があって、実績があれば、そんなに心配することはないのでは……と思うのですが。

郷原 どうなんでしょうか……。まだ自分が本格的に就職活動を始めたわけではないので、なんともいえないのですが、1年上の先輩は不況が直撃したので、話を聞いていると大変そうだと思いますね。やっぱり心配です。

―― でも、「採用人数を減らす分、しっかり選考して優秀な人を採用する傾向にある」という話を聞くので、むしろ力のある方は有利なんじゃないかな、と思います。今後の就職活動の予定について、見通しは立てられていますか?

郷原 「来年から頑張る」と周りにはいっています。夏休みには「来月から頑張る」といっていた記憶がありますが……(笑)。でも、本当に来年から頑張ります。ちょっとだけ、周りの同級生がアクティブに活動し始めていて、焦っています(笑)。

―― 確かに、1月から選考活動が本格化しますからね。

「データベース技術者として生計を」

―― 技術者を目指すうえで、これだけは譲れないという、就職活動の「軸」はありますか?

郷原 「データベース」ですね。データベース技術者として生計を立てていきたい。データベースのスペシャリストになりたいです。データベースのシステムの開発に携われる会社がいいなあと思います。

―― データベースシステムの開発というと、業務システムということではなくて、データベース自体のミドルウェア的なところをガリガリと開発する方でしょうか。

郷原 そうです。

―― そこまでデータベース技術者にこだわりを持っているのは、ご自身でどういった理由だと思われますか?

郷原 コンピュータの勉強をしている中で、データベースを知った瞬間が一番「すごい!」と思ったんです。「世の中にこんなものがあるのか」と。Javaなどプログラミング言語のすごさも感じますが、データベースを初めて知ったときに感じた「すごさ」は別格でした。

―― 最初はやはりRDBから入ったんですか? どのようなきっかけだったんでしょうか。

郷原 RDBからです。ある会社でアルバイトをしているときだったんですが、「これを勉強してきなさい」と本を渡されて。Webプログラミングの本だったんですが、そのときにMySQLを知ったんです。それまでは、データをファイルに書き出したりしていました。

 研究の面からいえば、もともとデータマイニングに非常に興味があったんです。例えば、株価情報を取ってきて何か規則性がないかと分析したり、ネット上の記事を拾ってくる自分なりの検索エンジンを作って情報を解析したり、ということを、データベースを使わず、ファイルに書き出しながらやっていたんです。そこでデータベースを知って、SQL(RDBの操作を行うための言語)を使えば、データを集計するときに“SUM()”って書くだけで、手動で計算プログラムを書かずに済むし、簡単にデータの保存や編集ができて、すごいなあと驚きました。最近は、分散型データベース技術に興味があります。

サイボウズでアルバイト中

―― 現在はサイボウズでアルバイトされているそうですね。どんなことをされているんですか? バリバリとプログラミングしているんでしょうか。

郷原 アルバイト4人でチームを組んで、Internet Explorerのツールバープログラムを開発しています。すでにリリースされている製品の機能追加ですね。社員の方が1人、上司として付いていただいて、指示をいただいたり、作業内容を報告したり、という感じです。勤務は週に1〜2回で、開発作業自体はその4人のチームに任されています。

―― 開発を任されているというのが面白いですね。郷原さんが「サイボウズでアルバイトをしたい」と思ったのは、どういうきっかけだったんでしょうか。

郷原 学内で起業家を呼ぶ授業がありまして、そこでサイボウズの代表取締役社長の青野(慶久)さんのお話をお聞きする機会があって、興味を持ったんです。ちょうどアルバイトの募集をしていたので、応募しました。

―― アルバイトの選考は、面接ですか? すんなり通ったんでしょうか。

郷原 面接とコーディングですね。わたしは素早くコーディングするよりもじっくり考えてコメントを付けながらコードを書くので、コーディング試験は苦労しました。

広報誌のインタビュー業務を通じて、隣の学科をのぞきに行く

―― 学校では、工学部の広報アシスタントとして広報誌の発行を担当されているとお聞きしました。これはどんな活動なのでしょうか。

郷原 大学の広報誌のお手伝いで、2カ月に1回のペースで発行しています。主に、工学部内のいろいろな学科を取材しています。たまに学部外に飛び出すこともありますけど。どの学科を取材するかが決まったら、その学科の先生やOB、または魅力的な大学院生にインタビューをしに行って、記事を書く、ということをしています。

―― なぜこういった活動を始められたのですか?

郷原 ……なんででしょう(笑)。始めたのは学部4年生の初めのころでした。そのころは単位も大体取れて、あとは卒論だけ、という状態だったんですね。それで、卒論だけで2カ月くらい引きこもっていたら、「これはちょっと頭がおかしくなるな」と(笑)。ちょうどそのとき、研究室に広報誌が届きまして、広報室でスタッフを募集していたんですよ。人と話す場、つながる場が欲しくて、いい機会だと思って応募しました。

―― インタビューをして記事を書いて、という記者的な活動に興味があったんでしょうか。それとも、いろいろな人に会いに行きたい、という思いですか?

郷原 後者です。自分の学科の先生はよく知っているんですが、隣のビルで何をやっているのかは全然分からないので、話を聞いてみたいなあ、と思って始めました。例えば、わたしはもともとロボットに興味があったので、その分野のお話を聞きに行ってみるとか。

 学科名からは想像ができないようなことをやっている人がいて、すごく面白いんです。例えば、電気工学科で月面探査のロボットを手掛けている人がいるんです。普通、東京大学で「宇宙」といえば「航空宇宙工学科」なんですが、彼らはどちらかというと、ロケットのエンジンとか、推進がメインなんですね。電気工学科も電気の技術で宇宙に絡んでいるのです。

―― 確かに「宇宙といえばこの学科」といったイメージはあるけれど、決してそんなに一面的じゃないんですね。

郷原 そうなんですよ。みんなどうしても名前から想像しがちなんです。広報誌自体は、高校生や大学1、2年生に向けてのものなので、学部や学科の名前だけから判断しないように、その辺を情報発信したいな、と。

―― 素晴らしいですね。その広報誌は、誰でも読もうと思えば読めるんですか?

郷原 Webサイトで公開していますので、ぜひ読んでみてください。学内や、高校でも配布しています。

コミュニティ活動は「ちょっと壁がある」

―― 「人と話す、つながる」という話がありましたが、今回開発されたGCプログラムはオープンソースでやっていくわけで、そういった方面のコミュニティ活動などはされているんですか?

郷原 ちょうど区切りがついたので、そういう活動をしようと思うんですが……どうしても最初の一歩が踏み出せない(笑)。怖いというんじゃないんですけど、なんなんでしょうか、何か壁があって。

―― 郷原さんでも、やっぱりそういうことがあるんですね。なんとなく安心しました(笑)。でも、郷原さんにはぜひそういった場にどんどん出てきていただかないと。IT業界就職ラボに「学生のためのIT勉強会入門」という連載があるので、ぜひお読みいただいて……。

郷原 実はそちらも読んだんですが、あと一歩が踏み込めなくて。

―― じゃあ、もう、一緒に行きましょう(笑)。興味のあるコミュニティや勉強会はあるんですか?

郷原 Hibernateのユーザーグループには入ってます。あと興味があるのは、やはりデータベース関連でしょうか。ちょっと前に、WebDB Forumってありましたよね。

―― ありましたね。ほかには、日本データベース学会や情報処理学会のデータベースシステム研究会でしょうか。あとは、例えばMySQLやPostgreSQLのユーザーグループや、最近だと「データベース友の会」というコミュニティもありますよ。よかったらのぞいてみてください。

郷原 そうなんですか。ありがとうございます。ググってみます。Bingもしてみます。

―― それ以外に、例えば開発系なら……(編注:以下、筆者の話が続くが、長くなるので省略)。

ソースコードを読め!

―― ……すみません、ちょっとコミュニティや勉強会の話に熱くなって語ってしまいました。最後に、現在就職活動中の学生たちや、これから就職活動をする後輩たちに向けてメッセージをお願いできますか。

郷原 わたしがいつも先生方に取材するとき、その質問をするとみんな困った顔をするんですよ。まさか自分が困ることになるとは思いませんでした(笑)。……ええっと、ちょっと整理させてください。

―― 自分がされると困りますよね(笑)。

郷原 では、「1年前の自分に向けて」ということでいいますね。

 「ソースコードを読め」といいたいです。プログラムが好きだと、スクラッチから作ることが多いでしょう。もちろんそれも大切だと思います。でも、それまでに世の中で書かれたものの中には、自分より技術のある人たちが書いたものがたくさんあって、品質もいい。それを読まない手はないと思います。読むのは少し面倒くさい、と思うかもしれませんが、そこは一歩踏み込んで、頑張れといいたい。英語マニュアルしかないことも多いだろうけど、そこを頑張ってほしい。自分で書くのも大事だけど、時には読むこともそれ以上に大事なんじゃないか、そう思います。自分で書いたもの以上の品質のコードがオープンソースでゴロゴロ転がっています。学習効率の面からも、コードを読むほうが早く実力がつくのではないでしょうか。

―― 確かに、オープンソースならばすでに先人の知恵が詰まったソフトウェアがたくさんあって、しかもすべて公開されているわけですから、それが可能ですね。やはり、Hibernateのソースコードを読みまくった経験からくるアドバイスなのでしょうか。

郷原 そうです。読んでいるうちに“コツ”みたいなものをつかむことができて、それからは読むのが早くなったんです。その感覚がそれ以前からあれば、未踏期間内にもうひと山、越えられたかと思います。

―― この1年で経験されたからこそのメッセージですね。ありがとうございました!

取材を終えて

 「データベースを知った瞬間が一番『すごい!』と思った」という郷原さんの言葉がありましたが、実は筆者も同様です。就職活動中に同じことを何度も面接で話していました。また、郷原さんの「ソースコードを読め」という言葉や、記者として情報発信をする姿勢には深く共感できます。

 取材していて、非常に親近感を覚える方でした(もちろん、筆者から見たら、ものすごい存在なのですが)。でも、彼がすごいのは、あれだけの実績を持ちながら、それでいてとても謙虚なところでしょう。これは人として見習いたいです。

 そんな謙虚な郷原さんですが、「技術者を目指すうえで譲れない『軸』」を伺ったときは、「データベースです」と即答されました。非常に力強い言葉で、揺るぎない自信を感じました。郷原さんの実績はその自信を裏付けるものでしょう。「自分は何をやりたいのか」をしっかりと持っている郷原さんの姿は、とても力強く感じられました(ご本人はあくまでも謙虚な姿勢でいらっしゃいましたが)。

 郷原さん、大変勉強になりました。ありがとうございました。

 それでは皆さん、また次回お会いしましょう! ハッピーな新年を!

著者プロフィール

塚田朗弘(つかだあきひろ)

日本電子専門学校 高度情報処理科 3年生。

大学卒業後、紆余(うよ)曲折を経て日本電子専門学校に入学し、2010年3月に卒業予定。

学校ではチューターとしてオープンソースシステム科やITスペシャリスト科といった他科の実習室管理、実習補佐を担当する傍ら、非公式部活動「電設部」でIT勉強会プロジェクトのリーダーを務める。

IT勉強会プロジェクトでは、学生によるIT勉強会の普及と、IT勉強会への学生の参加を促進すべく奮戦中。

所有資格はテクニカルエンジニア(データベース)、テクニカルエンジニア(ネットワーク)、ソフトウェア開発技術者、ORACLE MASTER Gold Oracle Database 10g、UMLモデリング技能検定L3など。

ブログ:学内IT勉強会のススメ



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