後発のWindows Phoneアプリ市場は、開発のしやすさで追い付くか:カイ士伝のアプリライフ(6)
賞金100万円をかけて250人以上がWindows Phoneアプリ開発を競った「スマートフォンアプリ選手権」。最終プレゼンで競ったアプリの感想をメインにイベントを振り返る
激突! Windows Phoneアプリ!
去る10月29日、東京・お台場の東京カルチャーカルチャーで、賞金100万円をかけてWindows Phoneアプリの開発を競う「スマートフォンアプリ選手権」が開催された。選手権で発表されたWindows Phoneアプリの感想とともに、このイベントを振り返ってみたい。
スマートフォンアプリ選手権は、本連載を掲載している@ITが主催する「デザインハックミーティング」によるイベント。今回はWindows Phoneアプリをテーマとして募集を実施、マイクロソフトの基準などをくぐり抜けた269のアプリからさらに選ばれた10のアプリについて開発者がそれぞれプレゼンを行うという内容だ。
トップバッターとなった「2chまとめ読み」は、2ちゃんねるの情報をまとめて読むアプリではなく、2ちゃんねるの書き込みをピックアップしてまとめている「まとめサイト」に特化したアプリ。いくつかの2ちゃんねるまとめサイトがデフォルトで登録されており、横スクロールでサイトを切り替えつつ、実際の記事は内蔵ブラウザで読むことが可能。今後は好きなサイトの登録や読みたいサイトのみを表示する機能なども対応予定という。
個人的には、2ちゃんねるまとめサイトよりも2ちゃんねるのスレッドを検索して読めるアプリを期待したいところだが、この点についてはWindows Phoneのマーケットプレイスで2ちゃんねるにリンクしているアプリが軒並みリジェクトされるという事態が問題になっている。このあたりの背景はWindows Phone専門メディア「ななふぉ」に詳しいが、(IS12T phones apps updates hacks devs > Windows Phone 用の「はてブ」アプリも審査落ち。理由は 2ch へのリンク)、2ちゃんねるそのものはNGだが、2ちゃんねるをまとめたページはOKという矛盾が起きてしまっている。問題点も多々あるものの日本におけるネット情報の発信源でもある2ちゃんねるだけに、単なるアダルトサイトと片付けてしまうのは実に惜しい。この点は日本マイクロソフトの今後の対応に期待したいところだ。
SteamMessageは、マイクを使って息を吹き掛けることで画像が曇るエフェクトを施し、その上にタッチ操作で文字やイラストを描けるというアプリ。曇りガラスに指で文字を書くような雰囲気をWindows Phoneで再現できる。一定時間すると曇りが消えるが、再度息を吹き掛けると先ほど書いた文字が浮かび上がるという演出も施されており、実際に操作してみると、息を吹きかけて曇らせた画面に指で文字を書ける、という演出が予想以上に楽しい。
ただ残念なのは曇りガラスの演出ができるのは最初から用意された画像のみということ。こうした写真加工はinstagramなどの写真投稿サービスでも人気の機能であることに加え、曇りガラスに文字を書けるというエフェクトがユニークなだけに、手持ちの写真を使って画像を加工し、投稿できると面白い。また、同じアプリを持った同士であれば、最初から文字を書いてある画像を送り、相手は息を吹き掛けるだけで文字が表示されるというのも楽しそうだ。エフェクトが面白いだけにもっとさまざまなシーンで使いたいと感じた。
モザイクフォトは、カメラで撮影した写真にモザイクをかけられるアプリ。カメラロールから写真を読み込み、任意のエリアをタッチ操作で四角く囲むと、囲んだエリアの中にモザイクがかけられる。
イベント中のデモは「人の顔を隠す」ことが中心だったが、個人的には個人情報対策にも使いたい。例えば写真の中に表示された住所や型番、電話番号などを出したくないなど、モザイクで隠す場所は人の顔以外にも考えられる。個人的にもブログで写真をアップロードする時、個人情報部分を隠すためにモザイク機能を使うことがあるため、こうした写真にモザイクをかけられる機能はありがたい。いまのところは顔を隠すことを目的としているためか四角で囲む必要があるが、個人的には「タッチした部分だけ」モザイクできる機能があるとより便利に使えるのではないかと感じた。
WikiTransは、Wikipediaの仕組みを利用した翻訳アプリ。Wikipediaに登録されている用語は他の言語にもリンクされていることに目を付け、Wikipediaの見出し語を世界各国の言語に翻訳できるという仕組みだ。Wikipediaの特性を生かし、日常会話の翻訳よりも、学術用語や技術用語のような専門性の高い用語や最新の用語にこそ力を発揮するという。
個人的にはコンセプトに最も感心させられたアプリがこのWikiTrans。どんなに精度の高い検索や翻訳技術よりも、人力による翻訳の方が精度が高いという事実に加え、Wikipediaであれば同じ用語の多言語リンクが張られているというルールをうまく取り込んだ点も着眼点が鋭い。いままで気が付かなかったWikipediaの新しい価値を実感できたアプリだった。
「大人のマナー初級編」は、今回のアプリで最もコンテンツの力が強いアプリではないだろうか。大人になってからは気になりながらもなかなか勉強する機会もないマナーを、スマートフォンで手軽に学べるというのは、非常に分かりやすく魅力も大きい。実際、会場で紹介されたいくつかのマナー問題は参加者も思わず回答に注目していた。
ただ惜しむらくは30問をひたすら解くだけのアプリとなっており、ソーシャル要素が見られないこと。こうしたクイズ系のアプリは得点を自慢したり、その結果をソーシャルに投稿したりすることでさらにアプリが広まるきっかけにもなる。全30問のうちの正解率を投稿できるなど、TwitterやFacebookなどと連携するとマナーアプリの魅力がより伝わるのではないかと感じた。
「走るブタ」は、加速度センサを使って主人公のブタを操りゴールを目指すアクションゲーム。操作自体は傾きでブタを移動し、ジャンプ用ボタンをタップして落とし穴や障害物を超えていくというもので、ルール自体はシンプルながらも刺されるとステージをやり直しになるハチの存在、取るとタイムが短縮できるキノコアイテムなど、シンプルながらタイムアタックゲームとしては充実の作りだ。
「学生賞」を受賞したこのアプリの開発者は、高専3年生という若さながら2日でこのアプリを開発。Windows Phoneの端末は実際には所有しておらずエミュレータだけで作り上げたアプリが、イベント当日のデモでは快適に動作していた。今回の開発者が口を揃えて「Windows Phoneはアプリが開発しやすい」とコメントしていたが、たった2日でこれだけのゲームを作り出せるという事実は、開発者の能力はもちろんWindows Phoneの開発環境が優れているということも同時に示す結果だったように思う。
「よつばさがし」は名前の通り、大量のクローバーの中から幸運のシンボルでもある四つ葉のクローバーを探すというゲーム感覚のアプリ。画面をタッチしながらひたすら四つ葉のクローバーを探すだけというシンプルなアプリながら、専用に開発したという物理エンジンの描画が非常に小気味よく、スワイプ操作で大量のクローバーをかき分けていくだけでも楽しめる。当日も審査員の1人である中村伊知哉氏も審査の最後まで熱中していた。
スコアを他のユーザーと競ったり、ステージをクリアしたりというゲーム要素は一切ないが、その分だけ四つ葉のクローバーを探すという世界観にひたすらのめり込めるアプリ。審査員からも「余計な機能を付けない方がいい」というコメントが飛んでいたが、あえてゲーム性を持たずに操作感のみを追求したシンプルさが、ある意味で完成型にあるアプリだと言える。
「トイレに行きたい!!」は、アプリそのものはもちろん、Windows Phoneのタイルメニューを使ったプレゼンテーションスタイルが非常に斬新だった。Windows Phoneをスクロールしていくとタイルメニューに記された文字で次々にプレゼンテーションが進んでいくさまはまさにWindows Phoneならでは。プレゼンテーションの巧さが際立ったアプリだった。
肝心のアプリも「自転車大好きマップAPI」のデータを利用し、周囲のトイレ情報を地図上に示すという実用性の高いアプリ。こうしたテーマ特化の地図アプリは万人受けしないものの、必要としている人には非常に受けがいいアプリでもある。また、Wikitrans同様に人力で集めているデータを利用することで、通常では見つけられないようなトイレスポットも見つけられる。こうしたテーマ特化の地図は今後もジャンルの拡充を期待したい。
顔出し看板は、観光地で見掛ける顔出し看板をWindows Phoneのカメラで再現するというアプリ。デフォルトで用意されたいくつかのフレームを使い、撮影した相手の顔をフレームに合成することで、まるで顔出し看板で撮影したかのような写真を撮影できる。撮影した写真はカメラロールに保存されるので、ソーシャルサービスへ投稿することも可能だ。
顔出し看板という一発芸に近い遊びアプリではあるが、飲み会などで友達を写して遊ぶなどコミュニケーションには役立ちそう。同じカメラアプリというところも含め、KikkakeCameraに近い要素を持ったアプリだ。欲を言えば審査員からもあった「もっと顔を大きく」という点に加え、せっかくのコミュニケーションアプリなので複数人で一緒に撮れる顔出し看板もほしいところだ。
KikkakeCameraは名前の通りカメラアプリだが、対象がWindows Phoneのユーザーではないというところが特徴。他の人にWindows Phoneを渡し、カメラで写真を撮ってもらう際に画面へ演出を施すという、一風変わったコンセプトのカメラアプリになっている。写真を撮ってもらう時のギミックで、その後のコミュニケーションへのきっかけを作るというのがこのアプリの狙いだ。
通常はカメラアプリと言えば所有者向けの機能になるところが、KikkakeCameraでは第三者向けの機能になっているところが面白い。今回のアプリでは相性診断など男女の出会いを意識させる機能が中心だったが、カメラのインターフェイスにメッセージを入れるという手法は他の要素でも使えそうだ。他人に写真を撮ってもらうという純粋な目的からすれば、写真の撮り方をチュートリアルで教える機能や、背景と人物をうまく合わせるガイド表示など、「第三者に渡す」ならではのカメラ機能も期待したいところだ。
今回のスマートフォンアプリ選手権を通じて感じたのは、Windows Phoneアプリの開発環境が整っているということ。ほとんどの開発者がWindows Phoneのアプリは開発しやすいと答えており、今回のアプリも1日か2日で作り上げたという声も多かった。アプリ数では先行するiPhoneやAndroidとは大きな差があり、特に日本で利用できるWindows Phoneアプリの数が非常に少ないのが現状だが、こうした開発のしやすさはユーザー的にも今後のアプリ拡充に大きな期待が持てる。
一方、「Windows Phoneらしい」アプリが少なかったことは少し残念だ。どのアプリも他のスマートフォンOSでも実現できるような機能が中心で、Windows Phoneならではの特徴や個性を持ったアプリがもう少し欲しかった。例えばAndroidで言えば、ステータスバーやインテントといった仕組みを活用することでAndroidならではのアプリが開発できる。Windows Phoneならば、例えばタイルメニューの表示をうまく使うことでWindows Phoneならではのアプリが実現可能だろう。
ほとんどのアプリが今回のイベントに向けて開発されたものであり、開発期間が短いだけにたくさんの機能を積み込むのは難しかったに違いないが、それでも今後、Windows Phoneアプリが充実するためのよい布石だったと思う。アプリの充実度はスマートフォンの魅力を大きく左右されるだけに、今後もこうしたアプリ開発者の活躍を期待したい。
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