だれよりもアプリを使いアプリを愛する著者が、独自の視点から、そのユーザビリティについて言及していく。初回は話題のWindows Phoneについて。相手に何を伝えるかによってールを選ぶ。人間関係に徹底的にこだわった姿を見てみよう
日本では初、そして世界においても「Mango」と呼ばれる最新OSを搭載した点で初となるWindows Phone「IS12T」が8月25日にauから発売された(Microsoft、「Windows Phone 7 Series」を発表)。iPhone、Androidに続く第3のスマートフォンとしての展開が注目されるWindows Phoneの特徴やそのコンセプトの中、最も特徴的ともいえるPeople Hubについて主観を交えてまとめてみたい。
スマートフォンとして先行するiPhoneやAndroidと比べ、Windows Phoneが特徴的なのは、ソーシャル電話帳とでもいうべき「People Hub」という機能だ。Windows Phoneでは、アプリやゲームをダウンロードできるサービス「マーケットプレイス」の利用にWindows Live IDの登録が必要だが、さらにTwitterとFacebookのIDを設定しておくことで、これらサービスの新着情報やコミュニケーションをPeople Hubで一元的に管理できるようになる。
People Hubの「新着情報」には、Windows Liveのステータス状況に加え、TwitterのフォローやFacebookの友達による投稿を一覧で表示。Twitterであれば返信やリツイートが、Facebookであれば「いいね!」やコメントをPeople Hubから行うことができ、ソーシャルサービスごとに複数のアプリを使い分ける必要がない。
People Hubからの新規投稿も可能で、Windows Live、Twitter、Facebookそれぞれまたは同時に投稿することができる。位置情報サービスについても、FacebookのチェックインをPeople Hubから利用し、取得した位置情報をTwitterやFacebook、Windows Liveへ投稿できる。
1つのアプリで複数のソーシャルサービスを利用できるというのは大変便利だが、こうした機能自体はさほど珍しいものでもなく、TweetDeckやSeesmicといったアプリも、複数のソーシャルサービスに対応している。これらアプリに比べてWindows PhoneのPeople Hubが異なるのは、このソーシャルサービスによって実現している人間関係に徹底的にこだわっているところだ。
People Hubをベースとしたチャット機能「Messaging」では、Windows Live メッセンジャーとFacebookチャットのオンライン状況を一覧で表示し、どのサービスのチャットでつながっているかを意識することなくチャットが利用できる。電話番号で短いメッセージを送り合うSMSもこのMessagingで利用でき、「相手とメッセージをやりとりする」というアクションをすべてこのMessagingで一元管理できる。残念ながら現在のところauのSMSであるCメールは受信のみとなっているが、10月に予定されているCメール送信にも対応すればこのMessagingもより便利になるだろう。
People Hubが備えている電話帳機能もソーシャル対応を強く意識している。新着情報に表示されるTwitterやFacebookのアカウントは、Windows Phoneの電話帳にも自動で登録され、五十音やアルファベット順で探し出すことが可能。これらソーシャルサービスのアカウントは従来携帯電話で利用していた電話帳情報とも同等に扱われ、ここでも「相手のプロフィール」という情報を1つに集約して管理できる。また、Gmailのアカウントを設定すれば、Gmailの連絡先もPeople Hubへ自動で登録される。
複数の電話帳データを1つに統合することも可能だ。TwitterとFacebook、そして電話帳に登録された情報が同一人物の場合、これら別々の情報を「リンク」することで1つの電話帳データに集約できる。アカウントによっては連携すべき別のアカウントをレコメンドする機能も備えており、手軽にアカウントをまとめることが可能だ。アカウントを統合することで、TwitterとFacebookで同じ発言を投稿している場合はその発言を1つにまとめて表示することができ、新着情報の視認性も高められる。
こうしたPeople Hubが持つ一連の機能に共通することは、コミュニケーションが手段ベースではなく目的ベースで設定されていることだ。これまでのソーシャルサービスであれば、「相手とチャットをしたい」と思ったときも、自分がFacebookでつながっているのか、Windows Liveでつながっているのかを踏まえた上で、そのサービスを選んでからチャットを行う必要があった。しかしPeople Hubであれば、チャットしたい相手を先に選び、サービスはその後でつながっているものを選べばよい。同じことは電話帳機能にも新着情報にも当てはまる。
もちろん、前述の通り複数のソーシャルサービスをまとめて確認できるアプリはすでに存在するし、ソーシャルアカウントを統合する電話帳というコンセプトも、似たような機能を搭載したAndroidスマートフォンがいくつもリリースされている。しかしWindows Phoneではこうした機能をすべて1つにつなげた上で、スマートフォンOSとして標準で対応している点が大きな違いだろう。
そしてさらにこれらソーシャルサービスがWindows Phoneという端末ではなく、Windows Live IDというIDに対してひも付けられている点も見逃せない。Windows Phoneの電話帳でリンクしたアカウントはWindows Live IDにも反映されるため、Windows Live メッセンジャーのコンタクトリストやWindows Live Hotmailのアドレス帳にも自動で同期される。iPhoneの最新OS「iOS 5」でもTwitter対応するなどOSレベルでのソーシャル対応が進んでいるが、Windows Live IDは後発ながらのメリットか、こうしたソーシャル対応については他のスマートフォンOSよりも先進的な取り組みを行っていると感じた。
People Hubはとても興味深い機能や思想ではあるのだが、その一方で気になる点も多い。標準でサポートしているとはいえ、実現している機能そのものはアプリで実現できるレベルであり、OSならではというほどではない。Androidのステータスバーやインテントのような「OSだからこそ実現できている」特徴的な機能に比べると、標準搭載とはいえ同様のアプリが他のスマートフォンで普及した場合に差別化が難しいのではないかと気になった。とはいえ登録されたソーシャルサービスはWindows Live IDにひも付く形で同期が行われるという点では、各種ソーシャルをWindows Live IDに統合するアカウントサービスという特徴こそがWindows Phoneならではの魅力ともいえそうだ。
機能としては非常に優れたPeople Hubだが、テキスト中心のインターフェイスのために登録されたユーザーが一見して分かりにくいのは課題。TwitterやFacebookなどのソーシャルサービスは登録されているアイコンがその人を表すシンボルとなっていることもあり、People Hubにもこうしたソーシャルサービスのアイコン表示機能を望みたい。
また、People Hubに登録できるソーシャルサービスについても気になるところだ。現在はTwitterとFacebook、Windows Live、そしてLinkedInに連携しているものの、その他のソーシャルサービスには対応していない。位置情報についてはFacebookのみでFoursquareは利用できず、最近急激にユーザーを伸ばしているGoogle+にも非対応。日本ユーザーにとってはmixiやGREEといった国産SNSの対応も気になるところだろう。ソーシャル性を重視したスマートフォンだけに、これら他のソーシャルサービスへどのように対応していくのかも今後注目したいところだ。
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