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ついに来た? 「真のIPv4アドレス在庫枯渇」移転・売買・返却〜枯渇問題の現状(1/2 ページ)

IANAが管理していたIPv4アドレスの中央在庫、そしてAPNIC/JPNICが管理するIPv4アドレス在庫が枯渇してから1年が経過しました。いま、静かに水面下で進行しつつある枯渇にともなう問題と、IPv4アドレスをめぐる現状を紹介します。

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運用の現場でも始まった「枯渇問題」

 2011年2月、IPv4アドレスの中央在庫であるIANA(Internet Assigned Numbers Authority)の在庫が枯渇しました。その2カ月後の2011年4月には、アジア太平洋地域でIPv4アドレスを管理しているAPNIC(Asia-Pacific Network Information Centre)のIPv4アドレス在庫も枯渇しました。これと同時に、日本におけるIPv4アドレス在庫も枯渇しました。

 APNICのIPv4アドレス在庫枯渇は、そのまま日本におけるIPv4アドレス在庫枯渇も意味します。日本ではJPNIC(Japan Network Information Center)がIPv4アドレス在庫の管理を行っていますが、JPNICはAPNICとIPv4アドレス在庫を共有しているためです。

【関連記事】

日本でもIPv4アドレス在庫が枯渇、分配方法は新ルールへ(@ITNews)

http://www.atmarkit.co.jp/news/201104/15/ipv4.html


 IPv4アドレス在庫の枯渇が発生してから1年が経過し、インターネット運用の現場では徐々に変化が起こり始めています。ここでは、いま、静かに水面下で進行しつつあるIPv4アドレス在庫枯渇問題の現状を紹介します。

そもそも「IPv4アドレス在庫枯渇」とは何か?

 一般的には、「どうやらIPv4が枯渇したらしい」ぐらいの感覚でいる人々も非常に多いのではないでしょうか。そこでまず最初に、IPv4アドレス在庫枯渇問題とは何かについて、あらためて整理しておきたいと思います。

 IPv4アドレス在庫の枯渇によって生じる問題とは、非常に単純化していってしまうと、「IPv4によるインターネットが、これ以上は拡大できなくなる」ということです。「IPv4アドレスの」「在庫が」「枯渇した」という言葉がそのまま示す通りですね。

 これまでは、新規ユーザー(注1)がインターネットに参加したいと希望したときには、新しいIPv4アドレスを割り当てて対処してきました。IPv4アドレスにまだ在庫があったため、ユーザーが増える分だけ、新たにIPv4アドレス割り当てを行える状態が2011年まで続いていました。

図1
図1 枯渇前は、ユーザー増加にIPv4アドレスを増やすことで対応できた

 しかし、IPv4アドレスの枯渇にともない、新規割り当て用の在庫がなくなってしまいました。前述のとおり、これまでは新規ユーザーが増えるたびに「IPv4インターネット」も拡大できました。しかしIPv4アドレス数の上限に達してしまったこれからは、数に限りがあるIPv4アドレスの範囲内で何とかやり繰りして、新規ユーザーに対処しなければならなくなります。

 これは、限られた空間の中にドンドン新しいユーザーを詰め込むようなものです。ユーザーが増えれば増えるほど、1人当たり保有できるIPv4アドレス数が減るという状態です。

図2
図2 枯渇後は、これ以上IPv4アドレスを増やすことができないため、既存のアドレスに詰め込むことになる

 ただし、IPv4アドレスは一度使ってしまうと消えてしまうような性質のものではありません。ですから、IPv4アドレス在庫が枯渇したからといって、すでにインターネットを使っている人々が、ある日突然影響を受けるようなことはありません。

 繰り返しになりますが、枯渇問題の本質は「IPv4を使っての成長がしにくくなる」ことです。従って、枯渇問題の影響を大きく受けるのは、「インターネット利用が成長している国」であったり、「インターネットサービス提供数が成長している企業」ということになります。

注1:ここでは、組織やユーザーを含めて「新規ユーザー」と表現しています。実際は、ISPなどが顧客増に合わせてIPv4アドレスの「おかわり」を申請し、割り振られたIPv4アドレスブロックを使って、各ユーザーにIPv4アドレスを割り振っていました。


JPNICのアドレス割り振り「1年ルール」

 日本におけるIPv4アドレス在庫が枯渇してから1年が経過したわけですが、この「1年」という時間には、実は大きな意味があります。

 JPNICにおけるIPv4アドレス在庫枯渇前の割り振りポリシーでは、「IPv4アドレス割り振りが必要な事業者は、1年分を申請する」という、通称「1年ルール」に従って申請を行っていました。

 JPNIC申請時の計画通りにIPv4アドレスを利用していれば、成長を続けている各事業者では、1年でIPv4アドレス在庫が枯渇するはずです。このため、枯渇から1年が経過した現在、各事業者が保有するIPv4アドレス在庫が枯渇する「本当の枯渇」が自律分散的に発生しつつあることが予想されます。

 IANAのIPv4アドレス中央在庫や、APNICなどのような地域インターネットレジストリでのIPv4アドレス在庫枯渇は可視化されていて分かりやすいのですが、各組織で個別に発生する「本当の枯渇」は、水面下で発生するため非常に分かりにくくなりがちです。しかし「本当の枯渇」は、すでに各所で始まっているものと予想されます。

注目を集め始めた「IPv4アドレス売買」

 新規IPv4アドレスをこれまでのように取得できなくなって注目されつつある方法が、金銭的な対価を伴うIPv4アドレス移転、通称「IPv4アドレス売買」です。

 IPv4アドレス移転の仕組みは、最近まで存在しませんでした。IPv4アドレスが不要になった組織は、割り当て元の組織(日本ならばJPNIC)にIPv4アドレスを返却し、IPv4アドレスが必要になった組織は新規IPv4アドレスを申請すれば済んでいたため、そもそもIPv4アドレスを移転させること自体の必要性があまりなかったという背景もありそうです。

 しかし、新規IPv4アドレスの申請が行えなくなってしまうと、状況はまったく変わってきます。不要となった組織から必要とする組織に対して、IPv4アドレスを「移転」することが大きな意味を持ってくるのです。

 IPv4アドレス移転の仕組みが整えられたのは、IPv4アドレスの闇取り引きを防ぐためでもあります。IPv4アドレス移転が許可されていなければ、どうしてもIPv4アドレスが必要になった組織が闇取り引きに走る可能性があります。しかし、IPv4アドレスの闇取り引きが活発になってしまうと、誰が実際にそのIPv4アドレスを管理しているのかが分からなくなるという問題があります。

 現在のインターネットは基本的に、「誰がどのIPアドレスブロックを持っているか」という観点で管理されています。何か問題が発生したときには、IPアドレスに基づいて問題発生組織を把握し、連絡できる体制がある程度機能しています。

 ところが、IPv4アドレスを統括的に管理している組織を通さない自由なIPv4アドレス取引、あるいはIPv4アドレスの闇取り引きが横行すると、各IPv4アドレスを実際に利用している組織が把握できない状態が多発することになります。微妙なバランスの上に成り立っているインターネットが根底から変わってしまう恐れすらあります。

 そのため、取引全てを禁止するのではなく、いくつかの手続きを経てIPv4アドレスを移転する仕組みが用意されました。日本が参加しているAPNICでは、2010年にIPv4アドレス移転が実装され、組織間でIPv4アドレスを移転できるようになりました。

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