営業vs.開発の対立をなくす、「SE=営業=PM」という理想形:SEの未来を開く、フルスクラッチ開発術(5)(2/2 ページ)
プログラムレス開発が全盛の中、フルスクラッチ開発こそ、顧客のためになり、SEにとっても強みとなると主張する企業がある。彼らはなぜあえて今、このような主張をするのだろうか?
大手SI企業の実態は……
――その点、内藤さんは大手システム・インテグレータ(SIer)の出身です。内藤さんの視点で見た時、プラムザのやり方には違和感を覚えましたか?
内藤氏 いえ、むしろ合理的だなと思いました。営業と開発が一体の方が、コストの面でも有利です。
――コスト? それはどういう意味ですか?
内藤氏 コミュニケーションのコストです。営業と開発が無駄なやりとりをすると、どうしても時間がかかります。それは当然、コストとなる。
島田氏 営業と開発が一体だと、お客さんへのレスポンスが良くなります。お客さんの不満の多くは、「問い合わせへのレスポンスの悪さ」です。伝言ゲームによる誤解も、不満につながります。不満が発生した時への対応もコストとなります。
――なるほど。内藤さんが以前勤めていた会社では、どのような営業のやり方をしていたのですか?
内藤氏 元エンジニアが営業になるケースがほとんどでした。この場合、開発ともうまくコミュニケーションができます。開発の立場もよく知っていますし。入社から営業という人もいますが、どうしても溝ができる。
――私のいた会社でも、2000年ぐらいに仕事が増えた時、外部から営業マンを採用しました。その時、私はベテラン、担当営業は若手という体制だったのでうまくいきましたが、そうでない場合はあつれきがあったようです。
内藤氏 営業の都合は、確かに言われましたね。ただ、そのときはそれが普通だと思っていました。
――内藤さんは、営業との間の苦労が少なかったようです。
私は一時期、別の事業部のパッケージに強い営業と組んで、案件開拓をしていたことがありました。パッケージと言っても彼が担当していたのは、アプリケーションのエンジン部分に該当するもので、私たちの開発部隊が周辺開発をしていたのです。彼は営業としての馬力はすごくあったのですが、売るときにお客さんに夢を見せ過ぎる嫌いがありました。きちっと調べず、お客さんに「できる」と言ってしまうんですね。
内藤氏 そういう営業担当は、よくいます。
――おかげで仕事はたくさん取れたのですが、そのほとんどすべてが同時にトラブルになってしまって、本当に大変な目にあいました。部下が不信感を募らせて辞めてしまう、といった犠牲もありました。同じ事業部の営業だとそこまでのことはなかったので、営業と開発はできるだけ近い方がいいと思います。営業と開発を同じ人がやる、というプラムザの方針は、私も合理的だと思います。
島田氏 会社の規模という問題もあるのでしょう。私たちの規模だと、この体制が間違いなくベストです。
専任の営業担当を採用したこともあったが……
島田氏 実を言うと、営業専任を2人採用したことがあったのです。しかし、うまくいきませんでした。
――どういう問題があったのですか?
島田氏 人柄は良かったし、フットワークも軽く、営業としての能力は高かったので、アポを取るのはとても上手でした。しかし、技術的なことが分からないので、具体的な提案ができない。結果として、案件が取れませんでした。
内藤氏 私たちの会社にブランド力があったり、パッケージのような具体的な商品があったら、また別の結果になったかもしれません。しかし、私たちの売りものは“人”なので難しかったようです。
――私たちもそうだったので、パッケージまではいかなくても、サービスメニュー的に見せかけて営業したことがありました。
島田氏 実は私たちも、同じことをやりました。業界向けソリューションという触れ込みで、パンフレット化して営業が売りやすいように工夫したのですが、うまくいきませんでした。結局「なんちゃって」特化なので、本当に特化している競合には歯が立ちませんでしたね。
――そのあたりがフルスクラッチ開発の営業にとって、つらいところですよね。
内藤氏 先ほどの2人を「営業のプロ」としてみると、確かに人当たりなどの面で、私たちはまったく敵いません。その点はすごい、と思いました。しかし、技術が分からないと、どうしても受け身の営業にならざるを得ません。
技術力を武器にして「こんなこともできる」「そんなことは簡単です」というようにぐいぐい押せればよかったのですが、営業の立場からすれば、あまり無責任なことは言えなかったのでしょう。かといって、ぐいぐい押したのでは、後々にトラブルになってしまう。
自分たちのすごさは、自分たちでしか伝えられない
内藤氏 結局、プラムザに所属する“人”の価値を売っているので、その商品価値は直接お会いしないと伝わらないのです。お客さんとやりとりしているうちに、お客さんが「こいつ、すごいな」と思ってくれない限り、私たちが採用されることはない。営業専門の人に、私たちのすごさは伝えられない。
――何だか、コンサルタントの売り方と似ているように思います。
島田氏 どういうことですか?
――コンサルタント・ファームにも営業はいますが、彼らはマーケティングとパートナー企業とのコネクション作りに特化しています。パートナー企業はシステム開発はできるが、コンサルティングには消極的な会社が多い。Webサイトやパートナーから問い合わせが入ると、最適なコンサルタントをマッチングして、最初から客先に同行する。その際に、営業もコンサルタントも、自分からは売り込みをしない。お客さんとやりとりをしているうちに、お客さんの方が「彼はすごい、ぜひお願いしたい」となったら契約が決まる。そういう売り方です。
島田氏 職種は違いますが、そっくりですね。実はプラムザも、新規案件は「Webのデザインはできるが、システム開発はできない」という会社から相談されることがほとんどなのです。
内藤氏 ということは、今のプラムザの営業方針は、フルスクラッチ開発にはベストだということになりますか?
――私はベストだと思います。
ということで、今回のまとめに入ります。
フルスクラッチのシステム開発企業では、以下のようなやり方がベスト、ということのようです(図2)。
まず、既存顧客に対しては、エンジニアが営業をする。
また、新規案件に関しては、マーケティングやパートナーとのコネクション作りに特化した営業が、問い合わせ内容とエンジニアとのマッチングを行い、SEを最初から客先に連れていく。
フルスクラッチ開発においては、結局は「人間」が商品価値を生み出すので、このやり方ではじめて「商品価値」がお客さんに伝わる、ということです。
島田氏 そのようですね。自信が深まりました。営業的な課題としては、どうやって問い合わせを増やすかということですが、Webマーケティングやパートナー向けの紹介用ツールの充実などから、考えていこうと思います。
次回予告
次回は、最終回として、プラムザの考える「エンジニアのキャリアパス」について話を聞き、全体をまとめる。
筆者紹介
森川 滋之
1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。TISに17年半勤務した後、システム営業 を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモー ションのための文章を執筆。
著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。誠Biz.IDに「奇跡の無名人」シリーズを連載中。
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