カスタム対応外の特殊なシステムは、業務知識の宝庫SEの未来を開く、フルスクラッチ開発術(4)(1/2 ページ)

プログラムレス開発が全盛の中、フルスクラッチ開発こそ、顧客のためになり、SEにとっても強みとなると主張する企業がある。彼らはなぜあえて今、このような主張をするのだろうか?

» 2012年06月13日 00時00分 公開
[森川滋之ITブレークスルー]

 プログラムレス開発と「持たないシステム」が主流となりつつある今、「フルスクラッチは今でも取り得る1つの有効な選択肢」となり得るのか?

 前回は、フルスクラッチ開発はエンジニアにとって大変かどうかについて、プラムザの代表取締役 島田徹氏、取締役 内藤洋史氏と議論し、「フルスクラッチ開発はむしろストレスレス」という結論に至った。

 今回のテーマは、「フルスクラッチ開発で、エンジニアの世界は広がるか」

 2人によれば、フルスクラッチ開発で、「幅広く深い技術力が身に付く」「業務知識が蓄積できる」という。

幅広く深い技術力と、業務知識が蓄積できる

――前回のおさらいから始めます。前回は「フルスクラッチ開発の方がストレスが少ない」という結論でした。その理由は4つ。

 1つは、納期とスケジュールの制約条件の中で精いっぱいの提案ができること。

 2つ目は、お客さんと一緒に、統一された世界観のシステムを作れること。

 3つ目は、周辺開発ができること。

 最後は、ちょっとした相談ごとに乗れること。

 どれも顧客満足につながるため、結果としてエンジニアはストレスを感じないということでしたね。

図1 フルスクラッチ開発がストレスレスな理由 図1 フルスクラッチ開発がストレスレスな理由

島田氏 そうです。

――お客さんに喜ばれるという外向きの理由もあるとはいえ、「ストレスレスだからいい」というだけだと、やや消極的かもしれません。積極的な意味で、エンジニアにとってのメリットはあるでしょうか。

島田徹氏 島田徹氏

島田氏 フルスクラッチ開発は「エンジニアの市場価値を高め、世界を広げる」というが私の持論なんですよ。その理由は、大きく2つあります。1つは、「幅広く深い技術力が身に付く」ということ。もう1つは、「業務知識が蓄積できる」ということです。

――なるほど。それでは、順に伺います。まずは幅広く深い技術力が身に付くという話です。プラムザではLAMPベースで開発しています(参考:第1回「システムを持たぬ時代に、あえてフルスクラッチに特化する」)。後は、アプリケーション・フレームワークは活用しているとのこと。これが「幅広く深い技術力」とどう関係するのでしょうか。

島田氏 これは批判ではなく、私個人が経営上のリスクと感じていること、つまり私の個人的な意見だと受け取ってください。例えば、中小のソフトハウスにおける就職や、転職希望者のスキルシートに載せる項目では、今なら「WordPressでのカスタマイズ経験」が旬でなわけです。

――つい数年前までは、Movable Type(MT)だった。

島田氏 まあ、MTが死んだわけではありませんが、このように旬の技術は絶えず変化します。WordPressやMTを使えるエンジニアには、優秀な人が多くいるでしょう。これらを駆使してお客さんのニーズに応えるには、高い能力が必要です。ただ、高い能力が必要なわりに、数年で価値が下がる、というキャリアとしてのリスクがあります。

内藤氏 一方、PHPは息の長い技術です。PHPが世に出た1995年からすでに17年、PHP4からも12年が経過していますが、いまだに広く使われ続けています。そのため、長く評価される技術、といえます。

――そんなに経ちますか。早いものですね。

内藤洋史氏 内藤洋史氏

息の長い技術を身に付けておきたい

内藤氏 私の知り合いで、「WordPressが使いこなせるが、そのせいで残業が多い」という人がいます。彼が勤める会社は、OSツールがメインではなく、何にでも手を出しています。今は、WordPress関連の受注が多いのですが、彼にしかできないので、仕事が集中してしまうのです。なぜ、それほどスキルを持つ人間が少ないのか。さまざまな理由があるでしょうが、会社から求められない限り、つまりある程度は自分で選択できる場合、旬が短いと思われる技術にエンジニアはあまり手を出したがらない、という見方ができると思います。

――旬のツールは、キャリア形成においてリスキーである。そのため、旬の技術に特化しようとするエンジニアは少ない、ということでしょうか。

内藤氏 そうですね。次々と新しい技術やツールを究めることが好きなエンジニアもいるでしょう。それも1つの方向性です。ただ、「できるだけ長く使える技術を身に付けたい」と考えるエンジニアの方が多いように見えます。

――私もそうだったので、その意見には共感します。前回の繰り返しになるかもしれませんが、技術的な面でエンジニアが旬のツールを選択したくない理由はあるでしょうか。

内藤氏 OSツールの場合、お客さんの要望が実現できるかどうかを調べるところで苦しんでいるのではないかと思います。実現のために無理をすると、今まできちっと動作していた個所にまで影響が出ることがあります。1つうまくいくと別の問題が発生し、なぜそうなるのかを調べる。この繰り返しになりがちなのです。

――確かにツールを使った開発では、そういう面はあります。それでせっかくノウハウを得ても、バージョンアップでそのノウハウが無駄になることもありましたね。

内藤氏 その点LAMPでのフルスクラッチであれば、どうやって実現するかという工夫の部分で苦しむわけです。ただ、その苦しみは達成感につながるし、最終的には長いスパンで使えるノウハウとなります。

――私自身、アセンブラやCでの開発をしてきたので、LAMPはとっつきやすいです。私が持っているノウハウが活用できるように感じているのです。おそらく、このようなことを内藤さんは言っているのだと思います。実は最近、WordPressで簡単なWebサイトを作ってみたのですが、やりたいことを完全に実現するには、かなり違うノウハウが必要になると感じました。

内藤氏 森川さんの実感は、たぶん当たっていると思いますよ。

島田氏 「今はMTやWordPressをやっているが、フルスクラッチをやりたい」というエンジニアを私たちは歓迎しますが、2人の応募者のうち他の条件が同じなら、PHP経験を持つエンジニアを採用することになると思います。

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