プログラムレス開発が全盛の中、フルスクラッチ開発こそ、顧客のためになり、SEにとっても強みとなると主張する企業がある。彼らはなぜあえて今、このような主張をするのだろうか?
プログラムレス開発と「持たないシステム」が主流となりつつある今、「フルスクラッチは今でも取り得る1つの有効な選択肢」となり得るのか?
前回までに、以下のことを議論してきた。
今回は最終回として「エンジニアのキャリアパス」を議論し、まとめに入る。
――前回のおさらいをします。
既存顧客に対しては、エンジニアが営業をする。新規案件に関しては、コンタクトに特化した営業が、問い合わせ内容とエンジニアとのマッチングを行い、エンジニアを最初から客先に連れていく。また、「SE=営業=PM」という「三位一体」であることが、フルスクラッチ開発においては不可欠である。
こういうお話でした。
島田氏 基本的に正しいのですが、前回の記事だけだと、誤解を招くかもしれません。というのは、この連載を読んだ人が、何人か求人に応募してくれたんです。
――ほう。フルスクラッチ開発に魅力を感じるエンジニアがいる、ということだと思いますが?
島田氏 はい。それはいいのですが、面接で「やはりSEも営業をやらないといけないのでしょうか」と不安そうに聞く人がいたのです。
――「営業」という言葉に抵抗があるということですね。どう答えたのですか。
島田氏 営業といっても、飛び込みで商品やサービスを売り込むような営業はしていない。新規顧客とのコンタクトの部分はアウトソーシングしているし、あるいはパートナーのWebデザイン会社からの紹介をもらうことも多い。SEの仕事は、問い合わせがあった先か既存のお客様に対して、提案営業することだ。このように説明したら、「それはやりがいがありますね」と安心した顔になりました。
――なるほど。確かに前回の説明だけでは、誤解があったかもしれません。
さて、本題に入りたいと思います。今回は、ITエンジニアのキャリアパスについておうかがいしたいと思います。
これはなかなか難しい問題で、昔は「プログラマ→SE→PM→部門長(経営中枢)、あるいはITコンサルタント……という大ざっぱな流れがありました。ところが、システム開発というのは、横断的な人材を必要とする仕事で、それでは大ざっぱすぎるだろうということになり、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)を中心に、「ITSS」(ITスキル標準)ができました。
これは、確かに詳細ですが、私がいくつかの大手SIerで聞いた限りでは、「細かすぎて使いこなせていない」というのが実態のようです。中小企業では、ITSSの存在さえよく知らない、あるいは限定的な知識しかないようです。
島田氏 そうですね。私たちもITSSはあまり意識していません。たくさんの職種があることが分かって便利だなとか、言葉の定義があってありがたいなぐらいの感想です。
――プラムザの場合、SEと営業とPMが三位一体で、その先は望むなら独立を支援するというようなスタンスです。そのため、SE→PM→経営中枢・コンサルタントといったパスはもともとないわけですが、それでもプログラマ→SEというようなキャリアパスはあるのでしょうか?
島田氏 そのパスは、「プログラマよりSEの方が優秀、あるいは格上」という価値観に基づいていませんか。
――言われてみれば、その通りです。
島田氏 プラムザでは、プログラマ(実装担当)とSE(設計・営業・PM担当)は、完全に職種の違いです。もちろん、責任範囲に応じて給与は違いますが、どちらの職種につきたいかは、社員の選択に任せています。
実は、以前は「プログラマ→SE→PM」というキャリアパスを考えていました。プログラマからSEに“昇格したら”喜んでもらえると考えていたのです。しかし、実際はそんなことはなく、「一生プログラマがいい」という人もかなりの割合でいるということが分かり、考えを改めました。
私は、自分自身が独立して起業したものですから、人材の流動性はあった方がいいと思っています。もちろん、「会社が大好きで一生ここで働きたい」という人には応えたいと思いますが、それを前提にはしていません。なので、プログラマは転職に有利、SEは独立が可能、それぞれそういう職種だと考えています。
――世間でいう代表的な「キャリアパス」とは少し異なる考え方ですね。
島田氏 キャリアパスといえばキャリアパスだと思うんですけどね。要するに、プラムザを経由して、プログラマはより良い転職先を見つけてもらってもいいし、SEは事業を興してもらっていいという考え方ですから。
――確かに個人としてのキャリアパスを考えれば、そうかもしれません。
島田氏 「職種が変わっていくのがキャリアパス」という考え方は、一面的だと思うのです。それは単に、職種に格付けしているだけのことでしょう。そうではなくて、同じ職種でもその中で成長の道があるはずなんです。
第4回「カスタム対応外の特殊なシステムは、業務知識の宝庫」で、フルスクラッチは仕事の範囲が広がるという議論をしました。
1人1人の仕事の範囲が広がり、エンジニアとしての市場価値が上がっていくことが、本当のキャリアパスではないでしょうか。「ジュニア・プログラマ→シニア・プログラマ→SE→PM→コンサル」などと、出世魚のように名前が変わるのがキャリアパスではないはずです。
――なるほど。「成長こそキャリアパス」ということですね。では、成長を測る指標は何なのでしょうか?
内藤氏 数値的な指標となると難しいというか、かなりの項目が必要になると思います。具体的な議論を始めると大変ですが、考え方だけならあっさり述べられます。結局、お客様が決めるということです。
プラムザは、「すごいをうれしいに」というスローガンを掲げています。私たちが「すごい」ものを提供して初めて、お客様も「うれしい」と言ってくれる、という意味です。いくら技術力があっても、お客様が「うれしい」と言ってくれない限り、その技術には意味がない。しかし、お客様に「うれしい」と言ってもらうためには「すごい」技術力が必要だ。とすれば、成長すれば、「お客様が『うれしい』と言ってくれる率が高まる」ということになります。
島田氏 プラムザがフルスクラッチにこだわるのも、実はそれがあるからなんです。フルスクラッチにこだわることで、「すごい! うれしい!」と言ってくれる率が高まると思っているんです。
――そのような「すごい」エンジニアを育成するための方法論はあるのですか。
内藤氏 正直なことを言えば、どうやったら人が育つのか、どういう育て方がいいのかというのは分からないんです。
ただ、プラムザにいて「気持ちいい」と思う人は、必ず伸びるはずだと思っています。私たちは中途採用が大半ですが、面接の段階で、伸びる人とそうでない人は見分けることができると思っています。
島田氏 プラムザに向いている人はいると思うんです。自分にとって面白いことをやりながら成長できるのがいいという志向の人です。私たちはそういう人を採用しているつもりだし、そういう人は実際に自然に成長しています。
そもそも、プラムザの求人に応募してくるだけでも、かなり向いていると思っています。いまどき大きな会社だから安定していると思う人は少ないでしょうが、小さな会社ならなおさら安定していないだろうと思う人は多いはずです。プラムザの門をたたくということは、会社の安定よりも個人としての安定を求めている、ということだと思っています。
内藤氏 「会社の安定よりも個人としての安定を求めよ」は、日本中のエンジニアに送りたいメッセージですね。本気でそう考えている人にはプラムザは応えられる職場だと思います。
――なんだか会社というより“道場”という感じですね。
――6回にわたって、フルスクラッチは“いまどきあり”なのかどうかを議論してきました。今回の議論を含めて、1つの表にまとめてみました。
島田氏 このように明確に言語化されると、われながらすごいことをしているのだなと、あらためて自信が湧いてきました。
――そもそも私自身が約10年前に、フルスクラッチの開発チームを率いて失敗した経験がありました。それなのに今でもフルスクラッチにこだわる会社があると聞いたのが、この取材をはじめた動機でした。ですので「すごいこと」をしていてくれていないと、私自身がみじめになります(笑)。
実際、なかなか他社でできないことに取り組んでいると思います。“プラムザ道場”から、日本の中小企業のビジネスを支える人材が輩出されることを期待します。
森川 滋之
1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。TISに17年半勤務した後、システム営業 を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモー ションのための文章を執筆。
著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。誠Biz.IDに「奇跡の無名人」シリーズを連載中。
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