Linux資格認定試験LPICは、定番の人気を誇るIT資格の1つである。@IT自分戦略研究所の読者調査では例年「ニュートラルベンダ資格」の上位に入っている。
近々、LPIC レベル1試験、レベル2試験の出題範囲が改訂される予定だという。 試験開発の総合責任者であるLPI(Linux Professional Institute)のマシュー・ライス(Matthew Rice)氏と、LPI-Japan理事長 成井弦氏に、LPICの今後、LPIのグローバルレベルでの今後の展開について、話を聞いた。
LPIC試験範囲が2012年10月に変更予定
──資格試験LPICが改訂されるそうですね。
ライス:はい、LPICレベル1(101試験、102試験)とレベル2(201試験)出題範囲の改訂を予定しています。具体的な変更としては、GRUB、ext4、Systemd/Upstart、IPv6、LVMなどが挙げられます。変更は、2012年10月1日を予定しています。変更点は、下記のとおりです。
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――なぜ今回、このように変更したのでしょうか。
ライス Linuxや関連のオープンソースソフトウェア(OSS)は、日々、改善されています。個々の機能変化はもちろん、以前は主流だったのに今日ではほとんど利用されなくなった技術や、新しく導入されて広く利用されるようになった技術が数多くあります。そのため、LPIC認定試験の出題範囲は、定期的に見直しを行なっています。
今回の改訂では、現在ではほとんど利用されなくなったLILOをLPIC-1の範囲から削除し、その代わりに主流となっているGRUB2を追加しました。
その他に、LVM、IPv6、3.xカーネル、暗号化ファイルシステムなどが、今回のLPIC-1と2の改訂で追加された主な項目です。いずれも比較的新しい技術ですが、現在では広く使われている技術で、サーバ管理者が必ず習得すべき技術でしょう。
貢献への評価をフィードバックする
──LPIC試験の開発は、OSSのコミュニティのやり方と似ているそうですね。
成井 LPICの試験問題は、ボランティアの貢献によって作成しています。会社のような指揮命令系統で動いているわけではありません。
その場合、気をつけなといけないのは、ボランティア活動に熱心な特定の人に依存すると、いつかバーンアウト(燃え尽き)してしまうということです。これはNPOの運営では、特に注意しなければいけません。
──そうしたオープンな団体のマネジメントする方法はあるのでしょうか。
成井 マネジメントする側と貢献してくれる側の、対等な関係が大事です。「コントロールする」という考え方ではうまくいきません。そして、特定の個人に依存すると、その人が何かしらのきっかけで貢献をやめた時に立ちいかなくなるので、複数の人に仕事を振りふるのも条件です。その点、ライスさんは際立った能力を発揮しています。
ライス そして、何よりも重要なのは、「金銭的な対価とは違うやり方で評価をフィードバックする」ことでしょう。これはrecognition(認知)と呼んでいます。例えば、ブラジルで貢献してくれた人が高い評価を得て、今はオランダで仕事を得て働いています。バッチを送れば、Linuxの中にエンジニアの名前が残ります。こういった事例をもっと増やしていきたいと思っています。
良いプログラムを作り、それがLinuxの一部に入れば、一挙に世界中に広まって、開発者の名前のrecognition(認知)につながるわけです。
日本人エンジニアからのフィードバックは群を抜いている
――世界中のエンジニアと関わるライスさんから見て、日本人エンジニアはどのように見えていますか。世界中にいるエンジニアたちと比べて、日本人エンジニアならではの特徴などがあったら教えてください。
ライス:「日本人エンジニアはものすごく勉強する」と思っています。全体的に、自他に求めるスキルの基準が高いからではないでしょうか。「勉強しないと一流のエンジニアにはなれない」という考え方が浸透しているのだと考えています。
私たちは、LPIC受験者からのフィードバックを受け付けていますが、日本人からのフィードバックは他の国のエンジニアと比べて、かなり詳細で量も段違いなのが特徴です。
――なるほど。それでは、それらの強みを生かして、日本人エンジニアが海外で活躍するためには、何が必要だとお考えですか。
ライス 国際的に活躍する上で、英語力はどうしても必要です。この点は日本人エンジニアはやはり奥手で、あまり出てこない印象があります。
成井 1つ付け加えると、日本人エンジニアはもっと「能動性」を持ってほしいと思っています。海外に出て行く場合は、技術もさることながら、能動性が鍵になります。私たちLPIは、さまざまな活動を通じて「OSSの世界では能動性が大事」という考え方を広めていきたいのです。
──能動的な活動、とは具体的にどのようなことでしょうか?
成井 例えば、「OSSへの貢献」が挙げられるでしょう。さらに具体的な活動でいうなら、プログラマであれば、OSSの機能が弱いところを強化したり、バグ取りに協力することなどでしょうか。技術的なフィードバックは難しいという人がいますが、プログラム開発以外の分野でも貢献は可能です。日本語ドキュメントの作成、翻訳、イベント運営など、貢献する方法はいくらでもあります。
もう1つ勧めたいのは、ユーザーグループへの参加です。東京には、TLUG(Tokyo Linux Users Group)があります。
これらのOSSコミュニティへの貢献は、「能動性を高める」のみならず、エンジニア自身の価値を高めることに直結します。こうしたOSS的な考え方を、日本の企業やエンジニアに深く浸透させていきたいということが私たちの願いです。
国連とLPIの関係が緊密に
──グローバルに活躍するエンジニアのお話が出てきたので、世界のトレンドについて教えてください。グローバル規模では、LPIでは最近どのような動きが起きていますか。
ライス 最近の主な動きとして、国連とのプロジェクトが進んでいます。
8〜9年ほど前、国連のWSIS(World Summit of the Information Society、世界情報社会サミット、デジタルデバイド解消などを目的とした一連の会合)に、FSF(Free Software Foundation)と私たちLPIが招聘されました。その時からしばらく音沙汰がなかったのですが、ここ2年ほどで各国の政府機関など多くの方面がLinuxに関心を持つようになっています。例えば、スペイン政府とのプロジェクトでは300人の中学生にLinuxを教えました。中国政府やアフリカの政府も関心を寄せています。
――10年近く前の話が、なぜ“今”、動き始めているのでしょうか?
ライス 推測ですが、OSS(オープンソースソフトウェア)の発想は、IT業界以外ではあまりなじみのない考え方なので、受容までに時間がかかったのではないでしょうか。国連機関や各国政府がようやく、OSSの価値を認めるようになってきたのだと、ポジティブに受け止めています。
オープンソースで、日本の技術を底上げする
──最後に、LPI Japanの今後の方向性を教えてください。
成井 LPI Japanの方向性としては、3つあります。
まず、日本の技術者や企業の技術力を高めたい。
2番目に、日本の技術者がオープンソースコミュニティの「貢献」の競争に勝てるようにしたい。
最後は、日本の経営者がOSSを理解して競争力を付けてほしい。
最後が一番難しいですね。経営者は過去のビジネスモデルで成功した人がなるわけですから、いわゆる「トップダウン」マネジメントで成功した人に、新しいビジネスモデルを理解してもらうには、相当の苦労が必要になるでしょう。
ライス LPI全体のミッションはオープンソースのサポートです。国連機関との協力を含めて、さらに展開を進めていくつもりです。
筆者紹介
星暁雄(ほしあきお)
Tジャーナリスト。1986年から2006年まで日経BP社に勤務。1997年から2002年までオンラインメディア『日経Javaレビュー』編集長を務める。
イノベーティブなソフトウェア分野全般に関心を持つ。今はAndroidが特に興味深い分野だと感じている。
もう1つの関心事は、ITの時代のメディアのアーキテクチャ。2008年、次世代メディアの探求の1つとして、ソーシャルアノテーションサービス『コモンズ・マーカー』を公開。
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