日本IBMは「オープンクラウド」をどう進めようとしているか:部品でアプリケーションをつくる世界へ
日本IBMは2月7日、「オープンクラウド」の推進を中核とした事業戦略を発表し、部品でアプリケーションを構築できる世界がほぼ実現していることを、デモで説明した。
日本IBMは2月7日、国内におけるクラウド事業の戦略を説明、このなかでスマーター・クラウド事業統括担当 執行役員の小池浩幸氏は、「今年は国内で徹底的にオープンクラウドを推進していく」と話した。IBMが「オープンクラウド」という言葉を使うのは初めてではない。だが、SoftLayerが同社のパブリッククラウドサービスとして明確に位置付けられるなど、関連製品・サービスが安定的に提供できる環境が整いつつあることで、このキャッチフレーズを自社の収益に結び付ける事業活動を本格化するチャンスが来たと考えているようだ。
日本IBMでは、SoftLayer専任の営業部隊を新設するなど、クラウド専任社員を1.5倍に増やすという。また、クラウドでは技術知識が重要とし、クラウドエキスパートを500人規模に増強する。ただし、同社は突然クラウドサービス(パブリッククラウド)に力点をシフトするわけではない。もともと同社のいう「オープンクラウド」はクラウドサービス間だけでなく、パブリッククラウドとプライベートクラウドの間でアーキテクチャやツールをそろえ、アプリケーションやワークロードを容易に行き来、あるいは柔軟に連携できるようにすることを目的に含んでいる。
実際に日本IBMは同日、プライベートクラウド構築サービスの拡充を発表した。今回の拡充では、蓄積されたノウハウに基づくプライベートIaaS/PaaSの導入の迅速化、プライベートクラウドの検討段階をサポートするサービスの強化がなされた。また、日本IBMが運用管理やバックアップを代行するマネージド・サービスを、2014年上期中に拡充していくという。2014年下期にはSoftLayerとの間での相互移行機能を強化。本格的にハイブリッドクラウドを構築できるようにするという。IBMの推進するプライベートクラウドは、OpenStackをベースとしてPaaSまでを提供するソフトウェア、「SmarterCloud Orchestrator」を核としている。
SmarterCloud OrchestratorがベースとしているOpenStackは、IBMが自社でハードニングや機能追加を行ったソフトウェア。この「IBM版OpanStackディストリビューション」は、単体としての製品化はなされていない。スマーター・クラウド事業統括 理事 クラウドマイスターの紫関昭光氏によると、「あと3カ月程度」で、単体製品として発表するという。
では、ビジネスのやりかたとして、例えば「クラウドファースト」という言葉で一部の人々が連想するように、可能な限りパブリッククラウドを提案し、結果としてハイブリッドクラウドの構築につながるような営業的アプローチはとらないのか。これについて小池氏は、顧客のニーズ次第と答えた。スピードを求めるアプリケーションはパブリッククラウド、信頼性を重視するものについてはプライベートクラウドという分け方だ。ただし、ユーザー企業の間では、既存アプリケーションなどでも、クラウドサービスを積極的に使いたいという声が高まっていると答えた。
SoftLayer/CloudFoundry上のPaaS環境は6 月に正式提供へ
すでに日本IBMが何度か説明していように、同社はIaaSレイヤではOpenStack、PaaSレイヤではCloud Foundryを採用。こうしたオープンソース技術にOASIS/TOSCAの関連標準を加え、複数レイヤでのオープンさを確保しようとしている。そのうえで、部品を組み合わせる形で迅速なアプリケーション開発環境を実現しようとしている。
CloudFoundryをベースとし、SoftLayer上でGUIを活用して部品を組み合わせるようにして迅速にアプリケーションを構築できる環境を提供するのが「IBM BlueMix」。現在ベータ版を提供しており、6月には正式提供開始の予定という。部品としては、アプリケーションコンポーネントおよびサービスが使える。IBMでは部品のマーケットプレイスを提供。紫関氏によると、IBMも例えばWatsonをこうした部品の1つとして提供すれば、付加価値の高いビジネスが提供できるという。
IBMでは、プライベートクラウド上に導入できるBlueMixの提供も計画しているという。
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