正式サービス開始のAzure RemoteApp、フル日本語環境のための“勘所”:Microsoft Azure最新機能フォローアップ(4)(5/5 ページ)
「Microsoft Azure RemoteApp」が、2014年12月12日に正式版となりました。Azure RemoteAppは、クラウドからWindowsアプリケーションをさまざまなプラットフォームに対して提供するサービスです。本記事は、Azure RemoteAppのサービス内容やテクノロジ、日本語環境への対応に関する試用レポートです。
RemoteAppコレクションのパッチ管理について
標準のテンプレートイメージ(Microsoftイメージ)から作成したRemoteAppコレクションは、OSやアプリケーションのパッチ管理といったメンテナンス作業は不要です。これは筆者の想像ですが、定期的にインスタンスの再作成が行われ、最新のOSおよびアプリケーション環境に更新されるはずです。標準のテンプレートイメージマルウェア対策ソフトであるSystem Center 2012 Endpoint Protectionの定義ファイルや緊急のセキュリティパッチなど、短期的な更新にはWindows Updateが利用されているかもしれません。
Azure RemoteAppは、99.9%の月間可用性が保証されているため、更新中にRemoteAppコレクションにアクセスできなくなるということはありません。冗長化のため、一つのRemoteAppコレクションは規模の小さい利用(最小20ユーザーから)であっても複数のインスタンスで実行されているはずです。
カスタムテンプレートイメージから作成したRemoteAppコレクションは、利用者側がイメージの更新管理を行う必要があります。その方法は、更新済みイメージを含むVHDをアップロードして、RemoteAppコレクションのイメージを入れ替える形になります(画面22)。このような更新方法となっているため、カスタムテンプレートイメージにインストールするアプリケーションは、アプリケーション自身が提供する更新機能をオフにしておくことが推奨されています。
Azure RemoteAppは、管理者権限によるフルデスクトップアクセスの手段を提供しません。フルデスクトップアクセスが可能であれば、メンテナンス作業をリモートで行えるので便利と思うかもしれません。しかし、考えてみてください。Azure RemoteAppはBASICで最大400ユーザー、STANDARDで最大250ユーザーをサポートし、ユーザー数に応じてそのスケールは動的に増減します。仮にフルデスクトップアクセスできたとしても、多数のRDセッションホスト全てのメンテナンス作業を同じように行うのは大変であり、現実的な方法ではありません。
RemoteAppを導入する前に日本語入力環境の検証を!
日本語環境でAzure RemoteAppを利用する際には、日本語環境特有の課題があることに注意が必要です。これはAzure RemoteAppだけの課題というわけではなく、企業内で展開するRDSのRemoteAppプログラムでも従来からある共通の課題です。その課題とは、「Microsoft IME」の日本語入力環境に関連することです。おそらく、日本語と同じようにIMEを使用する中国語や韓国語環境でも同様の課題があるでしょう。
RemoteAppのテクノロジは、アプリケーションウィンドウに対する接続であるため、クライアントのローカルとリモートのサーバーのどちらの日本語入力環境を使用しているのか分かりにくいという問題もあります。RemoteAppプログラム内での日本語入力には、標準でリモートのRDセッションホストのMicrosoft IMEが使用されますが、アプリケーションがローカルのデスクトップに統合されているため、ユーザーは少なからず混乱するはずです。Microsoft IME以外のIMEを利用している場合でも、同じ問題が発生するはずです。
クライアント側のWindowsのバージョンやプラットフォームによって、入力の操作性にも違いがあります。例えば、Androidの場合はリモートのMicrosoft IMEとローカルの入力システム(Google日本語入力など)のどちらでも入力が可能でした。Windows 8/8.1の場合は、RemoteAppとMicrosoft IMEの統合が進み、ローカルとリモートのMicrosoft IMEの区別が付かなくなってしまっています。筆者の個人的な感想としては、RemoteAppとMicrosoft IMEの統合は、日本語入力環境を分かりにくく、使いにくくしている気がします。
少しでも使いやすくするための筆者のお勧めは、「Microsoft IMEの設定」(IMJPSET.EXE)と「Microsoft IMEユーザー登録辞書ツール」(IMJPDCT.EXE)をAzure RemoteAppで発行しておくことです。具体的なパスは以下の通りです(画面23)。
- %Windir%\System32\IME\IMEJP\IMJPSET.EXE
- %Windir%\System32\IME\IMEJP\IMJPDCT.EXE
画面23 RemoteAppプログラムの日本語入力にはリモートのIMEが使用されるため、ローカルの学習結果や辞書登録は利用できない。Windows 8/8.1の場合、IMEのUIからリモートのIMEの設定を開くことができないため、辞書ツール(IMJPDCT.EXE)をRemoteAppで公開しておくとよい
これにより、RDセッションホスト側のMicrosoft IMEの設定やユーザー辞書の登録、辞書登録を編集することができます。設定や辞書は、ユーザープロファイルに保存されるため、イメージの更新で失われることはありません。
Azure RemoteAppやRDSのRemoteAppの導入を検討する場合は、日本語入力環境について特に時間をかけて検証することをお勧めします。変換モードの違いやキー設定、変換の学習、利用可能な辞書、ユーザー辞書の登録、外字、ローカルプリンターへの印刷印字結果など、RemoteAppによる影響は多岐にわたる可能性があります。多言語環境をサポートする必要がある場合は、さらに検証項目が増えるでしょう。
【重要】料金は1ユーザー月額1020円から、ただし利用は最小20ユーザーから
Azure RemoteAppを利用すると、ハードウェア投資や複雑な管理作業をすることなく、RemoteAppプログラムの提供環境をクラウド上に簡単に準備できます。自前で企業内またはクラウド上のRDSのインフラを準備する際に必要なRDS CALは必要ありません。また、Azure RemoteAppのコレクションは、ユーザー数に合わせて自動的に規模が拡大または縮小し、急激なユーザー数の増減にも柔軟に対応でき、規模に関係なくパッチ管理が簡素化されます。
Azure RemoteAppの利用料金は、Azure RemoteAppで公開されたアプリケーションを利用するユーザー数と使用時間に基づいて月額課金されます。まず、40時間までの使用を含む開始価格があり、それを超えての使用に対しては時間当たりで従量課金されますが、月当たりの上限価格(80時間分に相当する価格)を超える請求はありません。いわば、二段階定額方式です。開始価格、時間当たり単価、および上限価格は、BASICとSTANDARDのスケールプランで決まります(画面24)。
- 料金詳細 - RemoteApp(Microsoft Azure)
課金に対しては、一つ重要な注意点があります。それは、Azure RemoteAppのユーザーの最小要件が、一つのRemoteAppコレクション当たり、最小20ユーザーであるということです。20ユーザー未満でも利用することは可能ですが、その場合、課金対象は20人分になります(画面25)。
たとえ1ユーザーだけが数時間利用しただけの場合でも、その月は20ユーザー分の開始価格が課金されます。つまり、Azure RemoteAppは、BASICスケールで月額最小2万400円(1020円×20ユーザー)から、STANDARDスケールで月額最小3万600円(1530円×20ユーザー)からの利用できるサービスということです。なお、RemoteAppコレクションを作成して1カ月以内にコレクションを削除した場合は、利用料金は日割り計算になります。
RemoteAppコレクションを始めて作成した場合、最初の30日間は無料評価版として無料で試用できるため、この期間を利用していろいろと評価してみてください。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Hyper-V(Oct 2008 - Sep 2014)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。マイクロソフト製品、テクノロジを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手がける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.