それは連帯責任ではありません――チームが助け合ってはならないとき:ITエンジニアのチームリーダーシップ実践講座(最終回)(1/2 ページ)
業務で目的を達成するためには、活力あるチームを作り、運営していくことが重要だ。本連載では、ITエンジニアのリーダーシップスキルの向上に役立つツールや考え方を詳しく紹介する。今回は「チーム内での助け合いの是非」について説明する。メンバーの仕事がスムーズに進まなかったり、大きな損失を出してしまったりしたとき、チームはどのようにカバーすべきだろうか?
これまで「チームリーダーシップスキルの向上」をテーマに、会議のファシリテート方法、メンバーへの効果的な指示の出し方、チームの有用性などを、解説してきました。
連載最終回となる今回は「チーム内での助け合いの是非」について説明します。チームには助け合ってはいけないときがあるのですが、それはどういう場合なのでしょうか?
※この連載は、『ITエンジニアのためのチームリーダーシップ実践講座』(上村有子著)の第1章〜第3章を、著者と出版社の許可の下、一部修正して転載するものです。
メンバー同士の仕事の貸し借りは是か非か?
チームで成果を出すには、協力し合うことが欠かせません。ここでいう「協力」は、「助け合い」とは似て非なるものです。
助け合いは、メンバーが相互に、どちらかといえば個人的な貸し借りの範囲で行うものです。もちろん、相手の仕事を手伝ったために、自分の本来の仕事に悪影響が出るような助け合いは、チームに持ち込むべきではありません。
ここに5人のチームがあり、あるシステムを期日までに完成させる予定で、それぞれに仕事が割り当てられていたとします。メンバーの一人、Aさんの作業が何らかの理由で遅れて、にっちもさっちもいかない状態になってしまった。こんなとき、あなたならどうしますか?
「自分の仕事の進捗(しんちょく)にもよるが、状況が許せば自分の判断で手伝ってあげる」という人が多いのではないでしょうか。
チームで仕事をする以上、これは好ましい姿ではありません。一時的にAさんは救われるかもしれませんが、人に依存することに味をしめてしまうかもしれません。
お互いさまだからまた別の機会に助けてもらえばよいという考えも危険です。そのような関係は助け合いではなく、もたれ合いです。個人の自立や、責任感や、やり遂げる意志が、知らず知らずのうちに摘み取られてしまいます。必ず、一方的にもたれる人、もたれられる人ができてしまい、決してお互いさまの関係にはならないはずです。
メンバー同士の「協力」はリーダーが決める
Aさんがプライベートな問題を抱えてどうしても仕事を完了できない事態に陥るなど、やむを得ないときもあります。Aさんのスキル不足、スケジュールの甘さなど、いろいろなことが原因になり得るでしょう。
そんなときはメンバー同士が機転を利かして助け合うのではなく、いったんチームリーダーに報告すべきです。リーダーが状況を判断し、リーダーの裁量で、メンバーをアサインして「協力」に当たらせるのです。この「協力」は、リーダーからメンバーに対して「新しい仕事を発注する(割り振る)」という扱いです。
Aさんには「個人的な貸し借り」ではなく、「チーム全体への借りを作った」という自覚を持ってもらうことが必要です。
一般に、チームの和を大切にする人は、助け合いの精神を発揮してしまいがちです。また逆に、自分が困った状況に立たされたとき、無意識のうちに人に対しても同じことを期待、要求してしまいがちです。メンバー間には、れっきとした「利害関係」があります。ボランティアで仕事をしている人はいないので、どんなときもけじめはきちんと付けるべきです。
ポイント
仕事の貸し借りはチームで調整する
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- チームの立ち位置を見える化する「関係マップ」
チームはチームの中だけで完結しているわけではない。自分のチームの立ち位置や周りとの関係性などを、マインドマップ風の図にして「見える化」してみよう - 会議の質を高めるために、リーダーが仕掛けるポイント
会議の5ステップ「巻き込み」「ぶつかり」「意味付け」「軸出し」「結び」、それぞれのステップでリーダーがメンバーをうまくファシリテートするためのポイントを解説しよう。 - 5つのプロセスで進める、効果的な会議ファシリテート
チームの運営には、かじ取りが必要だ。今回は、ファシリテートスキルを活用して、効率的に目的に進めるようにチームを導く方法を解説する。 - 自分の性格や思考の癖を把握しよう
多様な価値観のメンバーを率いるためには、まずリーダーが自分の性格や思考の癖を把握するとよいだろう。己を知ることによって、異なる価値観の集合体をまとめられるようになるからだ。